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第五話 初めての部下



 向かい合うマリーとカークの二人。

 マリーはいかにも嬉しそうにカークを見上げている。

 対するカークは複雑怪奇な表情だ。


 「……という事で私のお付きの者としての役目をよろしく願います。今まで世話をしてきた馬の事も気になるでしょう。これまで通り馬小屋への出入りも認めますよ」


 これがさっきマリー様が言った後始末というやつか。

 これで罪を免れるというのか。

 しかし、しかし……


 「お断りします!!」


 どでかい声で怒鳴るカークにマリーは目をぱちくりさせた。

 そこはありがたき幸せとか言う所では?

 カークは溜め込まれた物を一気に吐き出す様に喋り出した。


 「身分の差から言えばお断りなど出来ない事など重々承知しております! 貴女がこの国を見て知って役に立てたいと言うのも!馬上から見た景色はさぞかし素晴らしかったでしょう!馬なら遠出もできますしね!この国の未来を作るなどと畏れ多い言葉も聞けました!しかし……しかし!」


 カークの感情が爆発した。


 「どうして勝手に馬をぶん取って走り回るんですか〜〜!!」


 さすがにマリーもカークの勢いに圧倒されてしまった。

 しばらくの沈黙、そして……俯くと顔を紅潮させてか細い声で答えた。


 「だって、だって、オーストリアから婚礼のため出発してからこの一ヶ月、全然馬に乗れなかったんだもの……」


 ええええ!?

 今さら年相応の女の子っぽくなっちゃった!!

 これまでとても年齢にそぐわない立ち振る舞いだったのに。


 「待ちきれなかったの……」


 いや、そんなしおらしい態度で言っても駄目な物は駄目だろう。

 しかしこんな可愛い一面もあったのかと知ると、これ以上攻めるのははばかれる。

 ならば!


 「マリー様、貴女は志の高い方とお見受けします。だがその為に決まり事からはみ出した行為に出られる場合もある様ですね。その様な貴女を見守り、時には諌める者が必要と知りました。私がその任に着いてもよろしいですか?」


 「えっ?では私のお付きの者になっていただけるのですか?」


 「お付きであり、お目付け役です!」


 マリーの顔に活気が戻った。

 カークはマリーの前で跪いた。

 彼を見下ろしながらマリーは呟く。


 「……感謝この上ありません。最高のお供です。カークさんと……」


 「私と?」


 「銀星号!」


 (もうもらった気でいたのか……まあ仕方ないか)



 銀星号の側に寄り添い立髪を撫でさするマリー。

 すっかり打ち解けている様だ。

 カークは思う。

 あの時大慌てだったから考える暇も無かったが、彼女が銀星号号の背に乗り走り出せたのは何故か?

 馬は元々人見知りだ。

 初対面の人間を警戒し、容易く背を許すものではない。


 なのに……


 俗に言う運命の出会いって奴だろうか?

 そこまで考えて寒気がした。

 自分には絶対当てはめたく無い考えだ。


 「ん?」


 すたすたすた


 いつの間にかマリーがカークの横を通り過ぎて行く。


 「皆さん!本日は色々とお騒がせしました。申し訳ございませんでした!」


 馬小屋の作業員全員に向けて声を張りあげるマリー。

 これも彼女なりの後始末なのだろう。

 そんなマリーの背中を見てカークは思った。


 (それをもっと私に言ってもらいたいよ)

 




 ショワズールは疲れ切った心身で思いを巡らす。

 静養中ではあるが国王に注進するしかない。

 話を聞くだけ聞いてもらっておいて元気になってから厳重に咎めて貰えばいい。

 国王の部屋のドアに辿り着きドアをノックした。

 ドアが開くと。


 「うひゃあっ」


 「あら、ショワズール公爵様、貴方も国王様のお見舞いに来られたのですか?」


 マリーアントワネットがあらわれた!


 「国王様、思いの外お元気なんですよ〜」


 王太子と言い国王と言いことごとく先回りされている。

 この女まだ十四歳の小娘なのに物凄くしたたかだ。

 

 「何かお疲れの様ですねえ、大丈夫ですか?」


 「……帰って休みます、国王様にくれぐれもお大事にと……」


 「お気をつけて〜」


 後にショワズール公爵は自らの派閥と対抗派閥の間でマリーアントワネットを奪い合ったとも押し付け合ったとも言われている。





 こうして慌ただしい一日は終わりを告げた。

 マリーはベッドの上で先に寝ている夫の顔を見下ろしている。

 初対面の時にこの人に何故か馴染んで和む感覚を覚えた。

 その理由を今日馬小屋に入った時分かった。

 彼から同じ匂いがしたのだ。

 幼少の頃から乗馬を学び自ら馬の世話をして慣れ親しんだ、あの馬小屋の匂いが。

 道理で馴染むはずだ。

 こんな小さなきっかけで第一印象が良き方向に転がり、その後の円満につながるのかもしれない。

 今日の夫は常に自分の味方だったのが嬉しかった。

 正に感謝この上無い。

 

 「よし、この調子で頑張ろう!次は……」


 今日できなかった事は……


 「街!!」


 結構大きな声を出している。

 が、この程度で傍の夫の眠りは妨げられない事をマリーはすでに学んでいたのだった。


 「おやすみなさい!」




 

 マリーが何故ルイ・オーギュスト王太子に初対面で馴染んだかの理由をやっと書けました。

 マリーを乗馬が大好きという設定もここからです。

 史実と睨めっこする程予備知識がなかったので色々大変ですわい。

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