Chapter 35
「じゃあ、瑞希。ご馳走様」
そう言って、四人は席を立った。
「ありがとう。また来てね」
瑞希が、笑顔で見送ってくれる。
「あぁ…。美味かったなぁ」
満たされた腹を、充は「ポンポン」と軽く叩いた。
「ところで、薫?ライブハウスはここから近いのか?」
俊哉が、薫に問いかけた。
「あぁ。10分くらいで着くよ」
四人は、雑談をしながら、ゆっくりとライブハウスへ向かった。
ふと、全員の足が止まった。
「…ここか?」
俊哉が、薫の顔を見た。
「そう。ここが、俺のバンド仲間達のホームグラウンドだよ」
四人の目の前には、5階建ての、大きな白いビルが立っていた。
三人は、地元のライブハウス以上の規模に、息を飲んだ。
「すげぇ…。やっぱり出て来た甲斐があったな…」
竜也が、ビルを見上げる。
「ちなみに、1階と2階は楽器売り場だからね」
薫が補足する。
「もし、こんな場所で、俺達がワンマンやったとして…、会場が満員になったとしたら、俺達は、また一歩夢に近付けそうだな」
俊哉は、今にもライブをやりたそうな表情を浮かべた。
「ここならさ、ドラムセットもう少しデカく出来そうだよね」
充が嬉しそうに言った。
「今日は、3階以上は開いてないから、中、見れないけどね」
薫が、申し訳なさそうに、苦笑いを浮かべた。
「いや、雰囲気だけで十分だ」
俊哉は、拳を握り締めた。
「ようし…。やるぞ。絶対にやってやる」
俊哉達、三人は同じ事を思い、武者震いをしていた。
「ところで、薫は、ライブしないのか?」
竜也が、薫に問いかけた。
「うーん…。俺、今、バンド抜けちゃったからなぁ」
薫が、頭を掻きながら言った。
「なんだ?どうして?」
俊哉は、心配そうに聞いた。
暫く、薫は黙っていたが、突然、重い口を開いた。
「いやぁ…。恥ずかしい事に、ケンカしちゃったんだよね。音楽の事とか、メンバー関係で…」
更に、薫は続けた。
「それは、かなり前からあったんだけど、この前、人間関係で、とうとう我慢出来なくなって、俺がキレちゃってさ…。「もう、辞めた」って、一方的に抜け出してやったんだよ」
薫は、苦笑いをしながら、三人を見た。
「そうだったのか」
三人は、妙に納得した表情を浮かべた。
「まぁ、人間だからな。しょうがない」
竜也は、薫を見て微笑む。
「その点、俊哉兄のトコは良いよね。みんな、仲良いしさ。やってて楽しいだろ?」
薫が、羨ましそうに三人を見た。
「まぁ、仲良いかどうかは知らないが…。俺達は、たまたま、巡り合わせが良かったんだろう。たまに、小さな言い争いはあるが、ケンカはしないからな。それに、音楽の方向性も今の所、一致してるしな」
俊哉が微笑みながら、竜也と充を見た。
「あぁ。俊哉の言う通りだ」
竜也と充が、声を揃える。
「良いなぁ…。楽しそうで…」
薫が、三人を見た。
「…なぁ?俺も、俊哉兄達のバンドに混ぜてくれない?」
薫が、唐突に三人に言った。
三人は目を丸くした。
「俺は、別に構わないが、コイツらがどうかな…?」
俊哉が、竜也と充を親指で指差しながら言った。
「俺も構わないぞ」
「俺も平気。薫となら楽しくやれそうだしね」
竜也と充も、歓迎する。
「じゃあ…」
薫の顔色が明るくなった。
「あぁ。コイツらが良いって言ったんだ。どこに拒否する理由がある?」
俊哉が微笑んで薫を見る。
「みんなありがとう」
薫が、三人に深々と頭を下げた。
「ところで、お前、確かギターだったろ?俺達、ヴォーカルも欲しいんだが…」
俊哉が、薫に「誰か紹介しろ」と言わんばかりに言った。
「大丈夫。俺、前のバンドでギターヴォーカルしてたから。静流の代役は、俺に任せて」
薫が、自信ありげに胸を張る。
「そうか。だったら、問題無いな」
俊哉が、ホッとした表情を浮かべた。
「ただし、静流の代役に足るかどうかは分からないけどね…」
薫が、苦笑いをする。
「そんなもん、やってみなきゃ分からないだろ?」
「そうそう。やる前から駄目だって決めつける事ないじゃないか。やって駄目ならしょうがないけどさ」
竜也と充が口々に言った。
「みんなありがとう。俺、頑張るからさ。これからよろしくね」
「あぁ。俺達の方こそ、これからよろしくな、薫」
こうして、更に新しくなったB-Raveは、夢へ向かって、また一歩、歩き始めた。
この後、B-Raveは更に大きく進化する事を、この時はまだ、誰も知るよしも無かった。




