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Chapter 20


それから、数日後。



「プルルル…」



「もしもし?俊哉?」



「何だ?静流?」



「そろそろ、ライブやらないか?」



「そうだな。竜也も、もう行けるだろうし…。やるか、ライブ」



「あぁ。いつやる?」



「そうだな。来週の土曜はどうだ?」



「俺はOKだよ。竜也はここにいるから、聞いてみる」



「竜也?来週の土曜、ライブしようと思うんだけど、空いてるか?」



「あぁ。良いぞ。望む所だ」



「OKだって」



「そうか。充は…どうせ、アイツは予定無いだろうから、OKだな。充には、言っとくから、静流はライブハウスに連絡してくれ」



「あぁ。分かった」



「頼んだぞ。久しぶりで楽しみだな」



「あぁ。観客は、新しくなった俺達にビビるだろうな」



「あぁ。俺達は変わった。進化したんだ。必ず、成功する」



俊哉が、いつになく熱くなった。



それは、俺達も一緒だった。



「じゃあ、俺はこれから用事があるから。じゃあな」



「あぁ。またな」



「静流?日程は決まりか?」



「あぁ。来週の土曜で決まりだ。後はライブハウスに連絡するだけだ」



「でも、充の予定はどうなんだ?」



「あぁ。大丈夫。俊哉が、無理矢理にでも引っ張って来るだろうから」



「ひ…酷でぇ…」



竜也は苦笑いをした。



「竜也、とにかく、新曲仕上げるぞ」



「あぁ。ライブに間に合わせないとな」



「あっ…。先にライブハウスに連絡しないとな」



「はい。Sound Factory…」



「あっ、オーナー?霞です」



「おぉ、静流。今日は、どうした?」



「来週の土曜、ライブをさせて下さい」



「おっ?やっとか。長かったな」



「えぇ。今度は、今までとは違いますから。楽しみにしてて下さい」



「分かった。お前達のライブは、評判が良いからな。これは忙しくなるぞ」



「久しぶりだし、どうですかね?」



「まぁ、間違いなく、チケットは完売だろうな。ははは」



「そうだと良いんですが…。じゃあ、お願いしますね」



「分かった。じゃあな」



「はい。失礼します」



電話を切って、竜也と新曲の最終調整を始める。



「なぁ、竜也?」



「なんだ?静流?」



「ライブ、上手く行くと良いな」



「きっと、上手く行くさ」



「そうだな。俺は、久しぶり過ぎて、どうも、緊張しているみたいだ」



「はははは。何言ってんだよ」



「ははは。ホントだな」



俺達は、ライブまでの間、出来る限りの事をやった。



ライブ前日。



「プルルル…」



「もしもし?麻紀?」



「なぁに?静流?」



「明日、午後から空いてるかな?」



「うん。大丈夫」



「明日、前に約束した、俺のとっておきを、麻紀に見せてあげるよ」



俺は、麻紀の前での初ライブという事もあり、かなり緊張していた。



「ホントに?」



「あぁ。じゃあ、明日、昼前に迎えに行くから」



「うん。待ってる」



電話を切り、ベッドへ仰向けに寝転ぶ。



頭の中は、翌日のライブの事でいっぱいだった。



その日は、初めてのライブのように、なかなか寝付けなかった。



時計の針の音が、やけに耳に響く。



俺は、一人、ベランダへ出て、夜空を見上げていた。



夜空には、無数の星が散らばる。



(やれるだけの事はやった。後は、それをぶつけるだけだろ?何を考える必要がある?しっかりしろ、静流)



俺は、夜空を見つめながら、自分の心にそう言い聞かせた。



ライブ当日。



「今日は、ライブだから夜遅くなるよ」



「分かった。頑張ってね」



「あぁ。行って来るよ」



まるで、戦場にでも向かうかのような面持ちで、マンションを出た。



ケータイを手に取る。



「プルルル…」



「もしもし?麻紀?今から出るから」



「分かった。待ってるね」



「あぁ。着いたら、また連絡するよ」



「うん」



40分程で、麻紀の家の前に着いた。



「着いたよ」



「すぐ行くね」



メールがすぐに帰って来た。



暫くすると麻紀が出て来た。



「おはよう。あれ?静流、今日、雰囲気違うね?」



(今日の静流、いつもとオーラが違う…。どうしたのかなぁ?)



「おはよう。そうかなぁ?」



「うん」



「別に、普段通りだよ」



俺は、苦笑いしながら言った。



「じゃあ、行こっか?」



「うん。今日は、どこ行くの?」



「まだ秘密。もうすぐ分かるから、楽しみにしてて」



「うん」



麻紀は、笑顔で車に乗った。



一時間程で、ライブハウスに着いた。



「さぁ、着いたよ」



「ここって…?」



「そう。ライブハウス。俺のとっておき、俺の、もう一つの姿を、麻紀に見せるから」



麻紀は不思議そうな顔をしていた。



(もしかして、静流が、ライブするって事なの?)



「ねぇ?静流?静流のとっておきって、まさか…」



「そう。俺達、四人のワンマンライブ」



麻紀は驚いた。



「ウソ…。すごいね…」



麻紀を連れて、事務所へ入る。



俊哉と充は来ていたが、竜也の姿が見当たらない。



「やっと来たか…。始めるぞ」



俊哉が言った。



「あれ?竜也は?」



「竜也なら、タバコを買いに行ったぞ」



その時、事務所のドアが開いた。



「小野瀬君!?」



麻紀が振り返ると、竜也が立っていた。



「あれ?藍沢さんが何でここに?」



驚く竜也。



「竜也、遅かったな。サプライズゲストだ」



俺が、竜也に言った。



「お前達、付き合ってたんだ?いつの間に?」



「あぁ。今月の頭くらいからかな?」



俺は曖昧に答えた。



「さぁ、全員揃ったな?リハやるぞ」



俊哉の合図で、全員が2階のスタジオへ上がる。



スタジオまで上がる外階段の壁には、色々なバンドのポスターや、メンバー募集の紙が貼ってある。



「麻紀、これがチケットだよ。始まったら、会場へこれ持って入って来て」



俺は、麻紀にチケットを手渡した。



「うん。静流のバンド、B-Raveって言うんだ」



「あぁ。良い名前だろ?」



俺は、自慢気に言った。



「カッコ良いね」



麻紀が、俺達のポスターを眺めて言った。



「SOLD OUTって…、もしかして、今日のチケット完売したの?」



「あぁ。一時間程で完売したらしいよ」



「そんなに有名なの?」



麻紀は、ただ目を丸くするだけだった。



「まぁ、見てなって。すぐに分かるから」



俺は、麻紀に微笑んだ。



スタジオに入り、リハーサルの準備をする。



「今から、リハーサルやるから、少し見てて。俺の…、いや、俺達のとっておきを見せるから」



「行くぞっ!!」



「おぅっ!!」



俺達は、今日の曲目順に、リハーサルをやった。



(静流って、歌ってる時、すごく嬉しそう。歌詞も、曲も綺麗…)



「一旦、休憩にしよう。開演まで後、二時間か…」



俊哉が時計を見た。



時計は、午後4時を指していた。



「麻紀、外行こっか?」



「うん」



俺達は外に出た。



スタジオの外廊下から、事務所入口を見下ろすと、早くも、たくさんの観客達が集まっていた。



「また、今回もゾロゾロと…。それに、してもいっぱい来たなぁ」



俺は、まるで他人事のように言った。



「すごいね…。この人達、全員、静流達を見に来たの?」



麻紀は、呆然と下の観客達を見て言った。



「みたいだね。でも、そんな事はどうでも良いんだ。今日は」



俺は、笑いながら答えた。



「えっ?どうして?」



麻紀が驚いた表情で、俺を見る。



「だって、今日は、麻紀の為のライブだからさ。観客達は、オーナーが儲けようとして、チケット売ったんだよ。きっと」



俺は、照れながら麻紀に言った。



「このライブ、こんなに人が来てるのに、あたしだけの為なの?」



「そうだよ。観客達の前で歌うのは、馴れっこだからさ。麻紀の前で、歌う方がよっぽど緊張するよ」



麻紀は、不思議そうな顔をしていた。



「普通、逆だろって思ったでしょ?男はね、好きな子の前で、良い所見せようとか、頑張ろうとする程、緊張するし、気持ちだけが空回りして、失敗しちゃうもんなんだ」



「そうなの?」



「そうそう。例え、大勢の人を感動させたとしても、一人の大切な人を感動させられないんじゃ、意味無いもんね」



俺は、照れ隠しをする為、はぐらかすように、麻紀に聞いた。



「それよりさ。麻紀?さっきの、リハーサルどうだった?」



「カッコ良かったよ。まるで、プロのバンドみたいだった。さっき、歌ってた曲のタイトル、何て言うの?」



「Star dust Ringって言うんだ。大切な人とずっと一緒にいたいって気持ちを込めた歌なんだ」



「すごく綺麗な曲だね。あたし、あの曲大好きになっちゃった」



「ははは。ありがとう。後で今日のライブのCD麻紀にあげるよ」



「ホントに?」



「あぁ」



「嬉しい」



「もうすぐ、開演だから、開演まで俺達といると良いよ」



「うん」



俺は、麻紀をスタジオへ入れて、再度リハーサルをやった。



夕方、6時。



会場の扉が開いた。



「麻紀、会場は3階だから、先に上がってて」



「うん。楽しみにしとくね」



「あぁ。麻紀の為に、俺達四人が、最高のライブをするから」



そう言って、麻紀に会場へ入ってもらった。



「さぁ、時間だ。俺達ならやれる。お前達、準備は良いか?」



俊哉の合図で、全員に気合いが入る。



「あぁ。いつでも良いぞ」



竜也が微笑む。



「いつも通りさ」



充は落ち着いている。



「今日は、俺の全てをぶつけてやるさ」



俺は、自分の緊張を払いのけるように言った。



「良し。行くぞ」



四人で会場のステージへ向かう。



ステージの袖から、観客達を見ると、既に満員状態だった。



俺は、最前列で麻紀を見つけた。



(ちゃんと入れたんだな。よしっ。やるかっ)



そう思いながら、メンバー全員のスタンバイを待った。



照明が落ち、演奏開始までの繋ぎの音楽が鳴る。



俺の胸が高鳴る。



全員、スタンバイ完了。



スポットが当たると同時に、演奏開始。



充の、疾走感漂う歯切れの良いドラムのリズムが響く。



腹の底まで響く、俊哉のベースに、メロディアスな竜也のギターの音色が絡む。



俺も、負けじと力の限り、声を張り上げる。



観客は、既にヒートアップしている。



会場全体が、熱気に包まれた。



一曲目が終わり、俺は観客達に言った。



「えぇ…っ、みんなの前に、半年ぶりに帰って来ました」



「おかえり」



観客が応える。



「お前達、会いたかったぞぉっ!!」



観客達が、大声で俺達の名前を叫ぶ。



「今日は、久しぶりのライブなんで、少々緊張しています。みんな、俺達のライブを楽しみにしててくれたと思うけど、今日のライブ、一番楽しみだったのは、実は、俺達四人でした」



俺は、麻紀の方に視線を向けた。



麻紀は、まるで別世界の人間を見るような目で、俺を見ていた。



そんな麻紀に、俺は微笑みかけた。



俺の微笑みに答えるように、麻紀も微笑み返してくれる。



「みんなに、何かを届けようとか、感動させようとか、そんな大それた事は考えてません。とにかく、ありのままの俺達を見て下さい。そして、楽しんで行って下さい。では…」



俺が、次の曲のタイトルを言うと同時に、充が、ドラムのスティックを振りかざした。



俺が、観客達を煽る。



「オラオラーッ!!」



「もっとーっ!!」



俊哉が煽る。



「まだまだーっ!!もっとーっ!!」



それに合わせて、観客達も声を張り上げる。



「まだまだ、出せるだろーっ?もっと来いよーっ?」



竜也も興奮している。



そんな、会場の雰囲気に負けじと、俺達の演奏は、更に激しくなる。



順調に、ライブは進んで行った。



「もう一度、行こうか?」



「全員で飛ばして行くぞーっ!!」



四人で叫ぶ。



「ラストーっ!!」



俺が、ラストの曲の合図を送る。



竜也がギターをかき鳴らす。



充と俊哉が続く。



会場は興奮の嵐だった。



俺は麻紀を見た。



麻紀は嬉しそうに、俺達を見ていた。



(静流のオーラが、いつもと違うように見えたのは、これなんだ…。このライブ見てたら、なんだか、ホントにプロのミュージシャンに見えて来ちゃった…)



麻紀の考えてる事が、俺は、分かった気がした。



(きっと、麻紀はこの雰囲気から、プロみたいって思ったんだろうな…)



俊哉がステージの端にあるスピーカーの上に足を乗せて観客を煽る。



竜也は、観客の目の前でギターをかき鳴らす。



ライブの終幕へ向けて、俺達のテンションはピークを迎えた。



既に、体力は限界に近付いていた。



だが、そんな理由で手を抜く訳には行かない。



この、大勢の笑顔と、大切なたった一人の笑顔の為に。



俺達は、今、持てるだけの力を爆発させ、力の限り、演奏し続けた。



ラストの曲が終わった。



「どうも、ありがとうっ!!」



俺達は、観客達に叫んだ。



観客達は、俺達に声援を送ってくれる。



麻紀を見た。



麻紀は、圧倒されたのか、ただ、呆然と俺達を見ていた。



どこからともなくアンコールの声が湧き上がった。



俺達は、それぞれの顔を見合わせた。



(やるか)



全員で頷く。



「今日は、みんな、本当にありがとう。みんなの気持ち嬉しいです。まだ、未完成ですが、俺達の新曲を、大切な人を思い浮かべながら、聴いて下さい」



俺が、今日の為に用意した新曲。



それを、アンコールで発表する。



竜也が、優しいメロディーを奏でる。



俺は、囁きかけるように、優しく歌う。



俊哉と充は、さっきとは別人なくらい、大人しくリズムを刻む。



観客達は静かに耳を傾ける。



観客達の中には、涙する者もいた。



この曲には、今の俺の気持ちが詰まっている。



(麻紀に届け)



俺は、そう思いながら、歌った。



竜也のギターの音色が消えた。



観客達からは、盛大な拍手と、



「ありがとう」



の言葉が湧き上がる。



「今日は、みんな本当にありがとう。新しくなった俺達は、これからも、精一杯やって行きます。だから、みんな…。また会おうっ!!」



俺の最後の挨拶で、照明が落ち、ライブは幕を閉じた。




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