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Chapter 30


車内のデッキでは、暫く無言の状態が続く。



新幹線の車内には、行き先を知らせるアナウンスと、新幹線の走る風切り音だけが、ただ、悲しく響き渡る。



「静流…」



竜也が、俺に気遣うように口を開く。



「戻るなら、今の内だぞ?俺達の事は気にしなくて良いから」



「そうだぞ。竜也の言う通りだ。今のままの気持ちでやっても、結果は付いて来ないからな。まだ迷ってるなら、戻ってやれ」



俊哉が、竜也に続いて落ち着いた口調で言った。



「俺達は、大丈夫。静流は、麻紀ちゃんを幸せにしてやれよ」



充は微笑みながら、俺の顔を覗き込んだ。



俺は、三人の方を振り向いた。



「みんな…」



俺は、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



「ったく…。ホントにお前は、不器用なヤツだな…」



俊哉が、呆れた表情で俺を見る。



「ごめん。みんな。ホントにごめん。俺、やっぱり麻紀がほっとけないから…。ホントにごめん」



俺は、深く頭を下げて謝った。



「何、謝ってんだよ?謝るのは俺達にじゃないだろ?」



こんな時でも、三人は、優しく微笑んでいた。



「みんな、ありがとう。俺、ホントに情けなくて…。ごめん。ありがとう。俺、みんなと一緒にいれてホントに良かった…」



俺は、三人に感謝の気持ちを伝えた。



「分かったから、さっさと、次の駅で降りて、Uターンしろよ?」



俊哉は、笑顔で俺の背中を叩く。



「俺達は、三人でお前の分もやってやるから、安心しろ」



竜也が、俺の胸に拳を当てた。



「あぁ。後は頼んだ。俺も機会があれば、東京に行くから」



「あぁ。待ってるからな」



三人は声を揃えた。



ちょうどその時、俺達のやり取りを見計らったように、タイミング良く、次の停車駅を告げる、車内アナウンスが流れて来た。



「お別れだな。静流、元気でな」



「あぁ。みんなも元気でな。みんななら、きっと上手く行くから」



新幹線は、ゆっくりと次の停車駅のホームへ滑り込んだ。



静かに止まり、ドアが開く。



「ホラッ。さっさと行け」



俊哉が微笑みながら、意地悪く俺の背中を押す。



「またな」



「あぁ…。またな、みんな」



俺は三人と握手を交わして、ホームへ降りた。



ホームからドア越しに、手を振って三人を見送った。



三人を乗せた新幹線は、静かに、東へ向いてホームを離れた。



「ごめんな…。俊哉、竜也、充。みんなありがとう」



段々と小さくなって行く、白い影を見つめて、そう呟いた。



「さて…と。俺も、俺の新しい居場所に帰らないとな」



俺は、麻紀の元へ急ぐ為に、反対側のホームへ走った。



階段を駆け下り、人の波をすり抜けて、反対側のホームへ続く階段をまた、駆け上がる。



俺が、反対側のホームに出ると、正に、俺を待っていたかのようなタイミングで、新幹線が止まっていた。



俺は、迷うことなく、それに飛び乗った。



「今帰るから。待っててな。麻紀」



俺は、息を切らしながらそう呟いて、窓の外の青空を見上げた。



新幹線が、ゆっくりと麻紀の元へと向けて、ホームを離れ始めた。



静かな車内で俺は、麻紀や、俊哉達との今までの事を回想していた。



新幹線は、俺の気持ちを察したかのように、スピードを上げた。



さっき、俺が、俊哉達に促されUターンした駅から、僅か30分足らずで、麻紀の待つ、地元の駅へ到着した。



俺は、ドアが開くと同時にホームへ飛び出した。

(麻紀っ)



俺は、さっき俺達が出て行ったはずの、反対側のホームへと目を向けた。



エスカレーターの傍のベンチに、うつむいて座っている女の子が見えた。



俺は、反対側のホームへ向かって全力で走った。



人の波をすり抜けながら、エスカレーターを駆け下りて、反対側のエスカレーターをまた駆け上がる。



ホームへ上がり、麻紀が見えた場所へ、息を切らしながらゆっくりと向かう。



呼吸を落ち着け、ベンチにうつむいて座っている、麻紀の前に静かに立った。



「何、泣いてんだ?」



俺は、手の平で軽く麻紀の頭を「ポンポン」と叩いた。



「…えっ?」



麻紀は、一瞬何が起こったのか分からないと言った、戸惑いの表情を浮かべた。



そして、次の瞬間、混乱する頭の中で、状況整理が出来たのか、俺に飛び付いて声をあげて泣いた。



「おっと…」



「うわぁぁん…。静流…。やっぱりあたし淋しかったよ…。ダメだったよ…」



俺は、そんな麻紀を、ただ、優しく抱き締めて、頭を撫でてやる事しか出来なかった。



「麻紀。もう大丈夫だから。もう絶対に離れる事はないから」



麻紀は、真っ赤になった目で俺の顔を覗き込んで言った。



「静流?バンドは良いの?夢は?」



「もう良いんだ。麻紀を悲しませてまでやる程の事でもないし…。俺は、音楽よりも、麻紀の方が大切なんだって気付かされたから…」



「…うん。ホントに良いの?」



「あぁ。麻紀がいなくなるよりはずっと良い。麻紀がいてくれるなら、俺のちっぽけな夢なんか、どうだって良いよ」



「うん。静流?」



「うん?どうしたの?」



「ありがとう。大好き」



そう言って、麻紀は俺の頬に小さくキスをした。



俺は、麻紀に手を差し出して言った。



「帰ろうか?」



「うん」



手を繋いで、ゆっくりとエスカレーターに向かう。



それまで泣いていたはずの麻紀が、いつものように楽しそうに俺に話かけてくれる。



麻紀は、エスカレーターに乗ると、手を繋いだまま、俺に肩を寄り添わせて来た。



俺は、そんな麻紀を愛しく思い、



「もう絶対、何があっても離さない。離すもんか」



と、心に決めた。



「麻紀?これから、どこ行く?」



「静流の家に行こう?」



「あぁ。そうしようか。姉ちゃん、びっくりするだろうな」



「あはは」



駅のすぐ北側の城の庭から、桜の花びらがホームに舞い込む。



駅を通過する新幹線が、線路に落ちた花びらを、巻き上げて走り去った。




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