第七十七話 子の心も親知らず
マリーは手紙を読む事にした。
今回は時間をかけてじっくり読もうと考えた。
封を開け手紙を取り出すと……
「?」
やけに字数が少ない。
目を通すと……
愚かな娘よ、あなたは糞に塗れて身を滅ぼす気ですか?
認められません。
このままではあなたは生まれ育った故郷、オーストリアに弓を引く事になりますよ。
あなたと戦いたくは有りません。
今すぐその身を律しなさい。
これは警告です。
「……ふ〜ん」
マリーは思った。
かなり我慢して文字を絞ったなと。
前の手紙とは大違いだ。
と、手紙の下方を見ると。
追伸
やっぱり言っときます!
とにかく控えめにしなさい、政治になど首突っ込まない様に!
畑仕事などもっての外、肥料など視界に入らぬくらい遠ざけなさい!
国王様のおっしゃる通りにして出しゃばらない様に!
あなたは外へ出過ぎです、部屋で大人しくしている事!
やるべき事はフランス王国と我が国の架け橋となる行為のみ!
わ か り ま し た ね !!
「やっぱり我慢しきれなかった……母は母にしかなれないのですね」
マリーは苦笑して手紙を封に戻し机上の鍵付きの箱に入れた。
これをこのまま残したらどうなるかな、といたずら心を持ったからだ。
「後世の人が読んだら母をどう思うかしら。ふふ」
自分自身の事は考えてない様だ。
そしてマリーは返事の手紙を書く事にした。
お母様、相変わらずお元気そうで安心しました。
私も元気で毎日を過ごしております。
今、私はパリの汚れを一掃する為に日夜努力をしております。
まず試しにヴェルサイユで人糞を集め畑の肥料とし活用しています。
これで小麦が育てばパリにも応用が見込めます。
お母様、私はフランスとオーストリアの友好を心から願っています。
王妃になったからにはこの国の民の笑顔と安寧のため、心血を注ぐつもりです。
それはオーストリアの民に対しても同様です。
両国の民の為にも私はこれからも前に突き進みます。
民の為なら糞に塗れるのも本望です。
それではお母様、これからもお互いの国の民を笑顔にするため精進致しましょう。
あなたの娘、マリーアントワネット
手紙を書き終え封をしたマリーは母の顔を思い浮かべた。
自分としては思った通りの事を書いただけだった。
しかしマリーの頭に浮かべた母の顔は…………
…………烈火の如く怒り狂っていた。
「ええ〜い、許さん!!」
手紙を受け取ったテレジアは烈火の如く怒り狂っていた。
「かくなる上はこの私が自らフランスに乗り込んで馬鹿娘を仕付け直してくれる!!」
「母上お待ちください、あなたがオーストリアを空けてどうするんです!」
「うるさい、今から行くんです!」
「だからダメですって!」
今にも出撃しそうなテレジアを息子ヨーゼフは必死に止めた。
「貴方の意見は聞くつもりはない! 行くのよ!!」
「だから〜!」
こうしてテレジアの訪仏はヨーゼフ二世の決死の努力で阻止され、代わりに彼自身が訪仏するという事で話がついた。
ただし実際の訪仏は諸々の事情で先延ばしとなるのであった。
話の最後にヨーゼフ二世が出ました。
史実では彼が訪仏するのは1777年となっているのでまだ先です。
しかし史実に反してテレジア自身が来仏するのも面白いかもしれないですね。




