Chapter 14
俺は疲労困憊だったが、麻紀の顔を見ていると、疲れが一気に吹き飛んだ。
「やっと終わったね。麻紀、疲れてない?」
「うん。平気」
「そっか。じゃあ、帰ろっか?」
「うん。そうだね」
二人、仲良く車に向かう。
「なぁ、麻紀?明日、二人共休みじゃん?遅いけど花火する?」
「うん。花火したい」
「じゃあ、そこのコンビニで花火買おうか?」
「やったぁ」
俺達は、バイト先の近くのコンビニに寄った。
「あぁ…、腹減ったなぁ…。麻紀?何か食べる?」
「うん。食べる」
「何が良い?何でも良いよ。持っておいで」
「じゃあ、あたし、好きな物取って来るね」
「分かった」
俺が、弁当を眺めていると、麻紀が俺に寄り添って来た。
「これにする」
麻紀が、持って来たのはパンと紅茶だった。
「それだけで良いの?」
「うん。あたし、あんまり、お腹空いてないから」
「ねぇ?静流?」
麻紀が、甘えた声で言った。
「うん?何?」
麻紀が、俺に寄りかかって来る。
そんな麻紀が、俺は、可愛くてしょうがなかった。
一通り買い物をして、前に二人で行った浜辺へ向かった。
俺は、車を走らせながら、パンを齧った。
流石に、真夜中だけあって、交通量は少ない。
目的地に着くまで、30分とかからなかった。
俺は、浜辺の近くに車を止めた。
「着いたよ。行こっか?」
「うん」
俺達は、道路から浜辺に下りる階段を下りた。
浜辺に二人並んで、しゃがみ込んだ。
買ってきた、花火を袋から取り出す。
「どれからやる?」
「これが良いな」
麻紀が手に取ったのは、小さな、一本の手持ち花火だった。
「綺麗…」
「ホント、綺麗だね」
二人は、その幻想的な光に暫く見とれていた。
「消えちゃったね」
花火は、瞬く間に燃え尽きた。
「今度は、ロケット花火でも打ち上げようか?」
「うん」
「でも、俺の打ち上げ方はちょっと違うんだ」
「どうやるの?」
麻紀も興味津々だ。
「このロケット花火を、手に持ったまま、火をつけるんだよ」
「危ないよ?」
「良いから、見てなって」
俺は、手に持ったロケット花火の導火線に火をつけた。
ロケット花火が飛び上がる瞬間に、夜空へ向かって投げた。
投げつけたロケット花火は、綺麗な弧を描いて宙を舞い、その後、ロケットの部分が、花火の柄の部分から勢い良く、夜空へ向かって飛び上がった。
まるで、本物のロケットが、空中で分離して飛び上がって行くように。
「すごぉい。空中でも、ちゃんと上に飛んで行くんだね」
「ホントのロケットみたいでしょ?この打ち上げ方、やり出すと面白いんだよね」
「高校生の時に、友達とよくやってたんだ。でも、一回失敗してさ。友達の、家の近所の浜辺でやった時なんだけど…。枯れ草の中に花火が突っ込んでね…」
「どうなったの?」
「枯れ草、燃えちゃったんだ…。しかも、燃えた場所が、笑えない事に消防車の車庫の裏でさ…。急いで、ペットボトルや、水が汲めそうな物に海水を汲んでかけたり、砂をかけたりして消したよ…。あの時は、マジ焦ったなぁ…」
俺は、苦笑いを浮かべた。
「あはは。駄目じゃん、静流」
「あはは。ホント、あの時は焦ったよ…。さて…と。次は、どれにする?」
「うーんと…」
いつかやっていたドラマ風に、花火を並べて一斉に火をつけた。
花火の真ん中に飛び込んだ俺。
花火に照らされた笑顔の麻紀。
色とりどりの花が、二人を彩った。
気が付けば、花火はほとんど打ち上げ終わっていた。
最後に残ったのは、一束の線香花火だけだった。
麻紀と、向き合って線香花火に火を付ける。
「可愛い…」
麻紀が呟いた。
月明かりの下で、二本の小さな花が咲いた。
ふと、我に返った時、波の音が俺の、すぐ背後に聞こえた。
俺は、振り向いた。
「あれ?いつの間に…。波がそこまで来てるじゃん。潮が満ちて来たのか…」
「静流、濡れちゃうよ」
「麻紀、早くその階段に上がって」
「うん」
俺達は、急いで浜辺から道路に上がれる階段を上った。
「危なかったね。静流」
「うん。ヤバかった。もうちょっと遅かったら濡れてたよ」
そう笑いながら、砂浜に忘れて来た線香花火を、拾いに行った。
「良かった。濡れてないな」
階段を上がり、残りの線香花火に火をつけ、麻紀に渡す。
線香花火の続きをしながら、俺は麻紀に言った。
「なぁ…麻紀」
「なぁに?」
「もしさ…もし、麻紀が彼氏と別れる事があったら…、その時は、俺が、麻紀の彼氏候補になっても良いかな?」
「うん。静流なら喜んで」
「麻紀…」
「静流…」
月明かりに照らされた二人。
いつの間にか、線香花火は消えていた。
麻紀は、そっと目を閉じ、俺の顔の方へ唇を近付ける。
もう止められない。
俺は、そっと麻紀の唇に俺の唇を重ねた。
「麻紀…大好きだ」
「静流…あたしもだよ」
もう一度キスをした。
俺は、照れながら麻紀に言った。
「麻紀、反則だよ…。誘われたら俺、抑えられる訳ないよ…」
「だって、静流とキスしたかったんだもん…」
そう言うと、麻紀は、更に、もう一度キスをして言った。
「静流…大好き。ホントに大好き。彼氏いなかったら、静流の所へすぐにでも行くのに…」
「駄目だよ、麻紀。ちゃんとけじめは付けなきゃ…」
「うん…分かってる。でも、あたしも止められないの…」
「麻紀…」
時は、暫く止まっていたかのように、波の音だけが月夜の静寂の中に響いていた。




