Chapter 19
俺達は、昼食を取り、また、ウインドーショッピングを楽しんだ。
「この、チェック柄のノースリーブのブラウス、可愛いね。麻紀が着たら、絶対似合って可愛いと思うな」
「そんな事ないよぉ。でも、この服可愛い」
「ねぇ?この、クラッシュデニム、静流に似合うと思わない?黒だし」
「ホントだ。これ良いねぇ。いくらだろ…。げっ!!3万もするじゃん…。欲しいけど、給料前だし…」
「残念だね。似たような、もっと安いのあるかも。探してみよ?」
「そうだね。まだまだ時間はあるしね」
歩きながらそんな会話をしていると、二人の時間は、あっという間に過ぎて行った。
「もう、夕方か…」
駅の南口の時計を見ると、夕方の5時になっていた。
「静流といると、ホントに時間が経つのが早いね」
「ホントだね」
「なぁ?麻紀?」
「なぁに?」
「これから、ウチに来ない?」
「えっ?いきなり行って大丈夫なの?」
「大丈夫。どうせ、姉ちゃんしかいないから」
「何か、急に行ったら悪いよ…」
「大丈夫だよ。行こ、行こ」
「うん」
俺達は、車へ戻った。
車のエンジンをかけて、ゆっくりと出る。
駐車場の出口のゲートで、駐車料金を払う。
駅前大通りに出て、国道との交差点を、俺のマンションのある西方向へ向かった。
駅前からは、夕方のラッシュとも重なって、帰るまでは少し時間が掛かった。
マンションに着いた時には、夕方の6時近くになっていた。
「俺のウチ、このマンションの5階なんだ」
「へぇ。綺麗なマンションだね」
そう言いながら、自動ドアの前に立つ。
仲良く、二人寄り添ってエレベーターに向かう。
エレベーターは5階に到着。
エレベーターのドアが開く。
「俺のウチ、この階の一番奥の、角の部屋なんだ」
そう言いながら、突き当たりの部屋へ向かって歩き出す。
部屋のドアの前に立つ。
俺は、車の鍵と部屋の鍵が付いたキーケースを、ポケットから取り出して、玄関の鍵を開けた。
「ガチャッ」
玄関のドアを開けると、男性用のブーツがあった。
(あれ?巧さん来てる)
そう思いながら、俺は言った。
「ただいま」
奥から、姉が出て来た。
「お帰り。静流。今ね、巧が…」
姉と麻紀の目が合った。
「こんにちは。初めまして。あたし、藍沢麻紀って言います。いきなり、お邪魔しちゃって…。すいません…」
麻紀が、丁寧に姉に挨拶をする。
姉は一瞬固まったが、いつも通りの笑顔で麻紀を迎えた。
「あら。いらっしゃい。こちらこそ、初めまして。静流の姉の遥です。よろしくね。麻紀ちゃん」
「はい。こちらこそよろしくお願いします」
「静流、何やってんの?麻紀ちゃんを、外で待たせてないで、早く上がってもらいなさい?」
「あ、あぁ…」
その時、俺は、姉の態度が、いつもと少し違う事に、違和感を覚えた。
「麻紀、おいで」
「うん。お邪魔します」
静流達が、部屋に入るのを確認した遥は、慌てたように、巧の元へと走った。
「た…、たた…、巧っ。た、た、大変よ!!」
「どうしたんだい?遥?そんなに慌てて?」
「し、静流が、女の子連れて来たのよ!!」
「なんだ、そんな事か。そりゃ、静流だって「男」なんだから、彼女の一人や二人いたって、別に、おかしくないじゃないか」
巧は、笑って言った。
「違うのよ。静流が女の子を連れて来たのが、今日が初めてなの。だから一大事なのよ」
「へぇ。静流も、ああ見えて結構、奥手なんだな」
巧は、相変わらずの笑顔で言った。
それはまるで、実の弟を見ているかのように。
「どうやって、接してあげれば良いの?せっかく、静流に彼女出来たのに…」
遥は、一人で慌てて、軽いパニック状態に陥っている。
「そんなに、慌てるなよ…。別に、普通に接してあげれば良いだろう?静流の男友達が来た時のように…」
巧は、パニックになる遥を見て、苦笑いを浮かべた。
「そう…、そうよね。あたし、こんな事、初めてだから…。つい…」
やっと、冷静さを取り戻した遥。
一呼吸置き、とりあえず、キッチンへ向かった。
二人分のグラスにジュースを注ぐ。
それをトレーに乗せて、静流の部屋へ、静かに向かった。
「トントン…」
部屋のドアを、軽く叩く音がする。
「ごめんね。今、こんな物しか無くて…。分かってれば、ケーキでも用意したんだけど…」
「いえ、お構いなく。あたしの方こそ、いきなり押し掛けてごめんなさい」
「良いのよ。麻紀ちゃん。気にしないで。ゆっくりしてね」
「はい。お姉さん、ありがとうございます」
「あたしを呼ぶ時は、遥で良いよ。ウチに来て、そんなに固くならないで」
「はい。じゃあ、お言葉に甘えて…」
麻紀は、照れながらも、姉に対して、申し訳なさそうな表情をしていた。
「じゃあ、ごゆっくり」
姉は笑顔で、部屋を出て行った。
(姉ちゃん、やっぱりおかしい。いつもと違う…。あれは、動揺してるぞ、絶対…)
俺は、姉の異変を察知した。
「静流のお姉さん、優しいし、綺麗な人だね。あたしも、あんな風な大人の女性になりたいな…」
麻紀は、部屋を出て行った姉に対して、羨望の眼差しを送っていた。
「アレのどこが、大人の女性なんだ?」
俺は、麻紀に問いかけた。
「お姉さんに向かって「アレ」って…。だって、見たままだよ?」
「俺は、そうは思わないけどな…」
と、俺が話始めた、その時…、
「キィーッ…」
部屋のドアを、静かに開ける音がした。
「…静流君。また何か言ってるのかな?」
俺は、嫌なプレッシャーを感じた。
振り返ると、姉がクッキーを乗せた皿を持って立っている。
「いえ、何でもないです…」
「なら、良いんだけど」
(今、来んなよ…。地獄耳め…)
そんな、俺達姉弟を見て、麻紀は苦笑いを浮かべていた。
「麻紀ちゃん、あんまり良い物じゃないけど、良かったら食べてね?」
「色々、ありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ、ごゆっくり」
姉が、今度こそ、完全に部屋から出て行った。
「静流と遥さん、仲良いんだね?」
麻紀は、微笑いながら俺を見て言った。
「仲良いかどうかは分からないけど…。あの人、結構、口うるさいからなぁ…」
俺は、溜め息混じりにぼやいた。
「静流が、たった一人の弟だからだよ。きっと。遥さん、静流の事、よっぽど心配なんだね?」
麻紀が、俺を見つめた。
「俺、そんなに危なっかしいかなぁ…?」
俺は、口を尖らせた。
「あっ。ギターがある…。静流弾けるの?」
麻紀が、突然、声を上げた。
どうやら、部屋の隅の壁に立て掛けてある、俺のギターに気付いたようだ。
「まぁ、一応ね…」
俺は、照れながら、そう答えた。
「何か弾いてみせて?」
俺を見つめる、麻紀の目が輝いている。
「じゃあ、麻紀が好きなGLAYの曲でも弾こうか?」
「GLAYの曲、弾けるの?」
「もちろん」
そう言うと、俺は「BELOVED」を、麻紀の前で弾いてみせた。
「すごぉい。BELOVEDだぁ」
麻紀は、そう言いながら、ギターのメロディに合わせて、歌を口ずさむ。
俺は、そんな麻紀を見ながら微笑んでいた。
気が付けば、俺達は、いつの間にか、二人で歌を口ずさんでいた。
「すごぉい。静流、ギター上手だね?」
「あぁ。ちょっと色々あってね」
「色々って?」
「まぁ、良いから、良いから。今度、麻紀にも見せてあげるから。俺のとっておきをさ」
俺はそう、得意気に言いながら、麻紀に微笑んだ。
「絶対に見せてね?」
「あぁ。絶対に見せてあげるよ」
「うん。楽しみ」
麻紀は、今にも待ちきれないといった表情で、俺を見た。
「トントン…」
俺達の会話を遮るように、部屋のドアを、また、ノックする音が聞こえた。
「静流?晩ご飯どうする?麻紀ちゃんも、一緒に食べる?もうすぐ出来るから…」
「うん。頼むよ、姉ちゃん。麻紀も食べて行きなよ」
「遥さん、良いんですか?」
「良いのよ。ご飯は、大勢で食べる方が美味しいしね」
「ありがとうございます」
「いいえ。じゃあ、もうちょっと待っててね?」
そう言うと姉は、俺の部屋から出て行き、キッチンへと向かって行った。
「遥さんって、料理上手そうだよね?あたしも、遥さんに習っちゃおっかな?」
麻紀は、嬉しそうな顔で言った。
俺は、二人が台所に立つ姿を想像した。
(良いかも…。麻紀が作った料理…。食ってみたい…)
俺は、一人で、そんな事を妄想していた。
そして、暫くして、姉がドアの向こう側から、俺達に食事の合図を出した。
「ご飯、出来たよっ!!」
俺達は、一斉にキッチンへと向かった。
麻紀と、巧さんが、初めて顔を合わせた。
俺は、麻紀に巧さんを紹介した。
「麻紀?この人は、姉ちゃんの彼氏の巧さん。姉ちゃんと婚約してるんだ」
「えぇっ?そうなんですか?おめでとうございます。あたし、藍沢麻紀って言います」
「俺は、浅倉巧。静流の言った通りだよ。よろしくね。麻紀ちゃん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「まぁ、挨拶はこの辺にして…。さぁ、食おう」
巧さんの合図で、全員が声を揃えた。
「いただきまぁす」
麻紀が、姉の料理を口にする。
「お口に合うかどうか…」
姉は、麻紀の顔色を気にしながら言った。
「美ぉ味しいっ!!すごい美味しい。遥さん、あたしのイメージ通り、やっぱり、料理上手ですね?」
「もぅ。麻紀ちゃんったら」
姉が照れ笑いを浮かべた。
「な?美味いだろ?遥の料理」
巧さんも、姉の料理に舌鼓を打ちながら、麻紀に同意を求める。
「はい。こんな美味しい料理、あたし食べた事ないです」
麻紀も、姉の料理が気に入ったらしい。
麻紀は、笑顔で姉の料理に舌鼓を打っていた。
「あの…、遥さん?」
「なぁに?麻紀ちゃん?」
「今度、良かったら、あたしにも、料理教えて下さい」
麻紀は、少し遠慮するように姉に、お願いをしていた。
「もちろん。良いわよ。また、今度ゆっくりいらっしゃい。その時には、一緒に二人で料理を作って、そこの男連中を唸らせてやりましょ?」
姉は、俺と巧さんを横目で見ながら、麻紀に、自信満々に言った。
「はい。でも…、あたし、遥さん程、料理上手じゃないし…」
麻紀は少し、自信なさげに言った。
「参ったなぁ…。二人の美人に作ってもらう手料理程、素晴らしく良いご馳走はないぞ?最高だな。なぁ、静流?」
巧さんは、美味い食事と、体内にアルコールも補給されていた為か、上機嫌な様子で、喜んでいた。
そして、俺はと言うと、
「本当に、麻紀の手料理が味わえるのか?」
と思うと、興奮してしまい、いても立ってもいられなくなってしまった。
(あぁ…。早く、麻紀の作った料理、食いてぇ…)
俺の頭の中を、自分の勝手な妄想の世界が駆け巡っている。
「静流ー?どうしたの?おーい…」
麻紀は、箸をくわえたまま、ボーッとしている俺の顔の前で、手を振りながら、俺の顔を覗き込んだ。
「…えっ?あ、いや…。なんでもないよ。うん。なんでもないんだ」
俺は、慌てて我に返り、麻紀に自分の妄想を悟られないように、微笑みながら、必死にごまかした。
「どうせ、また、変な事考えてたんでしょ?」
姉が、意地悪な表情で俺を見た。
「なっ…。んな事、ある訳ねぇだろ?」
必死に反論する俺に、麻紀は、
「ホントかなぁ?」
と、姉の意地悪に便乗するかのように、まるで、小悪魔のような意地悪な表情で、俺を見つめた。
「だから、違うんだって」
俺は、必死に麻紀に訴えかけた。
「あはは。冗談だよ。静流」
麻紀は、笑いながら俺に言った。
「もぅ…」
俺は、頬を膨らませながら、口を尖らせた。
「あははは」
その様子が、おかしいのか、三人は俺を見ながら笑っていた。
こうして、霞家の、楽しい団欒の一時は、夜遅くまで続いた。




