Chapter 22
居酒屋へ入ると、若い女性店員が、元気良く迎えてくれる。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「五名様でーす」
既に、テンションが上がった充が、調子良く返事をする。
「では、こちらへどうぞ。五名様、ご案内します」
俺達は、その女性店員に、座席まで案内してもらう。
「ご注文をお伺いします」
「とりあえず、生中4つと…。麻紀ちゃんは何にする?」
俊哉が、麻紀にドリンクの注文を聞く。
「どれにしようかな…?」
「麻紀、女の子が飲みやすいのは、カシス系のカクテルか、カルーア、杏露酒とかかな。酎ハイなんかも良いかも」
俺は、決めあぐねている麻紀に飲みやすい物を薦めた。
すると、麻紀はこう言った。
「静流のオススメは?」
「俺は、カシス系の飲み物は好きだね。飲みやすいし、ジュースみたいだから」
「じゃあ、カシスソーダにする」
麻紀も決まった。
「すいません。後、カシスソーダを…」
俊哉が店員に伝えた。
「はい。かしこまりました。ご注文を繰り返します。生ビールの中が4つとカシスソーダが1つ。以上でよろしいですか?」
「はい」
全員が声を揃える。
「では、少々お待ち下さい。失礼します」
そう言うと、店員は、厨房の方へと向かった。
「さて…と。今日は、お疲れさん。今日のライブは久しぶりだし、竜也が加わって初めてのライブにしては、上々だった。だけど、俺達は、まだスタートラインに立ったばかりだ。けど、俺達なら必ずやれるはずだ。だから、みんな、これからも俺達四人で頑張ろう。誰一人欠けても、俺達、B-Raveは成り立たない。俺達は四人で一つだから…」
俊哉が、感慨深げに言った。
「そうだな。俺達四人、行ける所まで行こう。やるだけやって、駄目ならしょうがないさ」
俺が俊哉に続いた、ちょうどその時…。
「お待たせしました。生ビール4つと、カシスソーダです」
店員が、さっき注文したドリンクを持って来た。
それぞれの手元に、ドリンクが行き渡る。
「じゃあ、新しい二人の仲間の歓迎と、俺達のこれからを願って…」
「カンパーイっ!!」
俊哉の合図で、ジョッキとグラスが、軽くぶつかり合い音を奏でる。
「美味いっ…。やっぱり、冷えたビールは最高だな」
「ははは。竜也、相変わらずオッサンだな」
俺は、笑いながら竜也を見た。
「うるせぇなぁ。美味い物は美味いんだから、しょうがないだろ?オッサンもガキもあるかっ」
竜也が、幸せそうな表情をして言う。
「ガキは、飲めません。あっ、いたか。ここに、デカいガキが…」
俊哉は、そう言いながら、充を横目で見る。
「うん?」
メニューをジッと見ていた充が、「何の事?」といったような顔をして、全員の顔を見渡す。
「何、食うんだよ?」
俊哉が充に聞く。
「えぇっと、焼き鳥と、枝豆と、フライドポテトと、たこわさびと、ウインナーの盛り合わせと、唐揚げと…」
「一体、いくら食えば気が済むんだ?」
俊哉が呆れた顔をしている。
「とりあえず、腹がいっぱいになるまで」
充は、笑いながら答えた。
「今、充が言った分、全部、充が払えよ?」
俊哉が充に言った。
「割り勘じゃないの?」
「充の注文だけ、充の自腹」
俊哉が、意地悪そうな笑いを浮かべて言った。
「ケチーっ。なんで俺だけ…。ドケチの俊哉め…」
充は文句を言いながら、ものすごく不満そうな顔をして、俊哉を見ている。
「ははは。充、今言った食い物、俺達にも分けてくれるなら、話は別だぞ?たこわさびは、流石に一人分だろうから、勘弁してやるよ」
俺が笑いながら、充に言った。
「そうそう。お前はすぐに、自分の所へ取り込んでしまうからな。どうする?みんなで食うなら割り勘だぞ?」
俊哉が、笑いながら充を見る。
「じゃあ、みんなも頼めば良いじゃん。で、みんなで食えば良いじゃん。仲間なんだから」
拗ねた顔で充が言った。
「ははは。そうだな。とりあえず呼ぶか?」
「すいません」
俊哉が、そう言って店員を呼んだ。
「はい。ご注文をお伺いします」
店員に、充が選んだ食べ物を注文する。
「では、少々お待ち下さい」
「はい」
幸せそうな顔で、充が答える。
「お前、ホントに食い物の事になったら、幸せそうだよな?花より団子か?」
俊哉が半分、呆れ顔で充に言う。
「へへへっ。でも、女の子も好きだけどね」
どうやら、充も男だったらしい。
「あっ!!やべっ」
急に竜也が声を上げた。
「帰りの交通費まで考えてなかった…」
「何やってんだよ?ホラッ。貸してやるから。これで帰れるだろ?」
俺は、竜也の前にポンと三千円を出した。
「静流…。良いのか?」
「あぁ。今日は、少し多めに持って来たからな」
「サンキュー。助かった。また、今度返すからな」
竜也が、安堵した表情で俺を見た。
そんな、俺達のやり取りを見た充が、こう言った。
「なぁ?俊哉?やっぱり、静流みたいに、気っ風の良いヤツがモテるのかなぁ?」
俊哉は、「また始まった」と言わんばかりに、面倒臭そうな顔をして言う。
「あぁ。そうかもな」
「うぅ…。冷たいなぁ…」
「あぁ。よしよし」
俊哉が、充の頭を、軽くポンポンと叩く。
「充、絶対に酔ってるよな?」
俺は、充を見て呆れていた。
「コイツは、いつもだ。酒に弱いくせに、飲むんだからな…」
俊哉が、ため息を吐きながら、充を見る。
「まぁ、いつもの事だけどな。でも、今日は一段と酷いな。充、なんかあったのか?」
俺は、充に聞いた。
「何も無いよ…。あぁ…。薫ちゃん…」
充が、小声で呟く。
「しっかりとあったんじゃねぇか…。フラれたんだな?」
俺達は、苦笑いをしながら、充を見た。
「うぅ…」
(ヤバい、半分泣き顔じゃねぇか…)
俺達は、顔を見合わせた。
「もう、この話題はやめだ。なんか明るいネタ、無いのか?」
と、俊哉が言ったその時…。
「お待たせしました。焼き鳥です」
「ピクっ」
その言葉に反応した充。
その、充の反応よりも一瞬早く、竜也の手が動く。
「鳥皮串、もらいっ!!」
そう言いながら、竜也が、充の前から鳥皮串を攫う。
「あっ!!」
充が気付いた時には、鳥皮串は、竜也の口に運ばれていた。
「竜也っ!!ズルいぞ。俺の好物なのにっ!!」
充は、酷くご立腹である。
「何言ってんだ?早い者勝ちだろ?」
竜也が充に言った。
「竜也め…」
充が、竜也を睨む。
「落ち着け。また、頼めば良いだろ?」
俊哉が、二人の間に割って入る。
俺と麻紀は、そのやり取りを笑いながら見ていた。
「うぅ…」
充の怒りは収まりそうにない。
俊哉が、疲れた表情を浮かべながら、店員を呼ぶ。
「すいません。鳥皮串もらえます?」
「はい。かしこまりました」
「俊哉、ありがとう」
少し機嫌が治った充。
「ねぇ?充君?」
麻紀が充に言った。
「充君なら、きっと良い彼女が見つかるよ。だって、無邪気な性格だし、すごく可愛い顔してるしね。きっと大丈夫だよ」
「だとさ。充。良かったな。女の意見だから、多分、間違いないだろう」
俺は、充に言った。
「ホントに?なんか嬉しいなぁ」
(ホントに単純なヤツだ…)
俺達は、呆れた顔で充を見ていた。
「麻紀ちゃん、あんまりコイツを褒めたら駄目だ。すぐ調子に乗って暴走するからな」
俊哉が、横目で充を見ながら言った。
「なんで、そう言うかな?俊哉君は?」
充が、しかめっ面で俊哉を見る。
「俊哉さん。ホントですよ?他の人はどうか知らないけど、あたしから見たら、充君は可愛いですよ」
麻紀が、笑顔で俊哉に言った。
「そんなもんかねぇ…。でも、まぁ、良かったな、充」
「へへへっ」
充が照れ臭そうだ。
「麻紀ちゃん、俺達はもう仲間なんだ。だから、俺の事は俊哉で良いし、敬語じゃなくて良いから」
俊哉が、微笑んで麻紀に言った。
「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えるね」
麻紀は嬉しそうに言った。
「お待たせしました。鳥皮串です」
店員が、鳥皮串を持って来た瞬間。
「これは、俺のだぞ?取るなよ?俺のだからな?」
「あぁ…。はいはい。分かったよ。誰も取らねぇよ。分かったから、さっさと食え」
俊哉が、面倒臭そうに言った。
「フフっ」
充の機嫌は、完全に治ったが、逆に、俊哉は疲れ果てた顔をしていた。
「やれやれ…。ホントにしょうがないヤツだな…」
俺達は、苦笑いを浮かべた。
鳥皮串を頬張る充は、この上なく、幸せそうな顔をしていた。
ちょうど、そこへ店員が来て、俺達に案内をした。
「ラストオーダーになりますが、ご注文はよろしいですか?」
「俺達は、十分、飲み食いしたけど…。おいっ。充?ラストオーダー良いのか?」
俊哉が充に聞く。
「うん。満足した」
「もう大丈夫です」
「はい。では、ごゆっくり」
ふと、俺はケータイを見た。
時計は、夜中の1時を回っていた。
「もう、こんな時間か…」
「今、テーブルの上にある物食ったら帰るぞ」
俊哉が、お開きの合図を出した。
会計を一旦済ませ、俊哉が言う。
「一人、五千円な。麻紀ちゃんは…三千円で良いや」
「えぇ?でも、悪いよ…」
「良いから、良いから」
俊哉は、微笑んで麻紀を見た。
「俊哉、麻紀の分も、俺が出すよ」
そう言って、俺は俊哉に八千円を渡した。
「良いの?静流?」
「あぁ。全然、構わないから」
「ありがとう」
俺達は、そう言いながら、居酒屋を出た。
「じゃあ、今日はお疲れさん。またな」
「あぁ。またな」
そう言って、俺と麻紀を残して、他の三人は、夜の街に消えた。
「麻紀?遅くなったね。ごめんな」
「なんで、謝るの?あたしは、楽しかったよ?」
「いや、麻紀の親に申し訳ないよ…」
「酒飲んでるから、タクシーで送るよ」
そう言って俺はタクシーを探した。
すると、麻紀が、俺に抱き付いて言った。
「あたし…。今日は帰りたくないの…」
「そういう訳にはいかないよ?」
「お願い…。静流…。今日は、一緒にいて?」
「…分かった。とりあえず、家には連絡するんだよ?麻紀のお父さんやお母さんが心配してるかもしれないから」
「うん。ちょっと待ってて」
そう言って、麻紀は家に電話を掛けた。
「どうだった?」
「遅くなったから、友達の家に泊まるって言ったら、分かったって」
「そっか。なら良いんだけど…。これから、どこ行く?」
「静流の家に行っちゃダメ?」
「俺の家かぁ…。まぁ、あの人しかいないから、平気だろうけど…」
「静流の家に行こ?」
「分かった。でも、とりあえず、帰る足を探さないとね」
そう言って、俺達はタクシー乗り場へ向かった。




