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いつかのどこかの、おやすみの日

時系列・本編のどこか


日の暖かい、ある日の出来事だった。


「仕事もすんだし…午後くらいのんびりしねーか?」


そんなたった一言で、3人の歩みはピタリと止まったのだった。



ちょっとしたお休み



「のんびりって…してなかったなあ…」


考えてみれば旅続き、大した休みもなくひたすらに戦っていた。

だが、急にのんびり、と言われても思い付かない。


「なんかやりたい事とかねーのか?」


言われて、三人が三人ともに無言になる。

ロキだけはきょとんとこちらを見ているが、こんな急にしたいことを聞かれても思い付かなかったりする。

勿論欲はあるが、借金の事もあるのでお金を使うのも良くない。


第一フィールには今までそれほど暇と言う時間もなかった。

村では働いているか、誰かの話を聞いているか、食べてるか、だけだったのだ。

それでも、待ち構えたままの彼女へ、何とか答えを捻り出す。


「食べ物買いたいけど、お金は使えないし…安全な辺りで散歩かなぁ」

「あたしは喫茶店に行くわ、コーヒーか紅茶か…何にしようかしら」

「……俺は部屋に戻る、人混みは煩わしい」


見事に、バラバラだ。

しかし、仲間とは言え常に全員が一緒に行動しなくてはならない理由もない。

はずなのだが、回答を聞いたロキはしかめっ面になった。


「つー事は…『食べれて』『飲めて』『部屋』ならいいのか?」

「何で無理矢理まとめてるのさ!?」


のんびり、とは個々の意思を尊重…はしているようだが、あからさまに全員で行動したがっている。

真剣に考えている様子のロキに、それが嫌だと言うような者はいない。

だがその三つを組み合わせた結果があまり良いとも思えない。


「部屋にこもるんならいつもと変わらないわよね~」


旅の最中、ギルドがあれば必ず利用する宿兼酒場、つまりは見慣れた場所と食べ物と飲み物。

飽きたとは言わないが、新鮮味や安らぎを求める場所ではない。


「んー…ん~~……」

「……そう言う貴女は、何をしたいのだ?」


頭を抱えだしそうな彼女に、静かに問いかけを返したクライド。

もっともな質問だ、やりたいことを聞いたのは彼女なのだから。

皆答えを待つ。

待つ。

…待つ。

………ま


「てない!!なんでフリーズしてるのさ!?」


考え事をしている体制のまま、ロキはすっかり固まっていた。

いくらなんでもその反応は予想外だ、問いかけた本人が何も考えていなかったとは…


「いや…思い付かねーし誰かの意見に乗るかな~って…でもどっこいどっこいだから、とりあえずまとめようかなー…って」

「一番行き当たりばったりじゃないのよ…」

「…だが…まとめる手段を見つけたのか」

「ん?まあ一応な。部屋取り直して…」




一時間後




「こんな部屋もあるんだ…」


今四人がいるのはギルドの部屋。

いつもとは違い、かなりの広さがあり、一軒家のような気分になる。

風呂にシャワーにトイレに寝室に居間に収納に…キッチン。

一人どころか四人で普通に暮らせそうな位だ。

強いて欠点をあげるならば、ここが地下五階と言うことくらいだろう。


「ここもタダだなんて…あたし何年無駄したのかしら…」

「でも一番気になるのは…」


「「キッチンにいるのがロキな事」」


「……そうだな」


不機嫌そうなクライドが、相槌をいれながらもため息をつく。

ロキはこの部屋に移動してすぐにキッチンにこもってしまった。

途中クライドが手伝いを申し出たが、やんわり断られ、やきもきしているようだ。

フィールもキーラも気にはなるが、居間からキッチンはビミョーーに覗けない構成になっている。

ちなみにキーラが覗こうとしたら、赤チョークが飛んできた。…何故チョークなのかは…わからない。

物音はしているので調理なのだろうが…


「クライド…ロキって料理するタイプ?」

「……いや、放っておくといつまでもいつまでも何も食べない」

「駄目駄目にもほどがあるわね!?」

「ん?何がだー?」


当然のように会話に入ってきたロキ。その手の皿には…ケーキが。

白く円いフォルムに赤のコントラスト、大きくて甘そうな、ホールケーキ。


「ケー…キ」

「またせたな、ある程度までは作ってあったんだけど、数がさ」


いつの間にやらテーブルの上には数々の皿。どれもがデザートである。


「なら手作りなの…よね?」

「ま、たまにはな。新鮮味はあるだろ?」


新鮮味どころの話ではない、数々のケーキ等のデザート達は、店で見かけるような姿をしていて、これが手作りと言われても信じがたい程だ。

そう思いテーブルを見渡していたフィールの視線は、隅に置かれたカップに行き着く。


「飲み物?」

「いい香りね、コーヒーだわ」


湯気を上げているカップからは香ばしく、けれどどこか優しい香りがする。


「コーヒーだけは自信あるぜ?昔習ったからな」

「……ケーキも十分に自信を持つべきだと思う」


クライドの言い分はもっともだが、きっと無理だろう。

ロキはそういう人だと、最近思うようになっているから。


「でも…『食べる』『飲む』『部屋』全部満たしてるね」

「そうねぇ、美味しそうだし」


スプーンを構えたキーラ、切り分けようとしているクライド、眺めながら微笑むロキ。

いつもと同じで、ちょっとだけ違う日。

こんなのも、いいかもしれない。


「じゃあ食べちゃうわよ!」

「『食べる』は僕だって!キーラはコーヒー飲みなよ!」

「やぁよ!こんな美味しそうなんだから!」

「…少しは静かに………無理か」

「足りなかったらまた作るからよ!慌てるなって!」


結局僕らは、四人が一番。



おまけ


「ちょっとくらい食べなくても死なないからさー」

「…何馬鹿なことを言っている、そんな体重では説得力も何もないぞ!!」

「えー…」

「大体貴女は基本が栄養不足だ、好きな食べ物だけでも食べろ!」

「…やだなー…」

「ちょっと待ちなさい!なんでクライドが体重なんて知ってるのよ!?」

「突っ込みそこなの!?薬師なのに!?」

「…見た目が変わっていないからな…体重も変わらん」

「な、なんキロよ!!」

「え、おいこら体重の話やめようぜ?」

「それよりロキも食べなよ…本当、怪我ばっかりなんだし」

「…まあ…少しだけな」


「××キロだ」

「「!!!?た、食べなさい!?」よ!?」

「……(ケーキモグモグ)」


見た目の何倍も軽いロキ、その逆のキーラ。

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