第五十四話 睨み合い譲らない
「今日解った事があるんです。私の欲したものが何であるか……」
「欲したもの?」
ビスケが問うた。
カークと自分を見て言った以上は自分にも重要な事のはずだ。
「私は何度もあなた方と共に戦う事がありましたが、守ってもらう部下よりも……共に背中を預け合う味方が欲しかったのだと知ったのです」
「何ですと!」
カークが叫んだ。
それでは対等の存在だ。
「貴方が戦闘不能になっても私が代わりに戦う。私の身に危険が起きたら貴方が助け危険を取り除く。今日はそんな戦いでした。助け合い補い合い力を合わせる事、それができる者と共にいる事、それが私の欲した物と知りました」
「それは……戦友ではないですか!!」
「……あ、そうとも言いますかね」
「そうともじゃないでしょう! 何で王家の姫君と軍人崩れが戦友になるんですか?!」
「軍人崩れって私もですか?」
「いやビスケは軍人になれてはないだろう!今の仕事が初めてだろうが」
「あ、はい……」
話を脱線させてたまるか。
こういうの止めるのは慣れてる。
「私は貴女の部下です。マリー様を命に換えても守るのが使命です! これは動かせない」
「ならば私は王家の人間です。民をこの身を賭して守るのが使命です! これは変えられない」
睨み合う二人。
「私は以前マリー様に貴女の考え方を理解はできても賛同はできないと言いました。それでも命令されれば従う覚悟はあった。しかしマリー様が私を守るなどとは……しかも危険を犯してなど命令でも聞けません!」
「カークさんを信頼しているから背を預けたい。民のため共に戦いたいのです!」
睨み合う二人。
ビスケは思った。
もしかしてこのまま夜が明けるかも。
「共に戦った方が勝つ可能性が上がります!」
「マリー様を失う可能性も上がります!」
言い合う二人を見ながらビスケは欠伸をした。
自分にとっても決して無関係な話では無かったが睡魔に勝てなかったのだ。
(ああ……眠い……寝ます)
「あの人外と呼ばれた男はオーストリア生まれでした。暴れん坊姫と呼ばれていた私に憧れていたらしいです。しかし飢えと貧困から人の命を奪い、フランスに落ち延びたのです。それから何があってあんな怪物に……元は母国の民だったのに。私の守るべき民だったのに!」
「あの怪物に情けを……私を守るため情けを捨てたのですか」
すやすや……
「倒した後三人も失神者がいたので、そちらに気を取られ過ぎて人外が息を吹き返すのを許してしまいました。何と迂闊な」
「その失神者の一人が私なんですが」
むにゃむにゃ……
しゃかしゃかしゃかしゃか
「寝る前には歯を磨くのです。うっかり忘れるところでした」
「王太子妃ともあろうお方がそんなあられも無い姿、私に見せて良いのですか?」
「大丈夫です。背を預け合う味方ならば」
「そこに繋げるんですか!?」
ごろん……
結局カークも夜通しの言い合いで脱線する話に流されてしまったようです。
次で夜のパリ編終わりです。




