第九十四話 肥料も味の内?
政務における三頭の一人、モルパがスプーンを握った。
彼は糞の王女と呼ばれ小麦の投機を台無しにしたマリーに不快感と敵意を抱いていた。
しかし彼の地位では誕生祝いには参列せねばならないし、食事もしないといけない。
スプーンで表面をすくい取ると下の層にひき肉が見えた。
取りあえず上の黄色い方を恐る恐る口に運んだ。
「…………ん……これは?」
初めての食感だった。
そして程良い塩加減と胡椒の香り。
未経験の味に舌が正直に反応している。
「この料理は……うまいぞ!」
他の者達も名も知らないこの料理を口に入れただけで、その味に惹き付けられている。
モルパは下層のひき肉も口に入れた。
「これもいいぞ、いける!」
いつの間にか頬張りながら食べ続けていた。
皆が新顔の料理を食べているのを確認したところでマリーが声を響かせた。
「この料理の名はパルマンティエ。考案した者の名を頂いております。じゃがいもを食材にした料理です!」
食に目が向いていた貴族達はマリーに視線を向き直した。
「彼がパルマンティエです。私にじゃがいもを紹介してくれた方です」
マリーが手を差し伸べた先にパルマンティエが照れくさそうに立ち上がり会釈をした。
「じゃがいもは飢饉に強く栄養価が高く、そして美味しい! 他国でも小麦に負けない扱いを受けています! この花もじゃがいもの花です」
マリーは髪に付けた白い花をいじって見せた。
弁舌滑らかに喋り続けるマリーの姿を見てモルパは何故か寒気がした。
これは何かの予感か……
「このじゃがいもは小トリアノンで収穫した物です!!」
「…………」
貴族達が声を失った。
それでは……
「肥料が良かったのでしょうね〜」
「うっ……」
モルパの喉にじゃがいもが詰まった。
「うっぐっ……な、なんという物を」
「皆さんの食べっぷりを見て安心しましたわ。じゃがいも栽培をフランスに広めます!」
いや、じゃがいもはいい。
肥料の方が安心できないだろうが!
これが誕生日にすることか!!
(この糞の王女!おかしい、絶対おかしい! 許せん!!)
怒り心頭のモルパだがマリーの弁はこれで終わらなかった。
「ここで皆さんに言っておきたい事があります。誤解があるみたいなので。小トリアノンで使っている肥料は人由来の物であるのはご存知でしょう。しかしずいぶん昔からパリでも同じ事が行われているのはご存知でしょうか?」
「何だと?!」
モルパが声を洩らしてしまった。
他の貴族も驚きを隠せない。
「パリ郊外の農村の畑にその肥料が使われています。意外と知られていないみたいですが。皆さんはずいぶん前からその肥料で作られた作物を食しておられます。全部がそうとは言いませんが」
そこまで言うとマリーはにっこり笑った。
「まあ、食べる時に気にする事はないという事ですよ」
そう言われて気にしないでいられる訳ないだろう。
誕生祝いに来て食べてる最中、食材育てるのに使った人糞肥料を想像させてどうするんだ。
貴族達の中に食事の手を止める者も出てきた。
国王は小トリアノン産のじゃがいも料理を黙々と食べ続けていた。
抵抗がない訳ではない。
狩りに行った時、小トリアノンの畑から臭いが流れてくる事もあった。
だから今食べているじゃがいも料理が人由来の肥料によって育てられた事も実感している。
それでも……常に自分に優しい妻を信じてみたい気持ちがあった。
その妻は隣で実に美味しそうに自分と同じ料理を食べている。
王は思う。
何と奔放な……羨ましい……
この後誕生祝いの宴は本人と一部の取り巻きを除いてぎこちなく進行し、それとなく終了したのだった。
肥料を想像して食べる事は普通ないですよね。
これも下ネタですか。
配慮も遠慮もないマリーでした。




