表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/353

第六話 噂の尾ひれ



 ヴェルサイユは開かれた宮殿である。

 先王ルイ十四世が民衆が宮殿に入るのを許し、王の庭園鑑賞法などと言うガイドブックまで出している。

 更に王の起床から就寝までの一部始終を観衆に公開するという極端な日常を堂々と行っていた。

 まるで劇場の舞台の主役の様な行為だったのだ。

 さすがにルイ十五世の代になってこのやり方は控えめになったが、それでも民の出入りは自由だった。

 と言う事は……


 王女が馬を駆って宮殿を走り回ったと言う話は一夜にしてパリの街にまで伝わった。

 たまたま庭園を見学していた民が目撃して吹聴したのだろう。

 貴族なら空気を読んで差し控える様な話でも民衆には関係ない。

 話に尾ひれが付いて広がるのも仕方ない事だった。


 

 「マリー様。お出かけになられるのですか」


 「はい。お付きの仕事をお願いします。」

 

 マリーはカークに言うとにっこり微笑んだ。


 「初仕事ですね」


 何かすごく緊張する、とカークは思った。

 何事も無く終わればいいんだが……


 マリーはパリの街を今すぐにでも見聞したいと考えていた。

 何しろパリに行ったのは5月末の結婚祝いの時だけだったのだ。

 これでは市民の生の生活など見聞できるはずも無い。

 だが、その前にやれる事があった。

 パリから来る民衆との交流。

 話を聞くだけでも価値はある。

 朝の日課を終えたマリーはカークを伴って自室から出た。


 マリーはなるべく大人しくて軽装の身なりにしたつもりだが、それでもかなり派手だった。

 普段着でこれなのだから王室というものは……今後は考えねば。

 カークはというと馬小屋の作業着からはかなり軍人寄りの衣装にしていたが、やはり軽装にしていた。

 軍人時代は大金槌を振り回す剛腕戦士だったが、さすがに宮中では木槌を腰にぶら下げるにとどめた。

 廊下を歩きながらカークが聞いた。


 「どちらへお行きになられますか?」


 「民が集まっていそうな所に」


 「……庭園、ですか」


 昨日騒ぎを起こした場所にまた行くのか?

 不安要素拡大。


 「そう、ですね……」


 マリーが思案顔をしていると向こう側から歩いてくる二人連れの男達。

 垢抜けない身なりから貴族ではない平民だと分かる。

 間近まで来た所でマリーは笑顔で挨拶の声を発した。


 「おはようございます!」


 挨拶されて彼らはびっくりした。

 身分とか何とか有るはずなのに、向こうの方から先に挨拶してきた。

 誰なんだろう、この人。


 「ああ、おはようごぜえます……」


 「どちらからおいでですか?」


 「ノルマンディー州からで。石切の仕事の出稼ぎで最近パリに住むように……」


 「おお、石切の職人さんでしたか!」


 「へ、へい……」


 「あなた方が切り出した石でパリの建物が建てられてゆくのですね。ご苦労様です」


 「はあ……」


 「近いうちに石切職人さんのお仕事を見てみたいと存じます」


 「そ、そんな大したもんじゃねえですよ」


 「いえ、きっと見るだけの価値が有ります。この国に必要な仕事なのですから」


 「そ、そうですか……」


 「私は職人というお仕事が大好きです。職人が腕を磨き、技術を上げ、それを広めて行けばそれが国の財産になります」


 「……よくわかんねえっす」


 「おお、これは失礼。自分の願望を勝手に喋ってました。お恥ずかしい」

 

 「あのお、こんなこと言うのも何ですが……どちら様でごぜぇますか?」


 「あっこれはどうも、言い忘れておりました。先に言っておくべきでしたね」



 (長〜〜〜い!!)


 カークが痺れを切らして震え出した。

 見ず知らずの初対面の民に、何をとりとめの無い会話を長々と……

 かくなる上は、と一歩前に踏み出した。


 「このお方はマリーアントワネット王太子妃であらせられる!私はお付きのカークと申す」


 「ええ〜?!」


 驚きのあまり一歩後退する二人。


 「あっ、あの、馬で庭園駆け回って三人跳ね飛ばしたっちゅうマリーアントワネットかえ?!」


 やはり尾ひれが付いていた。


 「あら、そんな事はしていませんわ。乗馬を初めて八年、そんな人にぶつかる様なヘマは絶対致しません!私の腕を見くびらないでください。横を通り過ぎたら驚いて地面にへたった人はいましたが」


 自信ありげに言い返すマリー。

 ショワズール公爵がへたったとは言わないでよ、と気を揉むカーク。


 「妙な噂に惑わされない様に。私が人を傷つけるなどとんでもない。分かりましたかしら?」


 「へ、へえ……」


 「まあ、悪党なら話は別ですが……」


 え、何言ってるの?

 カークはおろか、二人の民もそう思ってしまった。

 しかしマリーは気にも止めず笑顔で聞いた。


 「そう言えば、お二人はこれからどちらへ?」


 「あ、あの〜、て、庭園へ行くつもりでしたが」


 「そうですか!ご一緒しますわ」


 「え!?」


 「私共も庭園へ行くとこですので。ご遠慮なさらず」


 にんまり。


 「へへえ、仰せの通りに!」


 態度を改めると、マリーに続いて歩き出す二人を見てカークは眉をひそめた。


 (何の一行に見えてるだろう?)


 そう思いつつ、カークもその妙な取り合わせの一行の一人となって歩き出すのだった。




コメディ要素を増やしていますが笑ってもらえるかどうか。

庭園ではマリーに暴れてもらおうかと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ