第八話 マリー、悪党と対峙する
騒ぎに気づいた人々が女剣士とそれに寄ってたかる男共を遠巻きに見ていた。
彼らは騒ぎを止めるには非力だったため傍観者に留まるしかなかった。
その中の一人に背後から大きな人影がかぶさる。
彼が振り向くとそこには。
頑強そうな大男と、背筋を伸ばした身分の高そうな少女と、出稼ぎっぽい風貌の男が二人、といった一団がいる。
その取り合わせに言葉を失っていると、出稼ぎっぽい男の一人が叫んだ。
「あ、あいつ『マリー様が馬で三人跳ね飛ばしたのを見た』って言ってた奴でねえか!」
指さす先には噴水背にして剣を構える女ににじり寄る男達、その中心にいるゲイル。
「この様な場所で剣を抜くとは!何と無法な!」
憤るカークの傍でマリーは鋭い視線を一点に投げかけていた。
「あの者が……悪党ですね!」
悪党。
この言葉を今日マリーが言ったのは二度目だった。
カークは一瞬どきりとしたが、今はそんな場合ではない。
「マリー様、私めにあいつらの相手を任せてもらえませんか?!」
「ええ、ついて来て下さい!」
「えっ?」
カークが絶句する間にマリーはゲイル達に向けて進んで行く。
「あ、お待ちを〜!」
慌てて追いかけるカーク。
さっきまで連れだっていた男二人はその有り様を呆然と見送っていた。
「な、何をしでかすんだえ?」
ビスケの間近にゲイルが迫る。
勝利を確信した傲慢な笑顔で。
(こうなった以上鞘を抜くべきか……?)
そうすれば一発勝負で切り倒せるかもしれない。
残りの者達は烏合の衆だ。
親分が倒れれば何とかなるかも。
しかしそれでは間違いなくこの地が血で汚れる。
ビスケに決断の時が迫る……
横並びに剣を構える男達の一番端の者が足音に気がついた。
振り向いた時には喉に親指が突き刺さっていた。
「うげっっ」
崩れ落ちる男の体をマリーは後ろにうっちゃった。
「わっ」
後を追いかけて来たカークにもたれかかる。
「ええい、邪魔だ〜!」
カークは片手で男を薙ぎ払った。
だが次の瞬間また一人カークにもたれかかってきた。
「またか〜!」
もう一度薙ぎ払う。
また一人。
「しつこい〜!!」
三人目を薙ぎ払ったカークの目に映った光景は、端っこ三人を片付けて真ん中にたどり着いたマリーと対峙する悪党の姿だった。
「て。てめえは誰だ?」
「ふむ。見覚えないと。では初めまして」
「何言ってやがる!この小娘!!」
我を忘れて興奮するゲイルを冷静に見つめる少女。
ゲイルはビスケの事も忘れているみたいだ。
これはビスケにとって千載一遇のチャンスだった。
しかし、ビスケ自身も驚きに我を忘れていたのだ。
三人抜きで男をなぎ倒してのけた少女。
(あの娘……マリーアントワネットじゃない〜〜!?)
婚礼の儀の時、観衆の中で見ていた。
間違いない!
なんで??
「マリーさ……」
「動くな!こいつを切るぞ!!」
ゲイルの脅しにカークの足が止まる。
マリーが完全に敵の間合いに入っていたからだ。
大上段にかまえた剣を振り下ろせば容易くマリーを切り捨てられる。
一体どうすれば……と言うより何でああも不用意に相手に近づくのか?
しかも余りにも堂々と。
そもそも自分の足元に転がっている三人の男は何だ?
何をどうやればこうなる?
改めてマリーの姿を見つめ直しカークは息を呑んだ。
彼女の表情に言いようも無い凄みを感じたからだ。
(まさかこの人……あの男と戦うつもりか?……素手で!)
やっとマリーの直接対決となります。
長かった、のかな?