Chapter 27
7月も終わりに近付いた、ある土曜日。
俺のバイト先がある隣町では、毎年恒例の花火大会がある。
俺は、その花火大会にバイトが終わってから、麻紀と見に行く約束をしていた。
竜也が、呟いた。
「今日、花火だな」
「あぁ。花火だな。俺はバイト終わったら行くよ」
「お前良いなぁ。俺、遅番だもんな…」
竜也が愚痴をこぼす。
「花火って、何故か、ガラの悪い奴らが集まりたがるよな?今日だって朝から、変な奴ら多いし…」
俺はフロアを見渡して言った。
「まぁ、暴走族とか毎年来てるからな」
竜也が言った。
「まぁ、俺には関係ないけどな」
俺は、他人事のように言った。
「静流、絡まれないように気を付けろよ?」
「分かってるって」
俺達が、そんな話をしていると、そこへ麻紀がやって来た。
「二人共、何、話してるの?」
「あぁ、今日は花火だなって話してたのさ」
俺が答える。
「そっか。今日だったね」
「バイト終わったら行こうな?」
「うん」
麻紀が笑顔で答える。
「そうそう。さっき、変な男の人達にナンパされたんだ。「彼氏いるから良いです」って言ったのに。花火行こうってうるさかったんだよ。ちゃんと断ったけどね」
「…そいつら、どこにいる?」
俺は、ムッとしてフロアを見渡した。
「静流、ケンカしたらダメだよ?」
「分かってる。…でも、なんかムカつく…」
「良いじゃない。あたしは、静流の傍にいるんだから」
「あぁ…。そうだね」
俺は、納得がいかなかった。
その時、俺達に向かって、軽そうな二人組の男が近付いて来た。
「あっ。あの人達よ」
「こいつらか…」
俺は、そう言うと、その二人組を睨み付けた。
(テメーら、何、人の彼女に声かけてんだよ?ふざけんな)
その二人組を見ながら、俺は、そんな事を思っていた。
その二人組は、俺と目が合うや否や、俺から目を逸らして、逃げるように去って行った。
「フンッ。麻紀に手を出そうとしやがって」
まだ、少し溜飲が残る俺は、そう吐き捨てた。
「はぁ…。早く、バイト終わらないもんかねぇ?」
俺は、ため息混じりで呟きながら、時計を見た。
時計は、夕方の4時になったばかりだった。
「後、たったの一時間じゃない。もぅ、静流は、せっかちなんだから」
麻紀が、笑いながら俺に突っ込んだ。
ようやくバイトが終わり、花火を見に行く為に、二人仲良く、事務所を後にした。
車を、バイト先の近くの臨時駐車場に停めて、バスに乗り換える。
俺は、麻紀の手を引いて混雑したバスに乗った。
「足元、気を付けなよ?」
「うん。大丈夫」
「麻紀。ここ空いてるから、座りな」
俺は、一つだけ空いていた座席を、麻紀に譲った。
「えっ?一つしか空いてないし、良いよ…」
「俺は、立ってても平気だから。座りなよ」
「うん。ありがと」
暫くバスに乗って、目的地の近くの国道脇のバス停でバスを降りた。
手を繋いで、二人で並んで歩く。
「暑いなぁ~」
俺は、そう言いながら、持って来たうちわで麻紀を扇いだ。
「涼しい。でも、静流も暑いでしょ?静流が使えば良いのに」
「俺は大丈夫。暑いのには慣れてるから」
「優しいね」
「そんな事ないよ」
暫く歩くと、海沿いの商店街に出た。
既に出店は並んでいて、花火を打ち上げる前だというのに、大勢の人だかりでごった返していた。
「うわぁ…相変わらず多いなぁ」
「ホントだね」
「麻紀、はぐれないようにしっかり捕まってなよ」
「うん」
少し歩くと、かき氷の旗が見えた。
俺は、麻紀に聞いた。
「かき氷食べる?」
「うん。食べたい」
「何味がいい?」
「静流と一緒に食べるから、静流の好きな味買って良いよ」
「そういう訳にはいかないよ。麻紀は何が良い?」
「うーんと…、じゃあ、ハワイアンブルー」
「俺も、それにしようと思ってた」
俺は、笑いながら言った。
「以心伝心だね」
麻紀も嬉しそうに言う。
「あはは。そうだね」
かき氷を買って、海が見える場所へ座って、かき氷をつつく。
氷を食べ始めて、ほんの数分後、一発目の花火が上がった。
「綺麗…おっきぃ…」
今度は、ピンク色の花火が上がった。
「可愛い…」
俺は、そんな麻紀を見て言った。
「花火も可愛いけど、俺は麻紀が一番可愛い」
麻紀は、顔を赤らめながら言った。
「もう、変な事言わないでよ」
恥ずかしそうな顔をする麻紀。
「顔赤いよ?」
そんな麻紀が可愛くて、俺は麻紀に、少し意地悪に言った。
「もう、意地悪なんだから」
麻紀は、頬を膨らませた。
「あはは。でも、本当に綺麗だね」
「うん。来て良かった」
花火は、二人を鮮やかな光で照らし出す。
水面には、色とりどりの花火が波で揺れていた。
花火を見ながら、麻紀に聞いた。
「なぁ、麻紀?俺といて幸せ?」
「うん。すごく幸せ」
そう言いながら、麻紀は俺に寄り添って来た。
「ねぇ?静流は?」
「俺も、すごく幸せだよ。でもね、この幸せが、いつか壊れたらって考えると、すごく怖いんだ…」
俺は、麻紀の目を見た。
「大丈夫だよ。そんな事、絶対無いから。心配しないで」
麻紀は、俺の不安を取り除くように優しく言った。
「あぁ。そうだね。変な事考えてちゃ駄目だよね。そうだ。何か食べる?」
「うーん…。ポテト食べたい」
「じゃあ、買いに行こうか?」
「うん。行く」
ポテトの屋台に行くと、たくさんの人が並んでいた。
「多いね」
「ホントだね」
「これは、かなり待つな…」
俺は、そう言いながら、辺りを見回した。
俺達の前に、どこかで見たような子供達が、行儀良く並んでいた。
「あっ!!霞さんだ」
「あっ!!お前達!?」
俺のバイト先に、よく遊びに来る子供達だった。
「仲良いね」
子供達がニヤニヤしながら言った。
「仲良いよ。悪いか?」
俺は、笑いながら子供達の冷やかしを、軽くあしらうように言った。
そんな、俺と子供達のやり取りを、麻紀は笑って見ていた。
「霞さん、またね」
「あぁ。気を付けてな」
子供達は、人混みの中に消えて行った。
それから、少しして、やっと順番が回って来た。
「いらっしゃい」
威勢の良い屋台のおじさんが、迎えてくれる。
「一番大きいポテト下さい」
「ありがとう。ちょっと待ってな。今揚げてるからな」
「待たせて悪かったねぇ。君達、仲良しみたいだし、少しサービスしとくよ」
そう言いながら、おじさんは少し多めにポテトを入れて、麻紀に手渡す。
「おじさん、ありがとう。はい。これポテト代」
そう言って、俺は、500円をおじさんに渡した。
「ちょうどね。ありがとう」
ポテトを買い、手を繋いで、俺達がさっきまでいた場所へ戻ったが、その場所は、別の人に取られてしまっていた。
「しょうがないなぁ。少し歩くか…」
俺は、ぼやいた。
「あたしは平気だよ」
麻紀は、微笑んだ。
俺達は、花火がよく見える場所を探して、歩き回った。
気が付いた時には、いつの間にか、駅前の広場に出ていた。
駅前の広場に、ちょうど腰が掛けられる位の高さの花壇があった。
そこへ、二人で座って花火を見る事にした。
暫く、幻想的な世界が二人を包んだ。
闇に咲き乱れる、大きな色とりどりの花。
咲いては散りを繰り返し、二人の顔を七色に染める。
「綺麗だね…」
「すごいね」
最後の花火が華々しく上がって闇に散った。
至る所から、盛大な拍手が上がる。
「終わったね」
「うん。終わっちゃったね」
「帰ろうか?」
「うん。帰ろ」
俺は、麻紀の手を引いて混雑するバスに乗った。
混雑したバスの車内で、運転手のアナウンスが流れる。
「どなたか、両替出来るお客様はいらっしゃいませんか?お客様が両替に困っていらっしゃいます」
俺はふと、我に帰って財布を開いてみた。
「あっ!!俺も一万円札しか無い…。そう言えば、さっき小銭を全部使っちゃったな…」
「えーっ!?ちょっと待ってて。あたしの財布見てみるよ」
麻紀が、バッグから財布を取り出して中を覗いた。
「あっ。あった。ちょうど二人分あったよ」
「良かったぁ…。後で、コンビニでタバコ買うから、その時に返すよ」
「うん。じゃあ、これ、静流の分ね」
「ありがとう」
暫くして、バスは臨時駐車場に着いた。
車に乗り換えてコンビニへ向かい、タバコとコーヒーを買う。
「麻紀も、何か欲しい物ある?」
「ミルクティー飲みたい」
「じゃあ、持っておいで」
「うん。ありがとう」
そう言って、麻紀は、冷蔵庫からペットボトルのミルクティーを持って来る。
レジで支払いを済ませて、さっきのバス代を麻紀に渡す。
「はい。さっきのバス代。ありがとう」
「えっ?ミルクティー買ってもらったし、返さなくても良いよ」
「借りた物は、ちゃんと返さなきゃ。はい」
そう言って、俺は麻紀の手の平にバス代を置いた。
「ありがとう」
車に乗り、麻紀を家まで送って行く。
「ねぇ?静流?」
「うん?」
「ちょっとドライブしない?」
「あぁ。良いよ。じゃあ、海に行こうか?」
「うん」
俺は、海に向かって車を走らせた。
前に花火をしに来て、麻紀に告白したあの浜辺へ、車は到着した。
二人で浜辺に座り込んだ。
蒼白い月が、海と浜辺を薄明かりで照らす。
「ねぇ?静流?」
「うん?」
「さっき、静流が、今の幸せが壊れたら怖いって言ってたじゃない?」
「うん。怖いよ」
「あたしも、ホントは怖いんだ…。静流が、どこか遠くに行っちゃったらイヤだなぁって…」
「俺は、どこにも行かないよ。俺がどこかに行く時は、麻紀も一緒だよ?」
「うん。そうだよね」
「あぁ。大丈夫」
「でも、もし、静流と離れ離れになったり、はぐれちゃったりしたらどうしよう…?あたし、怖いの…」
「大丈夫。もし、はぐれてしまったり、離れ離れになった時には、ここに来れば良いよ。俺が、絶対迎えに来るから」
「ホントに?」
「あぁ。約束するよ。だから大丈夫。もう心配しなくて良いから」
「うん。ありがとう。ちょっと安心したよ」
そう言って麻紀は、俺の肩にもたれ掛かって来た。
俺は微笑みながら、麻紀の髪を優しく撫でた。
「そろそろ、帰ろうか?」
「うん。帰ろ」
車に乗り、麻紀の家へと向かった。
麻紀を無事に送り届け、俺は自宅へ帰った。
マンションに着く頃には、夜中の1時近くになっていた。




