Chapter 31
俺は、その翌日から、真剣に仕事を探そうと決めた。
「じゃあ、姉ちゃん。ちょっと行って来るから」
「行ってらっしゃい。仕事、いっぱいあると良いね」
「あぁ。そうだね。これから頑張らないと。じゃあ、行って来るよ」
そう言って俺は、駅前のハローワークへ、職探しに出掛けた。
「さすがに、混んでるなぁ…。やっぱり、どこも不景気なんだな…」
そう、独り言を呟いて、ハローワークの受付へ向かった。
「すいません。仕事探したいんですけど…」
「初めてですか?」
「はい」
「では、こちらの記入用紙に、お名前とか必要な事項を、後ろの机で書き込んで、またこちらへ来てください」
「はい。分かりました」
俺は、受付の人に言われた通り、案内された机で書類に必要事項を書き込んだ。
書類が書き終わる頃には、受付前に、五、六人が既に並んで、順番待ちをしていた。
(仕事探すのも、楽じゃないな…。まぁ、不景気だししょうがないか…。麻紀を幸せにする為だ。我慢、我慢…)
そう、心の中で自分に言い聞かせた。
やっと、順番が回って来た。
「はい。出来ました」
「じゃあ、こちらをお預かりしますね。求人が掲載されたパソコンを、ご覧になりますか?」
「はい。見せてください」
「では、13番の番号のシールが貼られたパソコンを使ってください」
そう、受付の人に言われ、13番の番号札を渡された。
俺は、その番号札を手に、「13番」のパソコンへ向かった。
(えぇっと…、13は…。あった)
俺は、目的のパソコンの前に立った。
椅子を引き出し、椅子に座る。
パソコンの画面はタッチパネル式になっていて、地域や職種、給料の条件から探せるようになっていた。
「とりあえず、給料だよな。金が無いと何も出来ないしな」
俺は、迷わず給与面で探す事にした。
「えぇっと…。月給は…、最低でも20万は欲しいから、20万と…」
パソコンは瞬時に、月給20万円以上の求人を表示した。
「へぇ…。結構あるんじゃん。おっ?これなんか良さそうだ。高卒OKだし、日曜休みだしな」
俺は、何件か良さそうだと思えた求人をピックアップし、求人票をプリントアウトした。
それを手に、受付へ戻る。
「ありがとうございました」
俺は、受付へ番号札を返した。
「はい。霞さんの登録が出来ましたので、次回から、このカードをお持ちくださいね」
受付の人から、一枚のカードと、職業訓練等の案内が書かれた紙をもらった。
「霞さんですと、この案内状の表側の職業訓練コースよりも、裏側の資格の取得のお手伝いが出来るコースの方が、良いかもしれませんね。まだ、お若いですし。どうされますか?」
受付の人が、親身になって案内をしてくれる。
「今日は、時間が無いので、また検討して来ます」
俺は、そう言って、ハローワークを後にした。
俺はその足で、駅までバイト上がりの麻紀を迎えに行った。
「おかえり。お疲れ様」
俺は、麻紀に微笑んだ。
「ただいま。どうだった?」
麻紀も、自分の事のように、気に掛けてくれていた。
「うん。何件か良さそうな仕事があったよ。麻紀にも見てもらいたいからさ、ちょっと寄り道しない?」
俺はそう言って、麻紀の手を引き、駅前のカフェに入った。
麻紀は、いつになく難しい顔をして求人票を眺めていた。
「俺、これなんか出来そうだと思うんだよね」
俺が指差したのは、大きな工場内の、機械や設備の補修の仕事だった。
麻紀は、少し不安そうな表情を浮かべて言った。
「大丈夫?この仕事、下手したら、大ケガだけじゃ済まないかもよ?」
俺は、不安そうな麻紀を見て頭を撫でた。
「心配してくれてありがとう。でも、俺は大丈夫。それに、俺が、麻紀を幸せにするんだから、俺は命賭けなきゃ…ね」
「あたしの為に、静流の大事な命賭けなくて良いから…。それよりも、毎日元気で帰って来てね?」
麻紀は、心配そうな顔をしていた。
「大丈夫。俺だって、麻紀と、ずっと一緒にいたいから。だから死なないよ。だけど、せめて命賭けるくらいの気合いで頑張らないと、麻紀を悲しませてしまうから…」
俺は、麻紀に微笑んだ。
「うん。だったら、静流が思うように頑張ってみたら良いよ」
麻紀がやっと、俺に微笑ってくれた。
「でも、約束だよ?絶対に毎日元気で帰って来るって。あたし、静流に何かあったら悲しいから…」
麻紀が、舞い上がる俺に釘を刺した。
「うん。分かってるよ。俺だって、麻紀を悲しませたくないから」
そう、麻紀に微笑みかけて、俺は、コーヒーを口に含んだ。
それから暫く、俺達は、これからの二人について話し合った。
「静流は、仕事決まったらどうするの?」
「そうだな…。とりあえず、金貯めて、家を出て一人暮らしをしてみようかなって」
「静流が一人暮らし出来るの?なんか心配だよ」
麻紀が、ため息混じりに呟いた。
「なっ…。失礼な。ちゃんと飯くらい作れるし。洗濯機は使い方分からないから、説明書読んでだな…。うんうん…」
「ほらっ。やっぱり不安だよ。あたし、時々覗きに行くからね」
麻紀は、俺の事がほっとけないらしい。
「じゃあさ…。じゃあ、そう思うなら、俺と一緒に住まないか?」
「えっ?」
麻紀は、一瞬、戸惑った表情を浮かべた。
「俺と、同棲して欲しい。だから、家を出ようと思ってるんだ」
俺は、麻紀に自分の思いを打ち明けた。
「うん。あたしも、静流と一緒に住みたい。でも、いきなりは難しいから、だんだん移り住むようになっても良い?」
「あぁ。それでも構わないよ。麻紀と一緒に暮らせるなら」
俺は、麻紀に微笑んだ。
「うん。これでずーっと一緒だね」
麻紀の顔が、少し赤くなった。
「うん。寝ても覚めても、ずっと一緒。嬉しさも楽しさも、今まで以上だよ?それに何より、辛い時や悲しい時は、二人で分け合えるから、今までの半分にもなるしね」
「そうだね。ねぇ?静流?」
「うん?」
「あたし達、二人で頑張って一緒に住もうね」
「あぁ。それで、いつかは、俺達結婚して…。子供もいて…。楽しいだろうね」
「うん。楽しみだね。静流となら、楽しい家庭になりそうだしね」
「あぁ。俺、麻紀の為に、俺の、未来の家族の為に、一生懸命頑張るよ」
それはまだ、桜が散り始めた頃の季節の事だった。
それから、麻紀と出会って二回目の夏が来ようとしていた。
運命の歯車が、少しずつ「狂々(くるくる)」と回り始めていた。




