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第四十八話 同郷


 




 マリーは思いもよらぬかつての母国語との再会に惑いを感じた。

 オーストリアからの移民なのだろうか。

 だが、今はそれより。

 マリーは帽子を脱ぎ肩を噛みちぎられた男に包帯がわりにして縛った。

 顎紐のリボンが上手く役立ったのだ。


 「うわあ、きれいい〜」


 怪物はマリーの解き放った髪に見とれている。

 マリーは怪物を見上げオーストリア語で話しかけた。


 「私はマリーアントワネット……」


 「マリーア、アントワニアっと?」


 噛みまくってオウム返しする怪物だが……

 明らかにマリア アントニアと言おうとしているのが分かる。

 オーストリア時代のマリーの名を知っている。

 これは一体……


 「そうです。私はマリア アントニアです。あなたは何者ですか?」


 「あれ〜? 僕の言葉しゃべれるの〜?」


 「はい、オーストリア生まれですから。あなたの知ってるマリア アントニアですよ」


 「え〜! お姫様〜、お姫様〜! 欲しい〜」


 何なのだろう?

 凶暴なのか無垢なのか分からない。

 戸惑うマリーに向けて怪物が首を傾げた。


 「君も逃げてきたの〜?」


 「えっ?!」


  逃げてきた……この怪物が!?


 「うん……死にそうだったの。お腹空いて……誰も助けてくれなくて……それでお祈りしたのよ。暴れん坊姫さん、助けてくださいって」


 「!!」


 マリーは言葉を失ってしまった。

 まさか、そんな事があったなんて!

 自分が誰かからそんな風に思われていたなんて。

 確かに人助けをした事は何度もあったけど……

 

 「お祈りだめだったから、食い物盗ろうとして……殺しちゃって……ここに来たの」


 自分にめぐり合わなかったから?

 救ってやれなかったから?


 「あなたは……」


 「うん、僕ね、みんなは僕のこと……ジンガイとか言ってるよ」


 「人外!……」


 なんて呼び名を!

 だがそれは果たして体だけを意味するものだろうか?

 心も人から外れてしまっているのではないだろうか。


 「ここ、いいよ。みんな食い物くれるし、女の子きれいのいるし」


 言いながらしゃがんで倒れている女性の金髪を撫でた。


 「へ、へ」


 「おやめなさい……」


 「んん?〜」


 「その娘をお渡しなさい……」


 「んん〜、何だろ。君のきれいな毛もなでたいな〜」


 「どうぞお好きに。この私……暴れん坊姫を差し上げます。代わりにその娘をお渡しなさい」


 「や、やだ〜りょうほう、りょうほう!」


 これでは埒が開かない、とマリーが考えていると。


 「マリー様〜」


 カークの自分を呼ぶ声が聞こえた。

 思わずマリーは声を返してしまった。


 「カークさん、ここです!」


 「マリー様! 今行きます!」


 言葉のやり取りの後、程なくランタンの灯火が闇に浮き上がり近づいて来た。


 「マリー様、ご無事で!」


 ランタンを持ったカークが現れた。

 マリーの前に……そして人外の前に!

 彼はカークの姿を見て表情が極めて不機嫌そうに豹変した。


 「何、あんた……」


 マリーは人外に振り向き見て表情を曇らせる。


 (これは事態が悪くなった……?)





 カークはマリーの前にランタンを置くと大金槌を取り出した。


 「マリー様、ここは私に」


 「お待ちなさい!娘さんがまだ」


 「分かりました。私が戦っている間にお願いします」


 カークは人外を睨みつけた。

 

 「じゃましないでよ……食っちゃうよ」


 「?」


 オーストリア語のまま喋る人外の言葉をカークは理解できない。

 しかしマリーは。


 「噛み付いてくるかもしれません、気をつけて」


 「はっ」


 金槌を構えながらカークは前進していく。

 人外は動かずカークを凝視している。

 近づく程にカークと人外の身長差が際立った。

 2メートルに近い男とゆうに超える男。


 人外を見上げながらカークは金槌を振りかざした。


 一方人外は…………



 傍らの娘を振りかざした!!


 「!!」


 娘の肩を掴むと驚くカークに向けてぶん投げた!

 カークは慌てて頭から吹っ飛んでくる娘を両腕で受け止めた。

 手から離れた金槌が雪道に音を立てて落ちる前にカークの脳天に拳が落とされる音がした。


 ぐしゃっ


 娘を抱きかかえたままカークは倒れ行く。

 背中から、娘に何のダメージも与えずに。

 金槌がごとんと地に落ちた音を聞きながらカークの意識は遠のいて行く。


 「マリー様……」


 「カークさん!!」


 人外が倒れたカークに追撃を加えようと踏み込んだ瞬間、目の前にマリーが立ちはだかった。

 構わずカークの顔面を踏みつけようと足を上げた瞬間、軸足が回転し人外の体が回れ右してしまった。


 「あれ?」


 顔面を踏もうと足を上げた瞬間にマリーが上げ足を取り力の方向をずらしたのだ。

 雪が足を滑らし容易く回転した。

 人外が背を向けた間にカークの状態を確かめるマリー。


 「逃げてくださ……」

 

 一瞬体が痙攣し、カークの意識が途切れた。

 

 「カークさん!!」


 「ん〜と……」


 背を向けた人外が再び回れ右をした時、そこには憤怒の形相をしたマリーの姿があった。


 「絶対に許しません!!」



 そう、人外はこのパリ、いやフランスにおいて初めてマリーを本気で怒らせてしまったのだ。




 


 人外がマリーと間接的に関わっていたのは作者の個人的こだわりです。

 カークが負けたので次はマリーとの戦いとなります。

 力と技のぶつかり合いでしょうか?

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