第七十話 再来のショワズール
1774年六月十二日、国務会議が招集された。
国王ルイ十六世の緊急発令である。
先王亡き後政務を行う人間の留任、罷免、就任などのごたごたの最中でもあった。
その為会議の中でもそれらの事態が影響を与えたり受けたりする場合も予想された。
会議に参加するものは国王に三頭と呼ばれたテレー財務総監、モプー大法官、エギヨン公爵。
彼らが閣僚グループのトップだ。
その他にも主だった上流貴族の中で政務に携わっている者達がいる。
そして……
会議室へと向かう一人の男。
久しぶりにここに来た。
多くの貴族達の要望に応えて。
デュ・バリー夫人が身を引き彼女の派閥が一掃された後、彼の再帰が望まれていた。
会議室内では彼の来場を今か今かと待ち構えている者達が一つのグループを形成していた。
彼は会議室のドアを勢い良く押し開けた!
「あら、ショワズール公爵様! お久しぶりでございますわあ!!」
(うわあっ?! マリーアントワネットだ〜!!)
「よくおいで下さいました」
笑顔で迎え入れるマリーにショワズールが硬直してしまう。
三年以上経っても彼の苦手意識は全く消えていなかった。
(一体何で……この女が国務会議に?)
まるで蛇に魅入られた蛙化してしまったショワズール。
「それでどのような御用で? もしやこの会議に貴重なご意見でも頂けるのでしょうか?」
目を輝かせるマリー。
目が虚になるショワズール。
「あ……お、お久し振りで、ございます……王女様」
そう、王妃になったのだ。
だから国務会議にも出席してのける。
きっと前よりも、ずっと……ずっと!
「国王様もおいでですよ」
「久しいな、ショワズール殿」
いや王は別にいい。
「大分髪が薄くなったね」
だからいいって、余計な事言ってからに。
「こ、国王様……私は……」
どうするんだ俺?
「よろしければ公爵様も会議に加わって頂けますか?」
にっこり。
ああ、こんなにも恐ろしい笑顔など無い。
「い、いえ、私は……久々にご挨拶に来ただけです……ですので……これで失礼!」
そう言うと踵を返して彼は退出してしまった。
えええええ〜〜!?
彼を熱視していたショワズール支援のグループは、呆気に取られて彼を見送る羽目になった。
「あ、公爵様……」
思わず手を伸ばすマリーを夫は制した。
「マリー、彼は自分の時代が終わったと自覚したのだろう。ならばそっとして置くのが道理だろう」
「 ……そうですか」
マリーは伸ばした腕を力無く下ろした。
「ショワズール公爵様……お大事に」
ショワズールがここに来たのは彼の復帰を期待する貴族達の推しに突き動かされたからだ。
要するにもしかしたら、という気持ちが芽生えたのだ。
しかしマリーアントワネットが政治にまで食い込んで来たなら、自分が復帰しても仕事の場でしょっちゅう顔を突き合わせる事になる。
そんな事になれば権力の座を取り戻す前に心労でどうにかなりそうだ。
結局彼はマリーとぶつかるのを避け退散する事を選んでしまった。
彼の支持者を置き去りにして……
ショワズールはこれで打ち止めかと思います。
さすがにもう出番はないでしょう。
合掌。




