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第二話

 全日本吹奏楽コンクール・高等学校の部・A組。

 課題曲、自由曲の2曲。

 演奏時間(2曲)12分。

 ちなみにこの演奏時間は少しでも超えれば失格となります。曲と曲の間の時間も含みます。

 演奏者の人数制限、55名。


 私の所属している吹奏楽部の部員数は約120名。

 つまり、半数以上は演奏で参加する事ができません。

 更に私達トランペットパートは14人。

 今回のコンクールではトランペットの出場枠は5人…


 出場するメンバーはオーディションによって決定します。

 ソロ(一人で演奏する事)を担当する人なども決定します。

 基本的に顧問(指揮者)が決定します。

 判断が出来ない場合(ソロなど、甲乙つけ難い場合があります)がある時は、誰が演奏しているか分からないようにして、全部員の多数決で決める事もあります。

 まぁ、これだけ練習していたら、だいたい誰が演奏しているか、音を聴くだけで分かりますが…


 前話でも記述した通り、私達の目標は。


『吹奏楽コンクール全国大会金賞』


 コンクール・高等学校の部・A組の近年の状況は。

 参加校約1400校。全国大会出場校30校。金賞授賞校10校以下。

 地域によって変動しますが、単純に計算すると、全国大会に出場出来る確率は約2.1%。更に金賞を授賞する確率は約0.7%となります。


 この確率をどう捉えるかは個人差があると思いますが、私はとてつもなく不可能な事にチャレンジしようとしている、と思いました。

 例えば天気予報の降水確率0%は0〜4%。つまり4%以下は雨が降ることは無い(だろう)と判断する、と言うことです。


 でも、全国大会に出場する学校も金賞を授賞する学校も実際に存在するので、確率は低くても0%(無い)ということはありません。

 中学生の時もコンクールに出場していましたが、(中学生の部で)「全国大会に出場出来たらいいな」くらいにどこか他人事ように思っていたのですが、今、私の所属している高等学校吹奏楽部はマジでその目標を達成しようとしているのです。

 もちろん中学生の時に全国大会に出場したことはありません。


 前述の通り、コンクールには出場(演奏)する人数は55人という制限があり、それより部員数の多い私の所属している吹奏楽部ではそのメンバーはオーディションによって選抜されます。

 また、全国大会に出場するレベル(演奏技術など)に達する者が少なかった場合は、その制限の55人以下となる事もある、ということでした。


 そして、上級生が(オーディションに)落ちて、下級生が選ばれる事もある、ということです。

 1、2年生には「来年」がありますが、3年生にとっては「最後のコンクール」となるのです。

「3年生を優先するべきでは?」と正直思ったのですが、オーディションをする前に、そんな考えは間違っていることに気が付きました。


 そもそも学年によってメンバーが決まるならオーディションをして選抜する必要はない事。

 また、オーディションで下級生が選ばれたのに、選ばれなかった3年生にその座を譲る、という事がどれほど相手を侮辱する事か、という事。

「全国大会金賞授賞」という目標は理想ではく、マジだ、という事です。


 従って、オーディションで選ばれたメンバーは、選ばれなかった人の分まで頑張らなけばならない。

 それに、最初のオーディションで選ばれたからといって、サボったり、演奏技術などが伴わなかった場合は、メンバーの変更もありうる、との事でした。

 実際、過去にそういった事が何度もあったそうです。

 まぁ、そうですよね。「強豪校」と言われるくらいなので、私が考える事くらいは既に経験して対策済み、ということです。


 そして、オーディションが実施され、1年生である私はコンクールのメンバーに選ばれました。

「ええええっ!」と叫んでしまったくらい驚きました。

 当たり前の話ですが、吹奏楽には様々な楽器、つまり様々なパートがあります。

 全体での人数制限がある、という事は、パートによる人数制限もある、という事です。

 その人数は、その年のコンクールの曲によって決まります。


 詳しい事は長くなるので省略しますが、今回のコンクール場合、トランペットパートの必要人数(人数制限)は5人。

 私が所属しているトランペットパートは14人。

 つまり、9人が落選したことになります。当然その中には上級生も居ます。


 確かに私は頑張りました。

 入部当時にあったプライド(今となっては小さく、何の根拠もない下らないプライドでしたが) はズタズタに引き裂かれ、粉々になって、その後、何度も心が折れそうになって、「辞めたい」と思った事は1度や2度ではありません。


 それでも「上手くなりたい」という想いで、先輩や同輩、顧問の先生(指揮者)、友達や家族にまで支えて貰いながらも、歯を食いしばって頑張りました。

 (私の所属している吹奏楽部には、こういう事に対する相談窓口となる新入生担当の先輩が複数人居ます。そしてその責任者は副部長です)

 それは、あくまで「上手くなりたい」「負けたくない」という想いであって、「コンクールのメンバーに選ばれたい」とは強く思っていませんでした。(「選ばれたらいいな」くらいでした)


 正直に言うと「選ばれる訳が無い」とも思っていました。

 そのため、選ばれた時にとても驚いたのです。

 そして次に、「選ばれた」事による責任がのしかかり、それに恐怖しました。


「選ばれた」事によって気付きましたが、私には、選ばれなかった9人の同じパートのメンバー、数十人の他のパートのメンバー達の想いや期待を背負う事になったのです。

 その中には、表だって口にはしませんが、恨みや妬みなどもあったでしょう。

 実際、コソコソと「あの子がどうして?」みたいな陰口のような事はありました。

 まぁ、そういうのは部長や副部長などの幹部が対処していましたが…


 受験を控えた3年生、実力的、健康的な事など、様々な理由によりコンクールの参加が難しい人のため、オーディションは強制参加ではありません。(今回、辞退する人はほとんどいませんでした)

 しかし、オーディションに自ら志願して参加し、「選ばれた」以上、全力で頑張るしかありません。



 オーディションの後、部内の雰囲気は劇的に変わりました。

 しかし、「選ばれなかった」とはいえ、その人達が練習しなくなる、ということはありません。

 初回のオーディションによって「選ばれた」メンバー(以後「コンクールメンバー」と表記します)は固定ではありません。

 技術的な事や病気や怪我、様々な理由によりメンバー変更する場合があります。

 それに、詳しくは省略しますが、コンクールメンバーをサポートする役割も多くあります。


 季節は「夏」となり、本格的にコンクールの練習が始まったのでした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 全国大会に出場したり、そこで金賞をとるのは本当に大変ですね。その確率を天気予報に例えているのがとても分かりやすかったです。 他の学校とも激戦ですが、自校内で演奏者を決めるのも、上級生下級…
[良い点] 強豪校の吹奏学部に入った事で中学時代のプライドが粉砕されながらも、それでもめげる事なく継続した努力が、コンクールの選抜メンバーへの採用という形で報われましたね。 視点人物の心理的な重圧はか…
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