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示し

俺たちは翌朝、ヴァイスさんの家族の人たちに別れを告げて馬車に乗ってドミニアまでの帰路に就いた。

「ヴァイスさん、昨日の話って何だったんですか?」

「あぁ、その件なんだけど、もうどうでもよくてな」

「・・・そうですか」

「なんだ、気にしてくれないのか?」

貴女(あなた)がどうでも良いと言うのなら、それはきっとどうでも良い事だったんでしょう」

「そうだな、私の婿になってくれと言う話ならそれはどうでも良い事なのかもしれないな」

「………怒ってます?」

「別に」

それから沈黙が続いた。

なぜ俺を婿に?

だが、もう聞くべきではないのかもしれない。

もし「どうして俺なんかを婿にしたいんですか?」と聞いたらきっと、「どうでも良かったんじゃないのか?」と返事が返ってくるに違いない。

だとするならもう話すことはない。

それに俺は彼女を異性としてとらえていない。

冒険者としては頼りになるが、それ以上でも、それ以下でもないのだ。


ドミニアまであと二日はかかる。

だから野営の準備をしていた。

「なぁモトナリ、お前にはピットがいるだろ。先に飛んで帰ってもいいんだぞ」

「そうですね、そうしても良いかもしれないんですが、何だか飛んで帰る気分じゃないので歩いて帰ります」

「そ、そうか・・・」

何とも言えなさそうな彼女をしり目に俺は野営を急いだ。

「お先にどうぞ」

ヴァイスさんに先に寝るように促した。

「なぁ、モトナリ、怒ってるか?」

「いえ、全く怒ってませんが・・・」

俺は正直面食らった。

どうやら今まで怒っていたと思われていたらしい。

「モトナリ、お前は優しい人間だと思っていた。だが違った、お前は私が思っているよりも少し冷たい人間だった」

「そうですか」

「お前は何故、他人を拒絶する、何故、子供には優しくできて大人には厳しいんだ?」

「別に子供にやさしくなんてしてませんよ。俺はただ子供の前で馬鹿な人間を演じると、教育に良くないと思っているから大人を演じているだけなんです」

「それは優しい人間でないと出来ないよ」

「そうですか、特に他人の評価何て気にしたことなんてなかったですけど」

「モトナリ、あまり龍人族(我々)をナメないでほしい。人間の中には我々の事を愚鈍なウスノロトカゲと揶揄する人間もいるがそれは誤解だ、我々はもっと過敏で繊細なんだ」

そんな事は分かっている。

「私たちは大気を通じて相手が心を閉じているか開いているかが分かるんだ。お前は少年の前では心を開いて私の前では心を閉じた。そしてレッドドラゴン様の前では、どちらでもなかった」

信仰とはそういう物だ、少なくとも俺の中では。

「私は恐ろしくなった。とてつもなく得体のしれない物を故郷に招いてしまったのだと。だがレッドドラゴン様は何も仰られなかった。という事は少なくとも村に危害を加えるような人間ではないという事だ。そして少年と接してるお前を見て安心した。こいつはまともな人間だとな」

「それはどうも」

「お前は変人だ。心が閉じている人間のくせに周囲の人たちに対しては驚くほど親切だ。だから私の鼻が鈍ったのかと思った。だが私の感覚は正しかった。次第に私はこう思うようになっていた。こいつが心を開いたらどうなるんだろうなって」

「それが俺を婿にしたかった理由ですか?」

「それもあるが、お前はCランクにしては強すぎる。龍人族の女は弱い男を決して選んだりはしない。お前はその女神無しでも十分に強い冒険者だ」

「体力もスタミナもそんなにないですけどね」

「だがお前の技の威力はどれも凄まじい、今まで私は信仰系の戦士を侮っていたが、お前のお陰で評価が覆ったよ」

「大袈裟です、それに信仰99ですから、そりゃそれなりの威力にはなるでしょう」

「それだよ、どうやったら信仰の数値がストップするほど祈りを捧げることが出来るんだ。私もこう言っては何だがお前と出会うまでは誰よりも信仰に熱いものだと自負していた。それがお前がやってきたことで私のプライドはズタズタだ、どうしてくれる?」

「どうもしません、それに、祈るだけが信仰ではないでしょう?」

「これは随分とおかしなことを言う、ではお前にとって信仰とはなんだ?」

「日常」

「・・・は?」

「以上です」

「いやいやいや、どういう事なんだ、説明してくれ」

「わかりませんか?人間一人の行動がありとあらゆる神の信仰に繋がるんです。善行を積めば良い神の気を引き、悪いことをすれば邪神の気を引くことになります。また善悪に縛られない特殊な神もいます。そして人間に捨てられた神もいる。だから(あまね)く神に愛の手を、それが俺のやりたいことです」

「邪神も拾うのか、身を亡ぼすぞ!」

「それはないでしょう、使い方を誤らなければいいだけです。邪神とて信者が消えるのは嫌でしょうから」

「私には分からなくなった。やはりお前は少々危険な存在だ、それを何故レッドドラゴン様はお許しになられたのか…」

「それはレッドドラゴン様の懐が深かったという事にしておきませんか?」

「ふむ、よもやそれしかあるまい」

「ご理解いただいたのならそろそろ寝てくれると助かります」

「それもそうだな、そろそろ寝るとしよう、おやすみ」

まったく、面倒くさい女に絡まれたものだ。

俺はなんとなく、右腕の袖をまくってレッドドラゴンの龍の印を眺めた。

天寿を全うするまでには気づいたら全身が刺青だらけになってなければいいが・・・

龍人の寝息が聞こえる。

まさか人生で初めて告白などされるとは思わなかった。

どうやら俺の人生、死んでからの方が充実しているらしい。

まぁ、なんだ、異性としては完全に無しだが、その気はなくても誰かに告白されるというのは嬉しいことのようで、信仰しかなかった自分の人生にもちょっと自信がついてくるような気がした。


翌朝から馬車で帰路を走った。

道中に出る魔物を屠りながら順調な帰り道だった。

そして我らがドミニアに辿り着いた。

「色々助かったぞ元就、出来れば次も一緒に行きたいのだが」

「えぇ、俺でよければいつでも誘ってください、ヴェルスのラッゲローセは絶品だった。仕事の骨休めには最適な場所です」

「そう言ってくれると助かる。それじゃあなモトナリ、良い夢を」

「ヴァイスさんも、良い夢を」

そう言って別れた。

薄暗い帰り道に右手で青い火をともす。

家まで辿り着いて誰もいない部屋に心で「ただいま」と言った。

「おかえり」

背中から声がかかる。

それはずっと憑いてきてくれていた我らが女神だった。

俺は改めて口に出すことにした。

「ただいま帰りました」

「はー、やれやれ、疲れたわ、先にシャワー貰うけぇ」

「どうぞー」

俺は暖炉に火をつけて何となく炎を眺める。

するとなんだか喉が渇いてきたのでエーテル冷蔵庫からラッゲローセを取り出してグラスに注いだ。

ラッゲローセを日本人が飲みなれた飲み物で例えるとアセロラやアサイーが近い味になるだろう。

俺は知人全員に今ドミニアに帰ってきたことをメールのような機能を使って送信した。

今回の旅では休暇と言う形で全員に応援には応えられないからよろしくと送っておいたのだ。

すると早速2件の依頼が入ってきた。

依頼内容を見て出来そうなものか確認する。

どうやらどちらの仕事もCだった。

さて、少し長かった休暇が終わる。

明日からまた働かなければならない。

ソファーで目をつむった。

レッドドラゴンの言葉を思い出す。


お前はそのうち、限界を超え始める


何となく気になって、おもむろに自分のステータスを見てみた。

信仰の数値は99だったが、信仰のステータスの文字の色が青く光り輝いていた。

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