第五十一話 死闘
「噛みちぎれるものなら噛みちぎってごらんなさい!」
「えっ、いいの?」
「貴方が言ったのでしょう!?」
「やった〜!」
口を開いて前進する人外。
食いちぎる気丸出しだ。
マリーの挑発が効いている。
人外がマリーを目掛けて両の拳を振り下ろした。
前進して避けるマリー。
人外の懐に入ろうとする。
人外は身を沈めてマリーに噛みつこうとした。
全開した口の白い歯がマリーの眼前に迫る。
マリーも身を沈めて避けると右手の平を突き上げた。
手の平の付け根、いわゆる掌底を人外の顎にぶつけようとする。
マリーは腹に力を込めて腹部内で力の移動を行った。
移動した力は腕へ、そして掌底へと伝わり顎への打撃の力に上乗せされた。
ばちっ
掌底が人外の顎に炸裂する。
「うおっ!!」
衝撃で頭部が揺らぐ人外。
マリーの右手は人外の顎を掴んだ。
ここまでは上手くいっている。
直後、人外の手がマリーの右腕を掴んだ。
「!」
顎への打撃が効いていなかったのだ。
「捕まえた〜」
言いながらマリーの手を顎から外し引き上げる人外。
マリーの足が浮いた。
人外を凝視しながらマリーは喚いて見せた。
「食われる〜!」
人外が応える様に両手でマリーの右手を持ち直す。
「うん、食っちゃおう」
大きく口を開いてマリーの手を引き込もうとする人外。
浮いた両足で人外の胴体を挟み込み必死に抵抗するマリー。
圧倒的な力でマリーの手が開かれた口に接近していく。
「……」
その有り様をじっと見つめるマリーの目が見開かれている。
指先が人外の口内に入る。
その口が一気に閉じられようとした瞬間!
マリーが人外の後頭部を左手で押さえ込むと、全力で右手を突っ込んだ!
人外の歯が触れると同時に右手をねじる様にして回転させた。
口の上下に動く力が左右にずれ込んだ。
人外の上顎と下顎が互い違いの状態になった。
「うごおおおえっ!」
口から唾液を垂らしながら人外が慟哭する。
顎がずれたからではない。
喉の奥に異物が突っ込まれたからだ。
「おええええっ!!」
嗚咽しながら人外は背を丸めた。
これだけは人並みの反応だ。
マリーの両足が着地した。
止まらぬ嗚咽の反応に前屈姿勢で固まる人外。
マリーは人外の頭部を前後から挟んで離さない。
嗚咽に耐えながら人外は掴んでいる右手を引き抜こうと試みた。
口内で手を握りしめ抵抗するマリー。
最早全身全霊で引き抜くしかないと思ったか、人外は足を踏ん張り丸めていた背を一気に伸ばし反動をつけ、一気に引き抜こうとした。
人外の両足がつま先立った瞬間、マリーは口内の右手を一気に引き抜いた。
同時に後頭部を押さえていた左手を喉元に持ち直し、人外が体を伸び上がらせる力に合わせて差し上げた!
人外の体がわずかに浮いた。
左手一本でマリーは人外を持ち上げていた。
一瞬、マリーと人外の目が合った。
人外の顔に恐怖が宿っていた。
人外の頭部が回転し真下を向いた。
引力以上の速さで急降下していった。
どごっ! …………
降り積もる雪の上に人外の体が逆さに突き立っていた。
体が傾きゆっくりと倒れていった。
どさっ……
やっとここまで来た。
バトルが終局しようとしてます。
王太子妃編も終盤かな?




