第六十九話 王妃の宣言
「無理なのだ。それを望む貴族は多い…………彼らの声は大きすぎる」
「声 の 大 き さ な ら 負 け ま せ ん わ!!」
「うわ!!」
王は思わず耳を塞いだ。
もちろん声が大きすぎるからだ。
「大丈夫です! 私も会議に出ます。理由付けはできてます」
「何と……だが奴らは高等法院の復活をも狙っている。突き上げは一つではない」
「心配いりませんわ」
ぎゅっ
マリーは夫を強く抱きしめた。
彼の早まる鼓動が感じられた。
「自分の意思を失わないでください。いえ、あなたの意思はこの私が守ります! 絶対!」
「な、なんでそんな事を」
「私だって自分の意思は失いたくない。だからあなたの意思だって……」
「…………分かった」
「……ありがとうございます」
「君が礼を言う必要はない。ありがとう」
「では、国務会議を国王の名の元に……」
「ああ、分かった」
マリーは夫を見てにっこり笑った。
「それじゃ寝ましょうか!」
「あ、……そうだな」
二人はベッドに仲良く入った。
「お休みなさい」
「ああ、お休み」
数分経たずにいつものようにいびきが聞こえてきた。
「あら、何と気丈な!」
マリーは夫が普段通りに寝てのけた事に感嘆するのだった。
翌朝。
小トリアノン宮殿にて。
遂に始まった。
そう、肥溜めで熟成させた人糞肥料が畑に撒かれる時が来たのだ。
肥溜めからすくった柄杓によって畑に肥料が撒かれていく。
熟成させて臭さは幾分下がったものの、十二分に人の鼻を曲がらせるものだった。
当然、通りがかる人々の中から我慢できずに文句を言う者が出てきた。
「おい、こんな所で何をやってるんだ! このヴェルサイユを汚す気か?!」
男に怒鳴られた農夫は型通りの答えをした。
「我らはマリーアントワネット様の命に従い農作業を行なっているだけです」
「ふざけるな! 王妃がそんな事命令する訳ないだろう!!」
「本当です」
「何だとうっ」
と言いつつも畑に近づく事ができない男。
肥の力は絶大だ。
ならばと石を拾い投げる構えを取る男。
対して柄杓を構える農夫。
「うっ……」
男は石を投げられない。
投げた時受けるリターンが大きすぎる。
「こ、この野郎! これが王妃のやることか!!」
「はい、王妃がどうかしましたか?」
「何ぃ?!」
背後からの声に振り向くと……
満面の笑みの女性。
衣服は平民の物だが顔を見ると間違いなく。
「お、王妃様〜!!」
「はい〜」
驚きの余り動けない男にマリーは追い討ちの言葉を放った。
「この小トリアノン宮殿は私の責任で運営しております。もちろん畑の管理も私です。あの農作業を行なっているのも私の部下となります」
「そんな、何でこんな事を……」
マリーは男はもちろん遠巻きに見ている野次馬達に向かって声を上げた。
「この畑における農作業はこれからも続けます! 止める気はありません! 誰にも文句は言わせません!!」
野次馬達がどよめいた。
「このフランス王国の王妃マリーアントワネットの名において!!」
どよめきすら消えてしまった。
「分かったらお引き取りください!」
マリーの勢いに一人残らず逃げ去っていった。
その有り様を見てマリーの口元が緩む。
「うふふふふ、これくらいやれば事件ですよね」
そして国務会議が招集された。
という事で国務会議が始まります。
マリーが政治にどう関わるかです。
まあ普通にはならないでしょうが。




