Chapter 42
電話を切った俊哉が、珍しく興奮して叫んだ。
「おい。お前達っ!!」
「んあ?」
そこには、竜也と充、薫がいた。
ここは、東京の俊哉達の住みか。
4LDKの部屋に、俊哉、竜也、充がそれぞれ金を出し合って住んでいた。
三人は、リビングでくつろいで、ゴロゴロしながらテレビを見ていた。
俊哉は、キッチンのカウンターテーブルに座り、コーヒーを飲みながら、電話をしていた。
「静流が…。静流が来るぞ」
俊哉が、嬉しそうに三人に話す。
「えっ?マジで?」
竜也と充も、嬉しそうなリアクションを返す。
「あぁ。今、遥と話してたんだが…。静流、この一年の間に色々あったらしい…。まだ、病気も治ってないらしくてな…」
俊哉が、遥との電話のやり取りの内容を、三人に話した。
「静流が病気…?」
竜也と充は、不安そうな表情を浮かべた。
「あぁ…。まぁ、とにかく、静流が、自分から話すまで、俺達から静流の事を、あれこれ詮索しない事。良いな?」
俊哉は、静流の事を気遣った。
「分かった」
「良し。そうとなれば…。お前達、後、4時間もしないウチに、静流が、ここへ来るぞ?駅まで迎えに行ってやろうぜ?」
「賛成っ!!」
三人の明るい声が響く。
「さぁ、早く出掛ける準備をするぞ?」
俊哉のその言葉に、四人はそれぞれ、外出の準備を始めた。
静流が、到着する一時間程前に、四人は揃ってマンションを出た。
東京駅―。
「間もなく、終点の東京です」
終点の合図を知らせる、アナウンスが聞こえた。
「いよいよか…。たった一年だったけど、長かったな…。思えば、俺は、麻紀にもらってばっかりだったね…。今度は、俺の番だ…。麻紀にいっぱい届けるから。俺の精一杯の「ありがとう」と「愛してる」をね…。じゃあ、麻紀?行くよ?」
俺は、そう呟いて、ネックレスの指輪を見つめた。
麻紀が、微笑んでいるように見えた。
「良しっ」
俺は席を立ち、頭の上の荷物棚から、スーツケースを取り、ギターケースを肩に掛けた。
新幹線のドアが開く。
俺は、生まれて初めて、東京の地面を踏んだ。
「ここが…、東京か…」
俺は、新しい一歩を踏み出した。
その時。
サングラス越しの、俺の目に、懐かしい顔が飛び込んで来た。
俺は、サングラスを少し下にずらして、目を凝らしてよく見た。
「間違いない…」
そう言うと、俺は、その懐かしい顔が見えた方向に走り出した。
「おいっ!!みんなっ!!」
俺は、その懐かしい顔に向かって叫んだ。
俊哉達が、俺の方を向く。
「静流ーっ!!」
竜也と充が、俺に飛び付いて来る。
「あはは…。久しぶりだなぁ。元気そうだな」
俺達は抱き合って、久しぶりの再会を心から喜んだ。
「静流?お前、ちょっと痩せたんじゃねぇか?ただでさえ、細せぇのに…」
竜也が、俺を心配そうに見る。
「あぁ…。ちょっと病気してたからな。でも大丈夫さ」
俺は、竜也に微笑んだ。
「そうか…。まぁ、無理はするな。調子が悪くなったら遠慮するなよ?俺達が出来る事なら、協力するから」
俺は、竜也の気遣いが嬉しかった。
「あぁ。ありがとう」
「静流?おかえり」
充が、微笑む。
「ただいま。充」
俺も、充に微笑んだ。
「俊哉?…ただいま」
俊哉が、微笑って言う。
「ったく、お前はしょうがないヤツだよ…。でも、まぁ、おかえり」
「みんな…。また、よろしくな」
「あぁ。今度は逃がさねぇからな」
俊哉達三人は、意地悪そうな顔で笑った。
俺は、もう一人いる事に気付いた。
「えっと…。その人は?」
俺は、薫を見た。
「おっと…。忘れてたな。すまん…、薫」
俊哉は、薫を見て申し訳なさそうに言った。
「いや、久しぶりなんだ。しょうがないよ」
薫が微笑んで、俺に近付く。
「はじめまして。俺、俊哉兄の従兄弟の、天城薫です。よろしくね」
薫が微笑って、俺に手を差し出した。
「はじめまして。俺は、霞静流。よろしくね。薫」
そう言って、俺達は握手を交わした。
「君が、俊哉兄の言ってた、静流なんだ。確かに、優しそうだね。でも、どこか淋しそうだよ?」
薫は、俺の顔を覗き込んだ。
「そうかなぁ…?だったら、後で俺の昔話でもしてあげるからさ。そしたら、俺が淋しそうに見える理由、分かるかもね」
俺は、意地悪く微笑ってごまかした。
「さぁ。みんな、俺達はまた新しく生まれ変わった。これからは忙しくなるからな。気合い入れて行けよ?」
俊哉が、俺達に発破を掛ける。
「あぁ。望む所だ」
俺達は、声を揃えた。
「じゃあ、いつものアレ、やるか?」
俺は笑顔で、四人に提案した。
「いつものアレって?」
薫が、俺達の顔を見る。
「まぁ、やれば分かるさ。さぁ。みんな、手を繋げっ!!」
俊哉の合図で、俺達五人は手を繋いだ。
「良いか?「せーの」で飛ぶからな?」
薫を見て、俊哉が微笑む。
「じゃあ、行くぞ?せーのっ…!!」
俺達五人は、繋いだ手を高く挙げ、目一杯ジャンプをした。
それは、ライブの最後で、観客やメンバー同士の繋がりや絆を深める為にやっていた、儀式みたいな物だった。
駅のホームには、嬉しそうな、五人の男達の笑顔があった。
「音楽と心」という、目に見えない、深い絆で繋がれて…。




