第八十一話 後任人事
その年の七月初旬、ある動きがあった。
六月の国務会議以降に三頭体制から一人、エギヨン公が抜け代わりにモルパが就任したのだ。
彼はエギヨン公の義理の叔父にあたる存在で七十四の高齢だった。
デュ・バリー夫人と関わりが深いエギヨン公に辞任を勧めたのも彼であった。
彼は先王が亡くなった後すぐにマリーにも会っていた。
その時は最近のパンの値段を聞きまくられて泡を食ったが。
新国王ルイ十六世にも会ってある種根回しのような物をしておいたから、こうして三頭の一角に食い込めた。
問題はこの先だ。
果たしてこの三人でやっていけるのか。
それとも新たな大臣を引き入れ留任組に退場願うか。
自分の地位を失わぬようにしながら動かねばならない。
モルパはこういう時に頼りにする人が一人だけいた。
「……ヴェリ師に聞くか」
一方三頭の一人モプーもモルパ就任以前から新たな三頭の一人を考えていた。
財務総監となるべき者を。
今、テレーが財務総監だが彼はこの仕事に手を焼いているみたいなので、他の仕事に回るか辞めるかすればいい。
モプーはすでに一人の男を思い付いていた。
あの男でいいのではないか……
しかし彼の思惑は外れモルパが三頭に入ってしまった。
そして彼の思っていた男がやがて三頭の座を脅かす存在になるとは思ってもいなかったのだ。
一方こちらは小トリアノン。
マリーは畑の増設作業に自ら従事していた。
平民の衣服でクワを持って土を掘り起こしていた。
「だいぶ整ってきましたね。ところでパルマンティエさん、種芋の調達は?」
一緒に土を掘っていたパルマンティエが答える。
「はい、農業試験場に用意していた種芋を全部こっちに回して確保します!」
「まあ、なんと気前の良い! 感謝この上ありません」
仕事が一段落して風呂に入り着替えたマリーはパルマンティエと別れヴェルサイユに戻った。
「ヴェリ師ではございませんか。よくお越しになりました」
王の自室に入って来たマリーは来客に気付き笑顔で挨拶をした。
気前良く笑顔を振り撒くマリーに苦笑しながらヴェリ師は返答した。
「王妃様、相変わらずお元気ですな」
「はい、今日は何の御用で?」
「いや、」
ヴェリ師は王に振り返った。
「国王様と少し歓談を」
ここは観衆のいない部屋だ。
人に見せられない話でもあったのかもしれない。
一瞬、マリーの勘が働いた。
「そう言えばモルパ様がエギヨン公から政務を引き継いだのでしたね」
「あ……そうですな」
するどい、とヴェリ師は思った。
「今その話をヴェリ師としていたところだよ」
夫が話に入ってきた。
隠す気など毛頭無いようだ。
ヴェリ師は僅かに当惑の色を見せた。
「そうなのですか。それで……?」
「ああ、ヴェリ師はモルパに三頭の他に登用する者を助言したそうだ」
「国王様、そこまで明かしても良いのですか?」
「構わないさ、彼女は私の助言者でもある。国務会議でもそうだった」
「そうですか……御意に」
硬い表情でヴェリ師は受け入れた。
「そこでヴェリ師の推薦した者とはだね」
「どなたです?」
「……テュルゴーだ」
ヴェリ師はいわゆる司祭であり大聖堂のあるブールジュの地の大司教でもあった。
彼はソルボンヌ神学校時代のテュルゴーの同級生であり、友人だった。
そしてテュルゴーやモルパの助言者でもあったのだ。
「確か以前モプーもテュルゴーの名を出していた。ならば彼で良かろう」
「お会いになっているのですか?」
「いや、言葉を交わしたかもしれない程度だ」
「ではお会いにならねば」
「ああ……君も会いたいのか?」
「ぜひ!」
「分かった」
二人の会話を見てヴェリ師は微かに溜息をついた。
(やれやれ、暴れん坊が付いてくるのか……)
七月十九日。
国王はテュルゴーをマルリに連れて来る様に指示をした。
マルリはヴェルサイユの北方10kmにある町で、マルリー宮殿というヴェルサイユ宮殿以前は国王通常官邸に使われていた建物がある所だった。
テュルゴーは地方長官をしていたので、とりあえず近くに呼び寄せておくという事だ。
彼と国王の接見の日が近付いていた。
テュルゴーの名が出て来ました。
マリーとどう出会うのでしょうか。
政治的な話が続きそうです。




