第六十八話 王妃の説得
翌日から糞尿は主に早朝に回収所に集められ、その後桶に入れられて台車で運ばれた。
小トリアノンで回収され肥溜めに入れられた。
とりあえず肥料抜きで畑が耕され作物の種を蒔く準備がなされていた。
しかしこうなると当然……
「何だあの匂いは……?」
小トリアノンを通る人達はこの匂いに驚き苦悶の表情を浮かべる事になった。
文句を言う者さえ出て来たが畑を耕す男達は全然取り合わなかった。
曰く……
「マリーアントワネット様の命により行っています」
の一点張りだった。
こうして一週間の時が過ぎ小トリアノンの有り様が噂になり、広がっていった。
「と、言う訳で順調です」
「どこがですか?騒ぎが広がってますよ!」
マリーに突っ込んだのはカークでは無くテレーだった。
ここはテレーの自室。
マリー自ら会いに来たのだ。
「実はここに来た理由ですが、まず…………」
マリーは話し始めた。
その内容を聞く内にテレーの顔色が真っ青になった。
「……それは本当ですか?」
「恐らく」
「ではどうするつもりなのです?」
「はい、小トリアノンの事を事件扱いにします」
「えっ?」
「そしてそれを議題に含めて今後の政務に関する国務会議を行います。これなら事件の当事者の私も参加できましょう。国王様は今、苦しい状態に置かれているので私が支えねばなりません。お力添えを!」
「なんと、そんな事をお考えだったとは……」
「国務会議の開催は国王様に願い出ます。何としても!」
「分かりました。こちらも人を集めましょう」
「では私は国王様の説得に」
「成功をお祈りしております」
「失礼致します」
マリーは言うが早いか部屋を出て行った。
見送るテレーは一息付いて呟いた。
「暴れん坊王女とは……こういうのを言うのか」
就寝前の王の寝室。
しゃかしゃかしゃか
マリーは歯を磨いていた。
夫にとって見慣れた光景だが、元々歯磨きの習慣は上流階級にも広まってはいない。
マリーは例外的存在だったのだ。
長年夫はその姿を見てきたが真似する気はなかった。
「あなた」
歯磨きを終えたマリーが寝床に入ろうとする夫に声をかけた。
「ん、どうした?」
「実は……私は三年半前偶然に先王が小麦の投機に付いての不正に関わっている事を知ってしまいました」
「何!?」
驚きの声を上げる夫。
唐突すぎるし意外すぎる。
何でそんな事を……
「そしてそれが先王からあなたの代になっても連綿と続いている事も」
「どうしてそこまで……」
「多くの貴族の間で話題になっています。主にその利権を守りたい貴族の間から。フィリップ伯爵もその一人でした」
「……何と」
「彼は有能だと言ったでしょう。私がちょっと尋ねただけで懇切丁寧に教えてくれましたわ」
それは有能というのか?
口が軽いだけではないか。
「彼は自らの行動を恥じて利権を捨てる覚悟をお決めになられました」
「そ、そうか……」
「お聞きします。小麦の投機は民にとって良い事でしょうか?」
「……」
「私はパンを求める労働者にパンを配給しました。あれはパンが無いから飢えたのでしょうか?それともパンが高すぎるから……」
「私にどうせよと?」
「もう終わりにしましょう。先王の負の遺産を引きずり続ける必要はありません」
妻の言っている事は確かに正論であった。
しかし言っている事とやっている事をを同じにする勇気が夫には足りなさ過ぎたのだ。
「無理なのだ。それを望む貴族は多い…………彼らの声は大きすぎる」
「声 の 大 き さ な ら 負 け ま せ ん わ!!」
声の大きい方が勝つ。
それで良い訳ないんですがね。
世の中往々にしてある事です。
正しく誠意がある人の声が大きければいいのですがw




