第九十三話 誕生日
「誕生日おめでとう」
今日はマリーの十九歳の誕生日だった。
おお……
十人ほどの観衆がどよめいた。
マリーが誕生日だったとは当然知らなかった。
「ありがとう御座います」
マリーはにっこり微笑んだ。
「祝いの贈り物は今夜の誕生パーティーに渡すよ。楽しみにしていなさい」
「はい、ところで……」
「?」
「今朝の食事に新たなメニューを用意しました」
「新たな……?」
「はい。昨日料理長に食材を渡し今朝の食事用に調理してもらいました。ぜひ試食を」
「ほう」
程なく新メニューの料理が国王の目の前に並べられた。
王は大皿の上に盛られた料理を見下ろした。
「……これは」
その夜マリーアントワネットの誕生祝いが行われた。
五千人以上が食事を取ることが可能というダイニングルームに貴族達が集まっていた。
色々と騒音が絶えない王妃の誕生祝いとは言え出ない訳にはいかない。
何事もなく終われば良いのだが……
すでに食卓には様々な料理が皿に盛られ準備は万端整っていた。
集まっている百人を超す貴族、軍人達が四方山話、主に王妃の噂を話していると。
国王が王妃を伴い現れた。
皆が国王夫妻に注目する中、王が挨拶の声を発した。
「皆の者、よくお集まり頂いた。今晩は我が妻の誕生日を皆で祝ってもらいたい」
マリーが続いて挨拶する。
「私の為にわざわざありがとう御座います。皆様、肩の力を抜いて和やかにお楽しみ下さい」
「それではまずは食事にしよう。席に付いて頂きたい」
言われるままに皆は席に付いた。
そこには。
一番手前に見慣れない料理が鎮座してある。
一同疑問の目をむける中、王が説明を始めた。
「今日は新しい料理を発注して祝う事にした。味の方は保証するので安心して欲しい」
そう言うと王は妻と共に座席に座る。
マリーはスプーンを持つ前に祈るように言葉を発した。
「今日、この日に祝福頂ける事に感謝を込めて……食します」
二人はまず新しい料理に手を伸ばした。
他の者達はそれを見て二人に倣うのが得策なのかと思った。
改めて料理を見ると……
四角い器に狐色の焦げ目の付いた黄色っぽい……何かが敷き詰められている。
この食材は何だろう?
チーズでもバターでもないだろう。
多くの者が少し躊躇してる間にも国王夫妻は当然のように食べ出している。
そして……
「うむ、これはうまい!」
聞かせるみたいに声をあげて食べる男が一人。
フィリップ伯爵だった。
「こんな味は初めてだ、素晴らしい!」
「そうでしょう、そうでしょう!!」
隣にいたのはパルマンティエ。
なんかとてもわざとらしい。
そして離れた席にいたテレーもテュルゴーも無言で食べ出した。
様子見だった他の者も恐る恐る初見の料理に手を付けるのだった。




