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Chapter 12


梅雨の曇り空は、海と、俺達二人を抱いているかのように広がっていた。



そして波音は、二人の耳に優しく打ち寄せる。



俺は、足元の浜辺の砂をかき集めて、小さな砂山を作った。



ちょうどそこへ、麻紀がどこからか棒を拾って来て、作られたばかりの砂山の頂上に突き刺した。



「麻紀?棒倒しする?」



「うん」



麻紀が、微笑んで頷く。



「ジャンケーン…ポン!!」



「麻紀からだね」



「じゃあ、砂いっぱい取っちゃお」



「意地悪だなぁ、麻紀は」



「意地悪だもん」



「あはは」



暫く、昔話をしながら童心に帰った二人。



俺はふと、ケータイの時計を見た。



時計は、夜の8時前になっていた。



「もう8時前だよ?麻紀、大丈夫?」



「うーん…。そろそろ帰ろうかな…」



麻紀は、家に帰りたそうではなかった。



「俺には、麻紀を無事に、家まで送り届ける責任があるから」



「うん。ありがとう。じゃあ、帰ろっか?」



「あぁ」



俺達は、ゆっくりと車に乗り込んだ。



浜辺から20分程で、麻紀の家の近くに着いた。



「麻紀。じゃあ、またね」



「ちょっと待って?静流、ケータイの番号とメアド教えて?」



「あぁ、良いよ」



俺は、ケータイを取り出して麻紀に手渡した。



それを片手に持ち、麻紀は、自分のケータイの中へ、真剣な表情を浮かべながら、俺の電話番号とアドレスを打ち込んで行く。



そして今度は、麻紀の方から、俺のケータイのアドレス宛てに、麻紀自身のアドレスと、電話番号が打ち込まれた内容のメールが送られて来た。



麻紀がメールを送って、ものの数秒で、俺のケータイの着メロが鳴る。



「それ、あたしのメアドと電話番号だよ。今日は、ありがとう。ホントに楽しかった。また遊んでね」



麻紀が、笑顔で車を降りた。



「あぁ。俺の方こそありがとう。じゃあね」



そう言って、俺が車を出そうとした途端、麻紀が思い出したように、声を上げた。



「あっ。ちょっと待ってて」



「あぁ、うん。」



そう言うと、麻紀は家の中へ入って行った。



俺は、麻紀に言われるがままその場へ待機。



暫くして、麻紀が家の中から出て来た。



「はい。この前、静流も、GLAY聴くって言ってたじゃない?新曲出てたから、CD貸してあげるよ」



「GLAY、新曲出したんだ?ありがとう。さっそく聴くよ」



「うん。じゃあ、気を付けてね」



「ありがとう。また、帰ったらメールするよ」



俺達は、そう言って別れた。



麻紀は、俺の車が見えなくなるまで見送ってくれた。



どんよりとした梅雨空なのに、俺の気分はすごく晴れていた。



帰り道が、こんなに楽しいなんて思った事は無かった。



音楽の音量を上げ、アクセルを全開にして、国道のバイパスを飛ばした。



その時、ほんの一瞬の事だったが、オービスのような物の光が、俺の目の中に飛び込んで来たのが分かった。



慌てて減速しても、もう遅い。



「やべっ…、やっちまった…。まぁ、良いか…」



今の俺は、そんな細かい事まで気にする気にもなれなかった。



マンションに着いた時には、夜の8時半近くになっていた。



「ただいま」



「あれ?今日は、遅かったのね?」



「あぁ、ちょっとね…」



「また、何かあったんでしょ?あたしには、隠しても無駄よ?」



「…別に」



「絶対、今日は良い事あったでしょ?顔が嬉しそうだよ?」



「良いじゃん。別に」



そう言うと、姉から逃げるように、部屋に入った。



さっそく、ケータイを取り出し、麻紀にメールを送る。



「ただいま。家に着いたよ」



麻紀から、すぐに返事が来た。



「良かったぁ。無事に着いたんだね」



「うん。さっきさ、オービスみたいなのが光っちゃって、焦ったよ…」



「大丈夫?オービス光ったの麻紀のせいだね…。ごめんね」



「運転したのは俺だよ。麻紀が悪いんじゃないよ」



「でも、遅くまで付き合わせちゃったし…」



「気にする事はないよ。大丈夫。やっぱり、麻紀は優しいね」



「そんな事ないよぉ」



暫く、彼女とメールを続けた。



「あのね、実は、あたしこっちに引越して来たばっかりで、友達いなくて…。静流と仲良くなれて嬉しかったよ。また遊ぼうね」



「分かった。じゃあ、今度は花火しようか?」



「うん。しよ。あたし、花火大好き。綺麗だもん」



「じゃあ、今度、二人の休みが重なる日の、前の夜にしようか?」



「うん。楽しみ」



「じゃあ、あたし、お風呂に入って来るから。またね」



「あぁ。またね」



麻紀とのメールを、一旦終えた俺は、新曲の歌詞を考えようと、自分の部屋の小さなテーブルに向かう。



今日は、何か良い詞が浮かびそうな気がしていた。



俊哉にもらった音源を聴きながら、シャーペンを片手に、何も書かれていない白紙のルーズリーフと、向き合った。



作詞の作業が最終段階に入った時、突然、麻紀からメールが来た。



「静流、起きてる?」



「起きてるよ。どうしたの?」



「なかなか眠れなくて…。あたしの彼氏が、「静流みたいな人だったらなぁ…」って、ずっと考えちゃうの」



「まいったな…。なんか嬉しい。でも、俺なんか、そんなに良い人じゃないよ…」



返信しながら、俺は、このまま溶けて消えてしまいそうな気分だった。



「そんな事ないよ。あたしには、分かってるから。そう言えば、静流は、明日もバイトだったよね?静流が起きれなくて、遅刻したらいけないから、またね」



「うん。また明日メールするよ。おやすみ、麻紀」



「おやすみ、静流」



再び、作詞の最終作業に入った。



時計は、真夜中を指していた。




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