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第八十八話 下掃除人






 「咎めるつもりはありません」


 横一列に並ばされて膝まづく男四人をマリーは見下ろしていた。

 マリーの隣にはカーク、バジー。

 ビスケは投げたナイフの回収をしていた。

 樽に刺さったナイフを抜きながら呟いている。


 「本当、ナイフ投げの練習中に来るんだから、慌てたわ」


 そしてもう一人中年の頑健そうな女性がマリーの後ろに立っていた。

 彼女も樽に隠れてずっと様子を見ていたのだった。

 

 「私はこの場所の現状をこの目で確かめるため、あえて隠れていたのです。あなた達が事を起こす前に止められたのに、わざと。これで咎めるのは、ちょっとずるいでしょう」


 「……」


 男達は無言でマリーを見上げていた。

 まだ事態が飲み込めていない。

 男の一人が恐る恐る聞いた。


 「あの……貴女様はどなたで……?」


 「えっ、言ったはずですよ?」


 「いえ、あの時は狼狽えてて……ちょっと、その……」


 「そうですか。それでは。私は……マリーアントワネットです」


 名乗られてもやはり事態が飲み込めない。

 一国の王女のやりそうな事をこの人が、ひとかけらでもやったか?


 「ほ、本当ですか? 信じられん……」


 「嘘は言いません。まあ信じてもらわなくても構いませんが。ただ、ぜひお聞きしたい事があります」


 「は?」



 「あなた達は……ここで何をやっていたのですか?」

 





 話は数時間前に遡る。

 朝の八時過ぎパリではいつもの様にゴミの収集が行われていた。

 下掃除人と呼ばれる者たちが糞便などの回収をしていた。

 樽に糞便を詰め荷馬車でゴミ捨て場に運び出すのである。

 詰め込み作業が終われば路面を掃いて洗って綺麗にしなければならない、と言うことになっている。

 しかし実態はそこまで上手くはいってはなかった。

 

 下掃除人の女親方のカジェは今朝もいつもの様に作業を行なっていた。

 家の前に置かれた樽に糞便が入っており、これを回収するのである。

 荷馬車に樽を運び、いち早く移動せねばならない。

 止めっぱなしだと臭いがそこに充満してしまうからだ。

 そうなれば罰金ものだ。


 彼女は部下と共に自ら樽の回収に精を出していた。

 樽を抱え荷馬車に向かおうとした瞬間、


 ずるっ


 道に広がる泥に足を滑らせ体が後ろに傾いた。


 「うわっ!」


 このまま樽ごと背中から倒れるかと思った時、


 がしっ


 背後から自分を抱き止める者が。

 動きが止まったカジェはため息をつく。


 「ふう〜……あ、すまないねえ……」


 言いながら背後に振り向いた。


 「大丈夫ですか?」


 そこにはうら若い女性の姿が。

 着ている服は平民の物だが風貌には気品があった。

 場違いな雰囲気の人だ。


 「大変なお仕事ですね。毎日このように働いておられるとは頭が下がります」


 何なんだこの女?


 「あんた……誰だい?」


 「私はマリーアントワネットです。カジェさんですね。下掃除人組合のご紹介で来ました。少しお供させて頂きます」


 「何だって? マリーアントワネット!? 嘘だろ!」


 「嘘ではありません。何と言っても私マリーアントワネットは……」


 マリーはにっこり微笑んだ。


 「糞の王女ですから」




 



 と言うことで下掃除人の話です。

 相変わらずマリーがポジティブに糞の王女をやっています。

 そろそろ他の異名も欲しいなどと思っていますがどうなるでしょうか。

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