Chapter 34
一通り食事も済み、それぞれがタバコをふかしながら、音楽の話をしていた。
そこへ、瑞希が現れた。
「もう、大丈夫かな?キレイに食べてくれたんだね。ありがとう」
四人は、瑞希に微笑んだ。
「ご馳走様。美味かったよ」
それを聞いた瑞希は、恥ずかしそうに言った。
「良かった。実は、ランチ作ったの、あたしなんだ…。ちょっと不安だったけど、みんなにそう言ってもらえて嬉しいよ」
「えっ?瑞希の手作りだったの?しまった…。ゆっくり味わえば良かった…」
薫は、残念そうに呟いた。
「あはは。大げさだよ、薫」
瑞希は、笑った。
「いやいや、これなら、きっと良いお嫁さんになれるんじゃないか?」
竜也が、瑞希を誉めた。
「もう。竜也まで」
瑞希はそう言って、顔を赤くしながら、竜也の肩を軽く押した。
「いや、ホントに美味かったよ。俺、このランチならもう一人分、食える自信があるよ」
「充。お前、ホントにバカみたいな食欲だな。「痩せの大食い」とは良く言ったもんだ…」
俊哉が、ため息をついた。
「でも、確かに美味かった。これなら、1000円近く取られても文句無いな」
俊哉も、笑顔を浮かべて満足していた。
「へへっ。みんな、ありがとう。あたし、ちょっと自信出ちゃった。このお皿とか下げて、コーヒー持って来ても大丈夫?」
「あぁ。頼むよ」
薫が、瑞希に微笑んで頼む。
「じゃあ、ちょっと待っててね」
そう言うと、瑞希は慣れた手付きで、空の食器を積み重ね、持って来たトレーに乗せる。
それを器用に、落とさないように左右の手の平に乗せて、店の厨房へ運んで行った。
コーヒーを待つ間、竜也が言った。
「あの子、ホントに良い子だな。真面目だし、明るくて物腰柔らかいし…。薫、狙っちゃえよ?」
「えぇ…。俺、そんな自信無いよ。瑞希は確かに、可愛いし良い子だけど、俺なんか、絶対相手にされないよ…」
薫が、自虐的になった。
「確か、こんなヤツ、俺達の身近にもいたよな…?しかも、ついこの前まで…」
俊哉がそう言うと、竜也と充も声を合わせて言う。
「いたいた…」
三人の頭の中には、地元に置いて来た、静流の顔が浮かんでいた。
「えっ?誰?誰?」
薫が、三人の話題に首を突っ込む。
「あっはは。そう言う風に、話に首を突っ込んで来る所も一緒だな」
俊哉が笑う。
「えぇ…。誰だよ?」
なかなか教えてもらえない薫は、不満そうな表情を浮かべた。
「俺達のバンドのヴォーカルだよ。静流って言ってな。女の前じゃ、どうしても自分を出せない、「超」が付くくらい奥手なヤツがいてな。薫と、静流が似てるなぁって、思ってたとこだ」
「そうそう」
俊哉が言った後、竜也と充も声を揃える。
「へぇ。静流ってヴォーカルがいたんだ。なんで、一緒に来なかったの?」
薫が、更に深く掘り下げる。
ちょうどそこへ、瑞希がコーヒーを4つ、トレーに乗せて持って来た。
「お待たせ。どうぞ」
瑞希が四人の前に、コーヒーが注がれたカップを静かに置いた。
「これ、ミルクとお砂糖ね。はい」
そう言って、四人の真ん中に、角砂糖の入った、コルクで蓋をしてある小瓶と、ミルクの入った小さな水差しを置いた。
「何の話してたの?みんな、すごく楽しそうだったけど?」
瑞希まで、興味津々だった。
「俊哉兄達のバンドのヴォーカルが、俺の性格と似てるらしいんだよ」
薫が、瑞希に簡単に内容を教える。
「へぇ。薫みたいな奥手なタイプ、そうそういないと思ってたのに…。いる所にはいるんだね。フフッ」
そう笑いながら、瑞希は薫を見た。
「で、その静流は、今、何してるのさ?」
話をはぐらかすように、薫が、俊哉に詰め寄った。
「あ?あぁ。アイツな…。夢よりも、好きな女を取った」
俊哉が、笑顔で淡々と言った。
「へ?」
薫は、いまいち理解をしていない。
俊哉は、これまでの事を、薫と瑞希に教えた。
「ふぅーん。俺、そこまで好きな人出来た事ないから、よく分かんないや」
薫の反応はいまいちだったが、瑞希は違った。
「素敵な人じゃない。あたしは、話を聞いただけだけど、すごく優しい人なんだっていうのは分かったよ。良いなぁ。静流君の彼女さん…。そんなに思ってもらえるなんて…。あたしも、そんな彼氏欲しいな…」
そう言って、瑞希は薫の顔を覗き込んだ。
「な…、何だよ?」
薫が、少し戸惑う。
「はぁ…。あたしには、まだまだ見つかりそうにない…か」
ため息混じりに、瑞希がぼやいた。
「ホラッ。薫、お前。瑞希は、お前に気があるぞ」
竜也が、小声で薫に耳打ちをする。
「え?」
「鈍いヤツだなぁ…。お前の顔見てぼやいてんだぞ?瑞希は、お前に声をかけてもらいたいんだよ」
竜也が、更に薫に言った。
「でも…、俺…」
自信が無さそうな薫に、俊哉が気合いを入れる。
「お前、ここで行かなきゃ、男じゃねぇぞ?「据え膳食わぬは武士の恥」みたいに大げさじゃねぇけどさ。こんなチャンス、滅多にねぇぞ?夜になったら、ちゃんと瑞希に連絡してやれ。分かったな」
「あ…、あぁ。分かった」
二人の気迫に気圧されて、薫は、瑞希に言った。
「瑞希?」
瑞希は振り向いた。
「何?」
「あ、あのさ…。今日は、ご馳走様。また、夜にでもメールして良いか?」
薫の顔が赤くなった。
「ちゃんと、メールしてね?絶対だからね?」
瑞希が、薫に釘を刺す。
「あ…、あぁ。絶対するよ」
「じゃあ、あたしは仕事あるから。みんな、ゆっくりして行ってね」
瑞希は、嬉しそうな表情で、店の中へ入って行った。
「何なんだ?一体…」
薫が、あっけに取られていた。
「ホントに鈍いヤツだな。瑞希はお前に惚れてんの。単純な理由。その証拠に、静流の話をした時、薫の顔を覗いたろ?その後で、薫を横目で見ながら、ぼやいてた。ほぼ確定じゃねぇか」
珍しく竜也が熱くなった。
「そうそう。お前、もう少し女心分かってやれ。その辺りは、静流とは違うな」
俊哉が、苦笑いを浮かべた。
「そうかな…?確かに、瑞希可愛いし、俺も、瑞希好きだけど…。下手な事言って嫌われないかな…?」
薫が、不安そうに俊哉と竜也を見る。
「大丈夫。上手く行くさ。男なら当たって砕けるくらいで行けよ」
竜也が、薫の後押しをする。
「薫?もう少し、自分に自信持て。お前なら大丈夫だ」
俊哉は、薫に微笑んだ。
その時。
「あぁ…。コーヒー美味かった」
充が、場違いに間抜けな発言をした。
「お前はやっぱり、花より団子かよ…」
俊哉が頭を抱えた。
「え?何が?」
充は、空気を理解していなかった。
「まぁ、お前らしいと言えば、お前らしいか…」
俊哉が、ため息をつきながら、苦笑いをする。
張り詰めた空気が、充の一言で一気に和んだ。
「さぁ。コーヒー、すっかり冷めてしまったけど、飲んだら行くとするか」
俊哉が、三人をまとめる。
「賛成」
桜の散り始めた季節の昼下がり。
とあるカフェでの、他愛の無い風景の一コマだった。




