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第七十三話 王の決意





 「たとえ糞に塗れようとそれで民の笑顔を見れるのなら本望です! そのために私はここにいる。私は、私は……民の為の王妃です!!」




 ……………………それ何だ?


 王妃の上に民があるのか?

 王家が国民のために配慮するのはあるかも知れないけど、そこまで極端な王妃が今までいたか?


 どう反応して良いかこの場にいる多くの貴族が惑う中、マリーは言葉を続ける。


 「威厳も必要でしょう。でも威厳で民の腹は満たされません。実を取る事も必要なんです。今の農村部は作物を作る熱量が下がっています。民の為に衣服を沢山作っておいて、肝心の作物を作るのをおざなりにしている……これで本当に民が喜べますか?収穫量の増加を切望します!」


 今度はややまともな発言になった。

 それでも賛同する気には到底なれない。

 目的以上に手段に拒否感が高い。


 事のお膳立てを手伝ったテレーも色を失った。

 ここまでやる人だったとは。

 我欲が無いけど我が強いというか。

 果たしてこのまま賛同側にいて良いものだろうか。


 「別にあなた方に私のように手伝ってくれと言っているわけではありません。ただ人糞の利用を認めて欲しいだけです。そもそも私らが直接手を煩わすものではありません。商売として成り立たせ庶民が自力で執り行える様にしなくてはいけません。私が手を出すのも事業が軌道に乗るまでです。それまでは手厚く事業を育て上げねばなりませんが。皆さんの多くはパリに住んでおられると思います。そのパリにまとわりつく汚れと臭いを無くそうとは思いませんか? できるはずです!あなた方がちょっと考えを変えて人糞由来の肥料で育てた作物を食する事を受け入れて下されば実現します。ぜひご理解を」


 貴族達は沈黙を続けた。

 たとえ皆が頭を悩ませるパリの腐臭が俎上に上げられているにしても、やはり納得はできない。

 しかし王妃がここまで熱弁しているとなると反論がしにくいのだ。

 王妃にも権力があるのだから。

 となれば彼女の傍らにいる最高権力者がどう出るかが問題になる。

 貴族の視線が王に向けられた始めた。

 王に視線を向けたのは貴族達だけではなかった。


 「あなた……」


 マリーは玉座に座った国王を見下ろしていた。


 「ごめんなさい。事前に何も言わないでこの様な私を見せてさぞかし驚いたでしょう?これが私の生き様なのです。民を大事に思い、民の為に人事を尽くす、そういう王妃なのです。それは私の身に付いたものであり変えられません。その様な私をどう扱うか、それは国王である貴方次第です。どうなさいますか……?」


 王は困惑をさっきから継続していた。

 人糞と言う単語をマリーの口から聞いた時から。

 いくら何でも王妃が、いや自分の妻が糞に塗れて農作業しているなどと考えるだけで……

 マリーはそんな平静を失っている夫に優しく声をかけた。

 

 「昨晩も言ったでしょう? これが私の意思です」


 「……!」


 「貴方は貴方の意思の元、決めてください。こんな私をどう扱うか」


 そうだ、昨晩お互いに意思を貫き通すと確認し合ったのだった。


 「貴方のお心のままに」


 「……そうか」


 正直、糞が肥料だとかは分からないが妻のやる事は信じてみよう思った。

 王は立ち上がり静かに話し出した。


 「私は……妻がやりたいと言うのならやらせてやろうと思う」



 おおおお?!


 これまでで一番大きなどよめきが響いた。

 それまでと違い疑問形と落胆の情が含まれている。


 「あなた、ありがとうございます!」


 マリーは夫の手を取り表情を崩しまくった。

 

 「とにかくやってみると良い。結果がどうなろうとかまわない。私が許そう」


 「はい、感謝この上ありません!」


 「え〜、それでは!」


 テレーが声を張り上げた。


 「小トリアノンにおけるマリーアントワネット王妃の事業は王妃の責任において取り行われるものとします。予算については近く試算をします。まだ実験段階なのでそれ程はかからないかと。王の、或いは王妃の権限において行われるので皆さんご了承を。追って通達を行う事とします。以上です」


 こうしてマリーの企ては正式に認証されたのだった。





 という事で人糞の肥料化が認証されました。

 これで終わる話ではありませんが……

 まだ種もまいてませんのでこれからですね。

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