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第八十話 じゃがいも推し





 

 真昼の小トリアノン。

 早くもパルマンティエはマリーと畑に立っていた。

 マリーがヴェルサイユを出たのが朝十時だから物凄い急ぎっぷりだ。


 「う〜んこれは匂いますなあ」


 パルマンティエは鼻を塞ぐ。

 

 「貴方はじゃがいもを育てる時は牛や鶏の堆肥は使ってないのですか」


 「あまり使っては無いですね」


 「使える物は使わねば。じゃがいもを育てる為にも」


 「参考にします」


 「それでどうでしょう、ここで育てられますか? 狭い所ですが」


 「やってみます。やるからにはきっと実らせて見せます!この国のためにも」


 「ありがとうございます。ところで……」


 マリーは少し神妙な顔になった。


 「どうしてそこまでじゃがいもを推しておられるのですか? ここまで情熱的に」


 「そこです!」


 パルマンティエは我が意を得たりとばかりに話し出した。


 「実は僕は元軍人でした。衛生兵として七年戦争に参加しプロセイン軍の捕虜になってしまったのです。囚人となり三年間ひたすら食べさせられたのがじゃがいもです。やっと釈放された僕はある事に気付いたのです。それは……」


 「それは……?」


 「収監された時より健康になっていたのです!」


 「まあ、なんて事!」


 「その時からじゃがいもの食としての素晴らしさを知り、これをフランスに広める決意をしたのです!何度も飢饉を経験しながら未だ小麦しか作らないフランス国民の意識を変えるために!!」


 「おお!そんな気高い意志を!」


 「この国の未来はじゃがいもにかかっているのです!!」


 「納得です!」


 この場にカークもビスケもいた。

 堆肥作りの農夫達も。

 しかし賑やかに話し込む二人は別世界にいるかの様だ。

 もう近寄れない。


 「では私も。私はパリを見てその不衛生さに落胆しました。だからパリを綺麗な街にするため無秩序に廃棄される糞尿を何とかしようと心に決めたのです。それには糞尿を肥料として再利用するしか無いと考えたのです。パリを美しく、そして農地を肥沃に、それがこの国の未来を作ると答えを導き出したのです!」


 「おお、そう言う事でしたか! では僕と志はほぼ同じではありませんか!」


 「ほぼそうです!!」


 「ほぼそうですね!」


 「ほぼ実現しましょう!」


 「ほぼしましょう!」


 手を取り合う二人。


 遠巻きに見ながらカークはつぶやいた。


 「もう勝手にしてくれ……」




 

 じゃがいもの栽培管理はパルマンティエに任せる事にし、農作業をする者は彼の指示通りに動く事とした。

 マリーも手伝うと進み出たのでカークやビスケも手伝うと決まってしまった。

 八月までは本格的作業をできないので畑の面積を広げる作業を行う事にした。


 「これで準備は整った。後は待つだけ……」


 じゃがいもは種芋という物を植えて栽培するそうだ。

 後一月で種芋を植え付けられる。

 それまでの間何をしていれば良いのだろう。

 実はこの間、政務に於いて動きがあった。

 辞任したデギヨン公の代わりに誰が政務に加わるか。

 すでに彼の叔父のモルパの就任が決定になり、それに続く人事が行われる動きが見受けられた。

 それは場合によっては留任したテレー師達をも一掃する可能性があった。

 そしてこの動きにマリーが引き込まれるのは必然なのだろう。

 最早マリーは政務に於いても重要な、と言うより危うい存在となっていたのだから。

 


 「パルマンティエさん、そして皆さん、明日も頑張りましょう!!」


 明るい声が響く。

 たとえ陰で何が進行していようともマリーはマリーであり続けるだろう。


 「おっと、明日はまだ先ですね、今日もしっかり頑張りましょう!」







 じゃがいも栽培が決定しました。

 史実より十年程ショートカットされました。

 フランスにじゃがいもが何をもたらすのでしょうか。

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