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Chapter 3


飲み会当日―。



俺は、昼間に少し用事があった為、早めに家を出た。



用事が済んだのが、夕方5時過ぎ。



約束の6時には、急げばギリギリ間に合う。



竜也から、電話が掛かって来た。



「静流。今、どこだ?」



「今、そっちに向かってるよ。竜也は?」



「これから、家を出る所」



「分かった。後でな」



「あぁ」



電話を切り、近所のバス停に、タイミング良く来ていたバスに飛び乗った。



バスは20分程で、駅前に到着。



バスから降りて、目的地の居酒屋まで走る。



バスの終点から5分程で、約束の居酒屋に着いた。



「いらっしゃいませ~」



若い女性店員が、明るい元気な声で迎えてくれる。



居酒屋には既に、学生達と思われる、賑やかな集団がいた。



「何名様ですか?」



「いや、先に来てる友達を探してるんですが…」



女性店員にそう言って俺は、竜也と松岡を探して辺りを見回した。



そして、ゆっくりと店の奥へと歩き出した。



(多分、それらしい奴らだと思うけど、ホントに大丈夫なのか…?)



店内の一番奥の席に差し掛かった所で、見慣れた顔ぶれを見つけた。



竜也と松岡だ。



「おっ!!静流。こっち、こっち」



竜也は嬉しそうに手招きをしながら、俺を呼ぶ。



「悪い、待たせたな…」



「いや、良いさ。それより、早く座れよ。乾杯するからさ」



「あ…、あぁ…」



松岡に促され、俺は竜也の横に座った。



一番最後に来た俺が席に着いた事を確認して、松岡による乾杯の音頭が掛かる。



「じゃあ、みんな揃ったようだし…。俺達の初の交流会を記念して…」



「カンパーイっ!!」



全員が、それぞれのジョッキやグラスに口を付け、それぞれが好きなように酒を飲み始めた。



俺は、全力で走ったせいで喉がカラカラだった。



ジョッキに注がれた、真っ白な雪のような泡に塞がれた、黄金色の液体の中で、



『プクプク…』



と言う具合に、小さなシャボン玉のような無数の炭酸の泡が弾けている。



ジョッキは、その冷たさを物語るように、まるで、汗をかいているかのような結露を起こしている。



俺の手元の、その冷たくて美味しそうなビールの誘惑に負け、一気に飲み干し、渇いた喉を潤した。



『ゴクッゴクッ…』



「…ぷはぁっ」



そして俺の横に座っている竜也は、ビールに目もくれず、目の前に座っている女の子のケータイ番号を聞きだそうと必死に話を盛り上げようとしていた。



(おいおい…。コイツは…)



俺は、そんな竜也呆れた表情で見ながら、近くを通り掛かった店員を呼び、ビールの追加を頼んだ。



すると、ちょうどそこへ、松岡が会費を回収しにやって来た。



「どう?楽しんでるかい?」



松岡は、笑顔で俺に問い掛けた。



「あぁ、まぁ…。それよりも、松ちゃん?コイツどうにかしてくれよ…」



俺はうんざりしたような表情で、親指で俺の背後にいる竜也を指差した。



「…ま、まぁ、良いんじゃない?」



松岡も、必死な竜也を見て呆れた表情を浮かべ、苦笑いをしていた。



そんな俺達に、気付いているのか、いないのか…。



竜也は、いつに無く一生懸命だ。



(駄目だ…コイツは…)



俺は、竜也を横目で、



『チラリ』



と一瞥し、そのまま無視するように、手元のジョッキを口元へ運んだ。



酔いが回り、少し気持ちが良くなって来た頃には、不思議と俺にも少しずつ笑みがこぼれていた。



ふと気が付くと、俺は自分の真後ろの席に座っていた女の子と話をしていた。



会話の内容までは、はっきりと憶えてはいないが、確かに笑っていたような記憶だけはある。



そして、そんな俺達の会話を邪魔するように、



「うぉぉぉっ!!やったぁぁぁっ!!」



と、奇声を発する者がいた。



突然の大声に、俺は背筋が、



『ビクッ!!』



と、伸びる程驚いた。



(なんだぁ?いきなり…)



そう思い顔をしかめながら、大声の出所を辿ると…。



大声の主は竜也だった。



自分のケータイを片手に、まるで子供のように喜び、はしゃいでいた。



状況から察するに、どうやら、やっと女の子の電話番号でも教えてもらったのだろう。



(ったく。うるせぇなぁ…)



両方の人差し指を両耳に当て、顔をしかめながら、俺はトイレへ向かった。



暫く経って、トイレから出た途端、俺は酔ったせいなのか急に足の力が抜けて足元よろめき、何かに躓た。



そして、その場へ崩れるように倒れ込んでしまった。



「痛ってぇ…」



俺は、自分でも一瞬何が起きたのか理解出来なかった。



すると、俺のそれを一部始終見ていたかのように女の子が現れ、



そっと優しく肩を貸してくれた。



「大丈夫?」



「あぁ…。ありがとう。少し酔ったみたいだ」



俺は微笑みながら、その女の子にそう言って、ゆっくりと自分の席へ戻った。



静かに席に座り、タバコを口にくわえて火をつけた、その時。



見知らぬ男が、目の前に座り、何か文句でも言いたげな表情で俺を見た。



「なんだ?」



俺はその男の目を見つめ、静かに問い掛けた。



「…アイツ、俺の女なんだ。手を出さないでくれないか?」



どうやら男は、自分の彼女が、転んだ俺に手を差し伸べた事が気に入らないらしい。



「あぁ?ちゃんと見てなかったのか?別に、手を出した訳じゃ無いだろう。ただ、転んだ時に手を貸してくれただけだ。アンタも男なら、それくらいは目を潰れよ。大体、つまらねぇ理由の男の嫉妬は醜いだけだぞ?」



俺はその男を一瞥し、手元のジョッキに手を伸ばした。



「…なら良いんだ。じゃあなっ!!」



その男は、俺の言葉を聞いて状況を理解し安心して、言い掛かりを付けてしまった自分の非を認めたのか、それとも、俺に皮肉を言われた事に対して図星だったのかは分からないが、そう言いながら立ち上がり、逃げるようにその場を離れて行った。



(いちいち、何しに来たんだ?小さい男だな)



と、思いながらも、



(いちいち、細かい事で目くじら立ててたら、それこそ、今のヤツと同類になっちまう…。まぁ、気にすんな)



と、気を取り直して、またビールを口に運ぶ。



心の中にモヤモヤした感覚が残った俺の気も知らない、ただの酔っ払いと化した竜也は、



「静流~。俺、番号ゲットしたぞ~」



と、嬉しそうに話掛けて来る。



「あぁ、見てたよ。良かったな」



「お前も、もっと盛り上がれよぉ~」



(別に良いだろ…。俺には、俺のペースがある…)



そう思いながら、竜也を軽くあしらいビールを無心に飲み続けた。



それから、暫くは穏やかな時間が流れた。



そして、宴会の時間が残りわずかになった辺りで、松岡が全員に向かって大声で締めの挨拶を叫んだ。



「そろそろ時間なので、お開きにします。お楽しみの所すいませんが、続きは個々にお願いします」



(やれやれ…)



締めの挨拶が終わるや否や、竜也は嬉しそうに俺にこう言った。



「静流、この後カラオケ行かないか?女の番号ゲットした事だしさ」



「あぁ、別に良いよ」



俺は、



(このまま帰っても暇だし、それなら…)



と、竜也の誘いを簡単に受けてしまった。



「じゃあ、また、この前のコンビニに集合だぞ?」



「あぁ、分かった」



俺達は、そのコンビニに向かった。



「あれ?竜也、どこ行った?」



居酒屋から出て行く集団に紛れて、竜也がどこに行ったのか分からなくなってしまった。



「まぁ、良いか。さっき、あのコンビニって言ってたしな」



そう、呟きながら、タバコに火をつけた。



そして、待ち合わせ場所のコンビニへ、一人歩き出した。



15分程で、集合場所のコンビニに到着。



そこでは、竜也が既に待っていた。



「おっ?やっと来たか」



「ちょっと、コーヒーとタバコを買って来る」



竜也に一言そう言って、俺は店の中へ入った。



店から出ると、竜也がケータイ片手に必死に電話を掛けている。



「何やってんだ?」



「いや、さっきの女の子に電話掛けてんだけど、繋がらなくてさ…」



(どうせ、そんな事だろう…)



そう思いながらも、買って来たコーヒーを竜也に渡した。



「サンキュー」



酒で火照った頬に、当たる夜風が心地良かった。



俺は、竜也が座っている駐車場の車止めの横にしゃがみ、タバコをふかしながら竜也の様子を黙って見ていた。



「どうだ?」



「駄目だ。電話に出ねぇ…」



「まぁ、諦めるんだな」



その時の俺は、心の中で、



「あれだけしつこかったんだ。まぁ、聞かれた方は根負けするよな…。ただ、しょうがなく番号は教えた。それだけだ。仮に、相手から電話が掛かって来たとしても、無視するか、拒否すれば良いだけだしな…」



と、電話を掛け続ける竜也を見ながら、



「正に、その状況だな…」



と、笑いを必死に堪えていた。



そんな素っ気ない俺の態度と、電話を無視する相手に怒ったのか、竜也は、



「お前は遊びたくないのかよ?」



と、俺に一瞥をくれながら言った。



「…別に」



俺は、その女の子と話した覚えは無いし、大体、遊びに誘う事すら考えてなかった為、竜也に何を言われようが、別に至って普通の心境だった。



むしろ、竜也の行動を見ている方が楽しくて付いて来たような物だった。



それから暫く時間が経った。



竜也も、やっと諦めたのか、



「帰るか?」



と、少し残念そうな表情を浮かべながら言った。



「そうするか」



俺は、竜也の残念そうな顔を見た途端、吹き出しそうになった。



「何だよ?」



竜也は、不審者をみるような目で俺を見ながら言った。



「別に、何でもない」



俺はそう言いながら、竜也から顔を背けた。



「さてと…。じゃあ、俺はタクシーで帰るから」



俺は逃げるように、タイミング良く走って来たタクシーを捕まえた。



「じゃあな。おやすみ、竜也」



「あぁ。おやすみ」



そう言ってタクシーに乗り、竜也と別れた。



その後の事は、酒のせいでほとんど記憶に残って無かった。



翌日。



俺が目を覚ましたのは、昼を大きく過ぎた、3時頃だった。



ベッドからゆっくりと起き上がり、竜也に連絡を取ろうとケータイに手を伸ばした。



そして自分のケータイの電話帳を見て、



「ハッ」



とした。



「誰だ?この女?マユ?」



どうやら、酔っ払いながらも、知らない内に俺も番号を交換していたらしい。



「いつの間に…?」



自分の記憶を辿るが、よく思い出せない。



そして、酒に酔った上での記憶に無い番号交換なだけに、連絡を取る気も無く、



「即消去」



という結論に至った。



データを消して、竜也に連絡を取る。



『プルルル…』



「もしもし?竜也?今日、休みだろ?暇か?」



「あぁ、ついさっき起きた所だ」



「暇だから、駅前に遊びに行かないか?」



「あぁ、良いぞ。準備出来たら迎えに行ってやるよ」



竜也は、俺の誘いに素直に応じた。



しかも、迎えにまで来てくれると言うおまけ付きで。



「あぁ、頼む」



電話を切り、俺はいそいそと外出の準備を始めた。



電話から一時間程経って、竜也が迎えに来た。



「待たせたな、静流」



「いや、大丈夫だ」



駅前に遊びに行く途中、竜也の車の中で、昨日の出来事と、番号を消した事を話した。



「はぁ?お前、バカだな。なんで消すんだ?もったいない…」



(うるせぇなぁ…)



「お前なぁ?彼氏持ちでも、こっちに鞍替えって事もあるんだぞ?」



(どうせ、虫付きの女なんだ。興味も湧かないね)



そう思いながら、竜也の小言を聞き流すように頭の後ろで手を組み、外の景色を眺めていた。



その時は、これから自分の身に起こる出会いが、竜也の言っていた事になるとも知らずに…。




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