第四十四話 フォーブール・サン・マルセル
ハンナと呼ばれる女性を担いだ巨大な誘拐犯は雪道を東に走り続けていた。
道行く人や馬車などにお構いなしに。
途中で異常に気付いた通行人の男が手を開いて止める仕草をした、
しかし誘拐犯はかけらも速度を落とさず、すれ違いざま上腕を男の喉にぶつけた。
ばしっ!!
吹っ飛び雪面を数メートル滑り行く男。
一緒に歩いていた男が慌てて滑り去る男を追いかけて行った。
マリーは誘拐犯を追いかけつつ、自分の甘さに歯嚙みした。
前を走る誘拐犯の歩幅の大きい事!
人一人抱えているなら速度もやがて落ちるだろうと思っていたのに、一向にその気配はない。
少しづつ引き離されているのが分かる。
こんな事なら倒れていた二頭の馬が走れるか確かめておけば良かったか。
悔やんでも始まらない。
何としてでも追いつかねば……
カークは誘拐犯どころかマリーからも引き離されようとしていた。
腰の大金槌がやけに重く感じる。
いっそ捨ててしまうか?
そう考えた時カークは強烈な悪寒を感じた。
あの自分よりも大きな、二メートルを軽く超えている怪物。
金槌を捨てるのは危険だと自らの生存本能が叫んでいる。
このままで追うしかないのか……
と、カークはずっと前を走るマリーの動作に違和感を感じた。
何か、と思ったら。
なんと右足を前に出したら右手も前に出し、左足を前に出した時左手が前に出ていた。
こんな走り方で良くあれだけ早く走れるものだ。
それともこれも奥義とか言う物なのだろうか……
「ハンナ〜! ハンナ〜!!」
横倒しの馬車から男の叫び声が聞こえた。
ビスケは慌てて馬車に入り込んだ。
しばらくしてビスケは馬車から男を背負って出てきた。
「旦那様!」
馬車の男が叫ぶ。
「大丈夫、怪我はしてるけど意識はしっかりしてる」
旦那様と呼ばれた男は背中越しにビスケに問いかけた。
「ハンナは、娘はどうした?」
「大男が娘さんを担いで逃走しました。今、マ、……私の仲間が追っています」
「あああ、何という事だ〜!」
頭を抱える男にビスケは聞いた。
「事の次第をお教え願えませんか?まずはお名前から……」
「……私はマーク。警察署長だ……主に……フォーブール・サン・マルセル街区の」
「!!」
ビスケとバジーの表情が急変する!
「サン・マルセル!!……」
区切りの都合で少し短めになりました。
ご了承を願います。
次はもう少しは長くなるはずです。




