第八十六話 テレーVSテュルゴー
「フロンとコシャンは解任すべきです!!」
「いや、その必要はない!」
「彼らは政務に役に立っていません! 私服を肥やしている!」
「それは彼らに限った事では無い!」
マリーがドアを開くと激昂するテュルゴーと怒れるテレーが声をぶつけ合っていた。
「おはようございます、テュルゴー様、テレー様」
笑顔で挨拶するマリーに二人が振り向く。
「これは……おはよう御座います、王妃様」
「おはよう御座います。王妃様……」
「賑やかですね」
「……」
「……」
「何が有りました?」
「私の部下の財務監督官の内、二人を解任すべきだとテュルゴーが主張しておりまして」
「彼らは職務をまともに行なっておりません。それを指摘しただけです」
「あら」
「政務に関わるポスト全部に公明正大な者だけを入れる事は不可能だ。ポストの数に人数が足りないだろう」
「なら出来るだけ公正に職務を遂行するような体制を作り上げるべきです」
「そう簡単にできる物では無い」
「よろしいでしょうか?」
マリーが二人の間に立った。
「私はデュ・バリー夫人が先王の加護の元に多大な散財をしていた時、一言も文句を言いませんでした。まだ王太子妃であった事もありますが。言っても変えて貰えないと分かってましたから。ただ自分だけは出来るだけ無駄、贅沢を控える事にしました。しかし王室貴族は贅沢を当たり前に行なっています。変えるのは困難です。それでもこの国の国民の為という意志だけは持ち続けていなければと肝に銘じております。その意志に基付いた行動をとってます。あなた方に期待しているのはそれです」
「……確かに前にもその様な事をおっしゃってましたな」
「それを忘れるな、と」
「という事で論争を続けて下さい」
「え?」「えっ?」
いや、もうテンションが落ちてるし……
冷静さを取り戻させてくれたのは王女ではないのか?
それをもう一度とは……
無理を言わないで欲しい。
「だから穀物取引は自由にさせるべきだ! 小麦が足りない場所は足りている所から買えばいい!!」
「いや、どこの地が足りなくてどこが余っているのを知るには余りに時間がかかる。大概分かるのは手遅れになってからだ! 穀物の不足は輸入した物で埋め合わせれば良い!!」
「知る時間を縮める努力を!」
「どうせ輸入は必要だからこのままで構わない!」
(白熱してますねえ……)
マリーは二人の激論を嬉しそうに眺めていた。
共にこの国を良くしようという思いからのぶつかり合い。
思いが同じなら大いにやって頂きたい。
(良いコンビになりそうだわ)
言い合う二人を横目にマリーは机に置かれた収支計算書を手に取りぱらぱらとめくってみた。
めくるだけでも随分かかる分厚さ……まさに労力の賜物。
覚えておこうとマリーは思った。
「だからです!」
「だからですな!」
言い争いはもうしばらく続きそうだ。
八月二十四日、テュルゴーは国務大臣に就任した。
テレーは財務総監に留任となった。
それは財務総監はその地位だけでは最高国務会議への出席権がなかったからだった。
これはのちに改正の余地があるだろう。
狼狽えたのは新たに三頭の一人になったモルパだった。
テュルゴーの就任をきっかけに旧陣営の一掃を狙っていたのに、まさかテレーと手を組むとは考えてもいなかった。
旧陣営のもう一人モプーも慌てた。
今までそれなりに上手く居座ってきた役職だがこれからどうなるのか見当つかない。
三頭に一人増えた状態で王女に傾いた二人とそれ以外。
特にモルパは現状に、というよりマリーアントワネットに反発心を強めていくのだった。
そして…………
じゃがいもの収穫日が間近に迫っていた。
政治的な話が続く中、色々と史実と書きたい事と受けそうなネタとのすり合わせを考えております。
知らなかった史実が出て来たりしてそれを暴れるのに使えないかとか。
とにかく頑張るしかないですね。




