Chapter 16
どれくらい眠っただろう。
ふと、目を覚まして時計を見ると、昼の1時を回っていた。
何故か、俺の目覚めは、すごく良かった。
ゆっくりとベッドから起き上がり、カーテンと窓を開ける。
俺の気分を表すかのように、青く澄んだ夏空が広がっていた。
爽やかな、優しく心地良い風が部屋中に吹き込んで来る。
部屋から出て、キッチンへ向かうと、姉が丁度、食器を片付けていた。
「おはよう」
「おはよう。でも、もうお昼過ぎてるけどね。昨日は遅かったのね」
時計を見ながら、姉は言った。
「あぁ。予想してたより手間取ってさ…」
「大変だったんだ?お疲れ様。寝起きだけど、何か食べる?」
「うん。軽く食うよ」
そう言うと、朝食とも昼食とも言えない食事を取り、顔を洗いに洗面所へ向かった。
部屋へ戻り、タバコに火をつけ、ベランダに面した、掃き出し窓の縁に、もたれ掛かるように座る。
窓の外は、どこまでも青い空が広がる。
(麻紀は、今、どうしてるんだろう…?)
そう思った時、ケータイの着信音が、部屋中に鳴り響いた。
「誰だ?」
ケータイを見ると、麻紀からの電話だった。
俺は、急いで電話に出た。
「おはよう。どうしたの?」
「静流…聞いて?あたし、彼氏と別れる事にしたの」
「えっ?何で、急に?」
「あたしね、彼氏が、合コンとか行ったりして、他の女の子と遊んだりするのが、もう耐えられないの…。あたし、静流の所が良い…。静流と一緒にいたいの…。だから…、これから彼氏と話して来ようと思ってるんだ…」
今にも、泣き出しそうな声だった。
俺は敢えて、深くは聞かない事にした。
「そっか…。分かった。麻紀が納得するまで、彼氏と話し合えば良いよ。俺は、今は、何も言えない立場だから…」
「うん…。あたし、彼氏と話して来るから。話が終わったら…、また会いに来てくれる…?」
「もちろん。会いに行くよ」
「良かった…。ありがとう…」
「じゃあ、気を付けて行くんだよ?」
「うん」
そう言って、電話を切った。
俺は、暫く窓の外の青空を見上げていた。
「トントン…」
部屋のドアを軽く叩く音がする。
「静流?入るよ?」
「どうしたの?ボーっとして?」
「別に、何でもないよ」
「なら良いんだけど…。はい。洗濯物乾いたから。静流の服、置いておくね」
「あぁ。ありがとう」
綺麗に折り畳まれた服を置いて、姉は部屋から出て行った。
夕方、麻紀から再び電話が掛かって来た。
「もしもし?静流?あたし、別れて来たよ…。あたしは、いつでも静流の所へ行けるんだよ…」
麻紀は、少し淋しそうな声をしていた。
「分かった。すぐ迎えに行くから。ちょっと待ってて」
「うん」
俺は、電話を切るなり、叫ぶように言った。
「姉ちゃんっ!!俺、ちょっと出て来るっ!!」
ケータイを握り締め、マンションを飛び出し、車へ向かった。
車に飛び乗り、麻紀に早く会いたい一心で、車を飛ばした。
隣町の駅で、麻紀と待ち合わせた。
「麻紀、ごめんね。待った?」
「ううん。平気だよ」
「良かった」
俺は、麻紀と合流して、二人でゆっくりと話が出来る、麻紀と花火をしたあの浜辺へ行った。
「いい天気だね」
「うん。潮風が気持ち良い」
「ねぇ、静流?」
「うん?何?」
「あたし、いつでも静流の所へ行けるようになったんだよ?」
麻紀は、笑顔で俺に言った。
「なぁ、麻紀」
「なぁに?」
俺は、麻紀を抱き締めて、耳元で囁いた。
「俺の…、彼女になってくれますか?」
「はい」
笑顔で答えてくれた。
「ねぇ、静流?」
「うん?」
「麻紀を、愛してくれますか?一番好きでいてくれますか?」
「もちろんだよ。麻紀は、絶対に離さない。俺と麻紀は、ずっと一緒だからね」
そう言って、麻紀をもう一度、強く抱き締めた。
「あたしも。静流、大好き」
沈む夕日に、赤く染められた二人。
暫く見つめ合い、引かれる様にキスをする。
麻紀の息遣いを、肌で感じた。
俺は、今までに、人をこんなにも愛おしく感じた事は無かった。
俺は、嬉しそうに話してくれる麻紀を、ずっと、麻紀の傍で見ていたかった。
俺は、自分の心と向き合い、心に誓いを立てた。
「麻紀だけは、絶対に何があっても離さない」
…と。




