Chapter 25
姉の車に付いて行く事、約30分。
姉は、街から少し外れた所にある、ショッピングモールの駐車場へ入って行った。
流石に、休日だけあって、混み合っている。
警備員が暑そうにしながら、駐車場の空きスペースへ車を誘導する。
姉の車の横へ、車を止める。
「人混みは嫌いだな…」
俺は呟いた。
「何言ってんの?早く行くわよ」
姉はそう言うと、麻紀とさっさと、建物の中へ入って行く。
「お…、おい。待ってくれよ…」
俺は、慌てて追いかけた。
「麻紀ちゃん、どこから行く?」
姉の目が輝いている。
「うーんと…、服、見に行きません?見たい服があるんです」
麻紀も、活き活きとしている。
「良いわね。じゃあ、2階に行こっか?」
「はい」
この二人、正に「水を得た魚」状態である。
俺は、麻紀はともかく、姉の買い物と言う事に嫌悪感を抱いていた。
(どうせ、またバカみたいに大買いするんだろ…?勘弁してくれ…)
俺は、過去の姉の買い物に付き合った事を思い出した。
(そう言えば、前の買い物の時は、リビングにある、小さいソファと、キッチンの食器棚と、後は…、両手いっぱいの、ヤツの服が目一杯詰まった紙袋を運ばされたっけ…。はぁ…。今日も、多分そうなるんだろうな…。あぁ…。憂鬱だ…)
そう考えたら、気が滅入って来る。
「ほら、着いたよ。麻紀ちゃん、どんなの欲しいの?」
「えぇっと…」
目を輝かせながら、店の中へ入って行った二人。
「静流、早く来なさい」
姉が呼ぶ。
(…何故?)
俺は、顔をしかめながら言った。
「別に、俺は、そこに用事は無いぞ?」
「静流、おいで?」
麻紀が呼ぶ。
「はい。行きます」
俺は、つい、麻紀の声に反応してしまった。
「ちょっと、アンタ?どういう事?あたしが呼んだら来ないのに?」
姉がしかめっ面をして、俺に言った。
「フンッ」
俺はそっぽを向いた。
麻紀は、そんな俺達を見て、苦笑いをしている。
「可愛くない」
姉が、そう言いながら、俺の頬をつねる。
「痛たたたた…。ぼ…暴力反対…」
「何か言う事は?」
「ご…ごめんなはい…」
「よろしい」
そう言うと姉は、俺の頬から手を離し、麻紀と服を物色し始めた。
(おぉ…。痛てぇ…)
俺は、右の頬をさすりながら、二人の後を付いて歩く。
「これなんか、麻紀ちゃんに似合いそうだよね」
姉が手に取ったのは、クラッシュデニムのミニスカートだった。
「あっ。これ、良い感じ。試着してみようかなぁ」
「うん。試着してみて。きっと似合うから」
姉に促され、麻紀が試着室に入った。
「お待たせ。どうかな?」
「すごく似合うじゃない。麻紀ちゃんのイメージにぴったりだね」
姉は、絶賛していた。
(あぁ…。麻紀のミニスカ…、可愛いすぎる…)
俺は、つい、麻紀に見とれてしまい「ボーッ」としていた。
「静流?どう?」
麻紀が、俺に聞いて来る。
俺は、我に返って、返事をする。
「あ…、あぁ。麻紀、すごく似合うじゃん。可愛いよ」
「へへっ。ありがと」
麻紀は、照れ笑いを浮かべた。
「麻紀ちゃん、それ、あたしが買ってあげるよ」
姉が言った。
「えっ?良いんですか?でも、悪いですよ…」
麻紀は、遠慮していた。
「良いの、良いの。あたしから、麻紀ちゃんにプレゼント」
姉は、微笑みながら言った。
「遥さん、ありがとうございます。へへっ。嬉しい」
麻紀が喜んだ。
「あっ。姉ちゃん、ズルい。俺にも、何か買ってくれよ」
「静流は、自分で買いなさい」
姉が、軽くあしらうように言った。
「ケチっ。良いよーだ。フンッ」
俺は、少しふてくされた目で姉を見た。
姉は、そんな俺を後目に、麻紀と他の服も物色し始めた。
(…)
(…)
(…長い。まだかよ?)
痺れを切らした俺は、姉の所へ向かった。
「姉ちゃん、まだ選んでんの?どれ着たって一緒だって。誰も見やしないからさ。それに、結局、着ないまま、クローゼットの肥やしになるのがオチ…」
全てを言い切る前に、姉の右手が、俺の右頬に伸びて来た。
「い゛っ、痛てててて…。ね、姉ちゃん、そこ、さっきとおんなじトコ…」
「静流君、何か言う事は?」
「だって、本当の事…」
「なぁに?」
微笑みながら、姉が右手に、更に力を入れる。
「い…、痛い…」
「何か言う事は?」
微笑みながら言う姉。
だが、俺の右頬をつねる姉の右手は、容赦無かった。
「い、痛てぇ…。ご、ごべんなはい…。」
ようやく、俺の右頬から、姉の手が離れた。
「良いから、黙って付いて来なさい」
姉が、静かに言った。
「はい…」
(い、痛ぇ…)
麻紀が、そっと近づいて来た。
「大丈夫?」
「痛い…。涙出るかと思った。ったく、暴力女め…」
俺は、そう言いながら、しかめっ面で姉の後ろ姿を見た。
姉が、こちらに振り向く。
固まる俺。
そして、俺は、思わず首を横に振る。
姉は、ニッコリ笑って近づいて来る。
「何かあったの?」
「いえ、何でもないです…」
俺は、目線を逸らす。
「また、何か言ってた?」
「い…、言ってないです…」
声が震える。
(もう、止めてくれ…)
俺は、心の中で叫んだ。
「それなら、良いけど」
姉は、再び、品定めを始めた。
(ホッ…)
俺は、胸を撫で下ろした。
麻紀は、苦笑い浮かべて、俺を見た。
「ダメよ。静流。変な事言うから、怒られるんだよ」
「だって、ヤツのクローゼットには、本当に着ないままの服が、腐る程あるんだから」
「ダメよ。女の子にそんな事言ったら」
「だって、着ないヤツ持っててもしょうがないじゃん」
俺は、着ない服まで買ってしまう事が不思議でしょうがなかった。
それから数分後。
やっと、買う物が決まったらしい。
「麻紀ちゃん、おいで」
姉が、麻紀を呼んだ。
(やれやれ。やっと終わったか…)
俺は、ホッとした表情で二人を見ていた。
次の瞬間。
俺は、目が飛び出しそうになる程驚いた。
レジの液晶には、「60000」の数字が浮かんでいる。
(ん?桁、間違えてねぇか?)
俺は、目を擦って、目を凝らしてもう一度、金額が表示された液晶を見た。
「一、十、百、千、万…」
レジの液晶には、やっぱり「60000」の数字が浮かんでいる。
(アホか…?コイツ…)
俺は、呆れた目で姉を見た。
呆れ果てた俺とは対照的に、姉は満足げな表情をしている。
「姉ちゃん、これ、ちょっと買いすぎじゃねぇか?」
「そぉ?こんなもんでしょ?」
(なんで、即金で6万も出せる…?どこかにへそくってたのか…?)
「そんな事あるかよ。6万も服買ってこんなもんって…。それに大体、なんで、そんな大金があるんだよ?」
俺は、姉に問いかけた。
「ボーナスが、出たからよ」
姉は、俺の問いかけに即答した。
「へぇ…。そりゃ、羨ましい事で…」
俺は、口を尖らせて、横目で姉を見ながら言った。
会計を済ませ、店を出る。
「そうだっ。大事な事、忘れてた。今日の買い物の、一番の目的の物を探さなきゃ」
「おいおい…。本来の目的忘れて、衝動買いかよ?頼むよ…」
俺は、呆れ顔で姉を見た。
「もぅ…。うるさいわねぇ」
姉が、横目で俺を見る。
「はい。これ持って」
姉が、お約束通り、荷物を俺に持たせた。
「ったく。よく買うよ。こんなに服ばっかり…」
俺は、姉に愚痴った。
姉は、俺の愚痴を無視して、目的の店まで向かって行く。
俺は、いっぱい服が詰まった、女性ブランドの紙袋を両手に持ち、姉の後を付いて行った。
麻紀は、俺の横を寄り添うように歩く。
「遥さん、何買うのかな?」
麻紀が、俺に聞いた。
「一番忘れちゃいけない、巧さんの、誕生日プレゼント…」
「それ、かなり大事じゃない?」
「そうなんだよね…。大体、そっちのが優先順位は上だろうに…。困った姉ちゃんだよ…」
俺は、溜め息混じりに言った。
「まぁ、ちゃんと買うみたいだから、良いけど」
すると、姉は、ショッピングモール内の一角にある、店の中へ入って行った。
そこは、紳士物のスーツが置いてある店だった。
その店で、姉はネクタイを見ていた。
「静流、ちょっと来て?」
姉が、俺を手招きして呼んだ。
「ん?何だよ?」
「ちょっと立ってて」
そう言うと、姉はネクタイを二、三本手に取り、俺に合わせてみる。
「なんで、俺に合わせる?」
「静流と巧は、何となく似てるから。イメージし易いのよ。だから、アンタを連れて来たのよ」
「そうか?巧さんと、そんなに似てるか?」
俺は、不思議そうな顔をして姉を見た。
「何となくよ。何となく」
姉は、そう言いながら、真剣な顔で、全体の雰囲気を見ている。
「これが一番良さそうね。これにしよっ」
姉は、一番最初に手に取った、薄い水色の生地にチェックの柄の入ったネクタイを手に取り、レジへ向かった。
「やれやれ。やっと終わったな」
俺は、ホッとした表情を浮かべて、麻紀の所へ行った。
麻紀は、マネキンに着せてあるスーツを、じっと見つめていた。
「どうしたの?」
俺は、麻紀に声を掛けた。
「ううん。このスーツかっこいいなって…。ねぇ?このスーツ、静流に似合いそうだよね?」
麻紀は、マネキンのスーツに一目惚れをしたようだ。
「そうかな?俺、どうもスーツは苦手だな…」
「なんで?」
麻紀が、不思議そうに俺を見る。
「スーツは動きにくいし、堅苦しいしさ…。それに、俺がスーツ着たら、何故かホストに見られちゃうから…」
「確かに、静流がスーツ着たらホストみたいに見えちゃうね。でも、あたしはスーツ着た静流を見てみたいかも…」
「じゃあさ、今度、卒業アルバム見せてあげるよ。学園祭の時に、スーツ着た写真がいくつか載ってるから」
「見たい。絶対見せてね?」
「あぁ。それで良いならいくらでも」
俺と麻紀が、そんなやり取りをしていると、会計を済ませた姉が、こちらへ戻って来た。
「お待たせ。二人共、お腹空いてない?」
「そう言えば、とっくに昼過ぎてるじゃん」
俺は、ケータイの待ち受け画面の時計を見ながら言った。
時計は、14時前だった。
「何か食べに行こうか?」
「賛成」
俺と麻紀が声を揃える。
それから三人で、ショッピングモール内のファミレスへ向かった。
食事を済ませた頃には、昼の3時を回っていた。
俺達は一旦、マンションへ荷物を持って帰る。
それから、俺は麻紀を、麻紀の家へ送った。




