第八十七話 う○こファイト!
この作品はR15です。
昼下がりのパリのとある町外れ。
樽を抱えた男達が周りを気にしながら小走りで進む。
その後ろにがらがらと音を立てて台車を引く大男が続いた。
たどり着いた場所はため池の様な形をしており異様な臭いが漂っていた。
そう、それは巨大な肥溜めだったのだ。
彼らは樽に柄杓で肥を入れ始めた。
糞尿以外のゴミも含まれていたのでそれらは避けてすくっていく。
樽一杯になった所でしっかり蓋をして紐でゆわえた。
後ろには台車を引いた男が待ち構えている。
後は樽を台車に乗せてずらかれば良いだけだ。
「よし、これで……」
ごとっ
近くで物音がした。
「うんっ?」
音の方を見ると壁際に樽が数個置かれていた。
普段は見かけない物だった。
真ん中のなぜか短剣の数本突き刺さった樽が音を立てて揺れている。
「何だこれ?」
いぶかる男の眼前でそれは起こった。
樽から人の頭らしき影が現れ、更に勢い良く樽から飛び出した。
びょ〜んっ!
高々と上昇した人影を男は驚愕の表情で見上げる。
逆光を浴びたその姿から金髪がきらきらとたなびいていた。
どおんっ
着地を派手に決めると人影はすっくと立ち上がった。
腰を抜かして驚く男達を見下ろして人影は声を発した。
「私はマリーアントワネットです!!」
男達は完全に混乱状態に陥っていた。
突然名乗られてもどうしたらいいのか?
と、言うか逃げないといけないはずなんだけど頭が追いつかない。
他の樽からごそごそと人が出てきた。
カーク、ビスケ、バジーの面々だ。
「マリー様!」
叫ぶカークだが体が大きい為、彼だけ樽から抜け出せないでいる。
「ちょ、ちょっとお待ちを」
がらがらがらっ!
マリーに向かって台車が突進した!
さっと避けるマリーの傍を台車が走り抜ける。
大男が台車を突き飛ばしたのだ。
「おい、逃げるんだ!」
ごつい体に見合った野太い声で叫ぶ。
「お待ちなさい!」
と言いながらすでに大男の手前まで突進しているマリー。
「ああマリー様また!」
焦るカークだが樽が倒れて転がり出した。
慌ててビスケとバジーが追いかける。
一方マリーは大男の正面に立ちはだかりじっと見据えた。
一瞬怯んだ大男は焼け糞気味に両手を振り下ろした。
無造作に後退してかわすとマリーは振り下ろし終わった両手を掴んだ。
下から内側にひねる様にして引っ張ると大男の足が内股になり、そのまま前方に倒れてしまった。
ずんっ
「おああ……」
地に伏して茫然自失となる大男。
彼の鼻先に靴先が触れた。
「これで蹴ればおしまいです。そこまでしたくないので大人しくしてくださいね」
靴先が離れた瞬間に大男は顔面を地に付けてうなだれた。
残る四人の男は狼狽えながら柄杓を構えて応戦体制を取った。
「く、来るな〜! 」
マリーは無視して前進する。
「勘違いしてませんか? 別にあなた方を……」
「うんぐぬっ!」
掛け声と共にカークが踏ん張ると樽が軋み出した。
ばがっ
樽がばらばらになって吹っ飛んだ。
その有り様に四人が青ざめる。
柄杓を持つ手が震えていた。
(あら〜、追い詰めちゃったかしら?)
困り顔になったマリーにカークとビスケが合流した。
「マリー様、ここは我らに!」
「いえ、そうじゃなくて……」
四人の男達が柄杓を振り回して襲い掛かってきた。
「うわ〜」
ぶんっ
肥の付いた柄杓を振り回したら当然飛沫が飛ぶ。
ぴしゃっ
「ひっ」
ビスケが思わず後退した。
マリーはひょいひょい避けながら前進していく。
(マリー様!)
カークはマリーの果敢に攻める姿勢を見て腹を決めた。
真正面から突進をかけた。
びちゃっ
振り回した柄杓を木槌で受け止めたら肥が額にかかった。
「くっさ〜い!」
言いながら木槌で柄杓を跳ね飛ばすカーク。
飛んだ柄杓がビスケに向かって飛んできた。
「いや〜!」
悲鳴とともに剣を振り回し柄杓を跳ね返す。
しかし飛沫は跳ね返せない。
ぴちゃっ
「きゃ〜っ!」
頬に付いた飛沫に悲鳴をあげる。
農作業をやってた時より強烈な臭いが鼻をついた。
「も〜いや!!」
そしてビスケが跳ね返した柄杓は遠巻きに見ていたバジーの方に飛んで行った。
「うあ、俺まで!」
今度はバジーの頭に直接命中した。
こんっびちゃっ
「痛てっ臭さっ!」
鼻をつまみながらうずくまるバジー。
マリーは男達の一人と目と鼻の先に迫った。
「ああちょっと……」
「うわっ」
喉元まで接近された男は柄杓を振り上げようとしたが、その肘と二の腕をマリーに掴まれてしまった。
肘を支点に二の腕を下に回転させられると男は反り返りながら背中から倒れていった。
ずんっ
「話を聞いてください」
見下ろしながら首筋に爪先をこすり付けるマリー。
抵抗したらどうなるか……
カークは柄杓を弾いた相手を体当たりで倒した。
代償にかなりの被害を体に浴びて。
後二人残っている。
二人はマリーとカークに挟まれて背中合わせになって柄杓を構えていた。
「まあ、羨ましい」
「何言ってるんですか!」
「ああ言うのに憧れるんですよね」
しゅっしゅっ!
背中合わせの男達の足元にナイフが突き刺さった。
「うわ!」
怯む二人にヒステリックな声が響く。
「も〜うこれ以上動かないで!! 柄杓振り回さないで! いー加減にしてよ!」
ビスケは叫びながら更にナイフを取り出している。
「次は本当に刺さっちゃうわよ!」
背中合わせだった男二人が抱き合って震え出した。
「だから話を……」
二人に歩み寄りながら話しかけるマリーだが。
だだだだっ
「お前ら逃げろ〜!」
さっき倒した大男が突進して来た。
木槌を持つカークとナイフを持つビスケが反応する、一瞬前にマリーが大男の前に立ちはだかった。
さっと横移動すると大男の踏み込んだ左足を踏んづけ左腕を捕まえた。
前進しようとする大男の体がつんのめった。
そのまま腕を極めつつ左足を支点に突進力を横にずらしながら地面に押さえ付けた。
ずしゃっ
大男はマリーに左腕を極められた状態でうつ伏せになった。
「仲間を逃すために自らの身を投げ打つ。実に見上げたものです」
見下ろしながら感心するマリー。
「これでお話をできますね」
微笑むマリーの衣服の所々に茶色い染みが付着していた。
もう一度、この作品はR15です。
このタイトルで良かったのでしょうか?
久々のマリーの立ち回りの回でした。
王妃になって初めてですね。
次はいつ暴れるやら。




