第六十三話 戴冠式
王太子ルイ・オーギュストは国王ルイ十五世が亡くなったと聞いた時、気を失いそうになった。
マリーが必死に支えてなんとか意識を保ったものの、その重みに苦悶の声を発した。
「何と重荷なことか……」
マリーは夫をいたわる様に抱き締めた。
「あなた、一人で抱え込む必要はありません。私もおりますし元々国は一人で成り立つものではありません。多くの人に力を借りればよろしいでしょう」
「そうか……」
少し冷静を取り戻した夫は大きく息をついた。
新国王の戴冠式はシャンパーニュ地方のランス市のランス大聖堂で行われる慣わしとなっていた。
当然親戚縁者その他含めて大人数での移動となる。
その準備におおわらわの中。
「散財させていただきます!」
「な、何だね?」
マリーにいきなり宣言されて夫は泡を食ってしまった。
式への出発を前にして何がどうしたというのだ……?
そしてルイ・オーギュスト一行は大きな行列を組んでランスに向かった。
程なく行列の両脇には労働者達が群がりパンを求める仕草を見せた。
この頃、品不足によりパンの価格が上昇し出していたのだ。
飢えに身を捩らせた男が行列の馬車に手を伸ばす。
「わしらにパ、うぐ!」
言い終わる前に口がパンで塞がれた。
パン伝いに先を見るとパンを突き出すあの噂の御方の姿が……
「次!」
マリーの号令が響き渡った。
こうしてパンを配る作業が始まった。
散財の理由はこれだったのだ。
祭り事を行う権力者の行列には、飢えた労働者が集まるのは予測できる事だった……一部の人間にとっては。
フィリップ伯爵に荷馬車と人員を借りてパンを欲する労働者にパンを差し出した。
カークとビスケも手伝った。
しかしこの様な配給もすぐに底をついてしまった。
運べる量も限界があり、元々品不足なため買い占められる量も限りがあったのだ。
「悔し〜!! これ以上渡すパンがない〜! まだ貰ってない人がたくさんいるのに〜!」
「マリー様落ち着いて……」
「パンが無ければこの身でも差し出した〜い!」
「いえ、マリー様は煮ても焼いても食えません!」
このやりとりには四年間一緒に暮らしている夫と言えども驚きを禁じ得ない。
「君、彼女は外ではこんな感じなのかね?」
新国王の問いにカークも言葉に詰まる。
「あ、いえ、マリー様は民思いの方なので……」
マリーの余りの悔しがり方にパンを貰えなかった者達も諦めて引き下がるしかなかった。
言っておくがこれは新国王の戴冠式に赴く為の行列である。
ランス大聖堂に無事到着した一行は戴冠式を滞りなく執り行った。
堅苦しい儀式の連続の中、マリーはそつなく自分の役目をこなしていった。
夫に寄り添う一方でマリーが興味を持っていたのはフランス国内でパリ以外の土地に来た事だった。
世界一とも言われる発泡ワインの名産地。
パリにも大量に流入している。
フランスのこれからを考えるにはパリだけを見ている訳にはいかない。
全体を把握する必要がある。
課題は山積みである上に……
今やマリーは王妃になったのだ。
権限もこれまでと比べるべくもない。
責任も遥かに重い。
となれば……
(やっと……やりたい事をやるべき時が来た〜!!)
しゅぼっ
「うわっ!」
コルク栓を抜いたシャンパンから勢いよく泡が出て夫にひっかかってしまった。
「ああ、ごめんなさい! こんなに激しく出るなんて……」
「いや、構わん。祝いの日だ。羽目を外すのもよかろう」
「ありがとうございます。国王様……」
「ああ、王妃よ……」
戴冠式の後の晩餐会の最中だった。
ここではまだマリーのやりたい事はお預けだった。
マリーが王妃になりました。
権限も大きくなったので何をやらかすかです。
色々とその力を発揮して頂きたいのですがどうなるやら。




