テケテケ
かさかさかさかさ……
放課後、生徒会の仕事で残っていた静樹は下駄箱に向かう時、そんな音を聞いた。
校舎内に虫でも入ったのかと思い後ろを見てみると……
「なぁ~俺さ、テケテケを見ちまったよ」
「はぁ?」
ある日の昼休み、屋上で弁当を食べていた男達はそんな話をしていた。
「テケテケって何だ?」
「静樹、お前そんなことも知らないのか?妖怪だよ、妖怪」
「今時のこのご時世に妖怪やらお化けなんているわけないだろ」
「それが俺、ホントに見ちまったんだよ」
「夏希、それはお前の被害妄想だ」
「いや、マジで追っかけられたんだって」
「そもそもテケテケってどんな妖怪なんだ?」
「腰から下がなくて、めちゃくちゃ速いスピードで追っかけて来るんだよ。それにつかまるとテケテケにされるか殺されるらしいぞ」
「んな話ねぇよ」
夏希の話を馬鹿にしている静樹だったが心の中では少しびびっていた。
「ま、信じるか信じないかはお前次第だが……テケテケの噂を聞いた人のもとに3日以内に出てくるらしいから」
「なんで俺にそんな話をしたっ!」
「気にしないお前なら大丈夫かな~って思ったから」
「まぁそうだが……今日は生徒会の集まりが放課後にあった気が……」
「一応追い払えるって言われている呪文を教えとくよ」
まわりには誰もいなく、聞かれることはなかったが、夏希は静樹の耳元で小さい声で言った。
「…………だよ。ま、今日は気をつけろよ~」
「へいへい。せいぜい気をつけるさ」
その後、他愛もない話をいくつかしている間に昼休みが過ぎ、午後の授業が始まろうとしていた。
一日の授業が終わり生徒会の集まりに参加すべく、静樹はすぐに生徒会室に向かった。
生徒会室に着き、入ってみるとそこには薄い文庫本を読んでいる女性がいた。
「先輩相変わらず早いっすね」
「ん」
「……かわいい後輩が話しかけてるときくらいこっち向いてくれたっていいじゃないっすか」
「んも~……そんなこと気にしてちゃモテないわよ?」
「余計なお世話っす」
先輩は本から視線を外し、静樹を真っ直ぐ見てきた。
「ま、ちょうど区切りもよかったしいいわ」
「先輩は本当に本が好きですね。今度は何の本すか?」
「今回は四谷怪談の話ね」
「ぶっ」
昼休みに怪談の話をしていて、放課後にまで怪談の話をされるとは思わず噴いてしまった。
「なっなによっ静樹君」
「いっいや、昼休みに夏希の奴にも怪談話をされて……」
「ふむ……それは興味深いわね。何の妖怪かしら?」
「たしか~……テケテケ?」
その単語を聞いた瞬間に先輩は目を輝かせた。
「テケテケの話を聞いちゃったか~今日は気をつけなさいよ~?」
「なんでそんな嬉しそうな顔で警告してるんすかっ」
「いやいや、何かヤバイことでも起きなきゃいいな~っと」
「……やばいことって……」
「さぁね~?」
鼻歌交じりに知らん振りをする先輩。
「……もしあった時とかの対処とかあるんすか?」
「ん~しょうがないなぁ~いつもボクの話し相手をしてくれてるかわいい後輩君のためにアドバイスでもしてあげるかねぇ~」
「何なんですかっ?」
「2パターンあるんだけど……1つは『地獄に帰れ』って言うと消えるってのと、もう1つは~……」
「もう1つは……?」
「こりゃ~言いにくいんだけど対処の呪文がないってパターンなんだよ」
「……は?」
「だ~か~ら~もし現れたら逃げ切るしかないんだよ。まぁ時速100キロ以上で追っかけてくるらしいから無理だろうけど」
「流石にそりゃ無理っすよ」
「校舎の外に出れば追いかけてこないだろうけど……見つけた時にはもう遅いだろうね」
そんな言って欲しくもないことをあっさりと言ってしまう先輩。
「ま、対処があるパターンの方と出会うことを祈るんだね~」
「……一生出会わないことを祈りたいっす……」
静樹がため息をついた時にちょうど他の生徒会の人たちが集まってきて、生徒会会議が始まった。
「よし、じゃあ今日はこれくらいで終わりにしよう」
生徒会長のその一言で集まりが終わり、早々と帰ってしまう者が多数で静樹も帰ろうと思ったが、生徒会長に引き止められた。
「ちょっと静樹クン、この本を職員室に返しておいてくれないかな?」
「へ~い……」
めんどくさいことだったが生徒会長に頼まれたことだったから仕方なく受け入れた。
「じゃあ気をつけてね~」
そんなことを言いながら退出していく先輩をあまり気にしないようにして、ちゃっちゃと用事を終わらせることにした。
「失礼しました~」
職員室に本を返し、帰ろうとした時にはもうあたりは薄暗かった。
「流石にこの時間の学校は不気味だな……早く帰っちまおう」
早く下駄箱に向かおうとした静樹だったが、後ろから突然
かさかさかさかさ……
「ん?虫か?」
静樹が後ろを振り向くとそこには這いつくばっているような人影見えた。
「おっ……おい、冗談だろッ?誰かのいたずらだろ……?」
静樹がそんなことを考えている間にも人影はじわじわと近づいてくる。
そしてはっきりと見えるところまできた時に静樹は
その人影に下半身がないことに気が付いた。
「う、嘘だろッ!!」
次の瞬間、静樹は振り返り、全力で逃げようとした。
そして数秒遅れて上半身だけの妖怪、テケテケが腕だけを使って、全力で追いかけてきた。
テケテケの圧倒的なスピードで、数秒の差は一瞬にして追い詰められてつかまった。
「じっ地獄に帰れっ地獄に帰れっっ」
「うぅ……」
「きっ効いたかッ?」
「効くかぁぁっっっ」
テケテケは猛烈な力で静樹の身体を引っ張り……
そこにいたのは2人のテケテケだった。
今回は結構聞かれると思われるテケテケです。
いらない豆知識~(某ネコ型ロボット風
テケテケができたのは北海道で、冬のお話だそうです。
~ある雪の降る日の夜、駅のホームで電車を待っていました。
電車が通過するという放送がホームに流れました。
もうすぐ電車が見えてくるところで、後ろから突然押されました。
その人は線路に落っこちて……車掌の必死のブレーキもむなしく轢かれてしまいました。
落ちた人が大丈夫か見るために人が覗き込むと恐ろしい光景が目に入りました。
上半身と下半身が真っ二つに切れている人。
そしてその上半身が「痛い……いたいよ……」と苦しんでいたのです。
普通なら即死のはずでしたがこの日はその年一番の冷え込みだったらしく、血管が収縮して血液が流れ出すのを遅らせたようです。
そしてその轢かれた人は激痛の中、じわじわと死んでしまいました……~
こんなところからテケテケが生まれたらしいです。
しかしとある科学者達から言わせれば、「日本の寒さ程度で血管が収縮して死亡を遅くすることなんぞありえない」だそうです。
では、また次回の話まで……