第四百三十九話 酒場での思案
夜も深けたパリのとある酒場。
うらぶれた雰囲気の店内では客はたった一人。
その一人はあまり明かりの届かない片隅の卓に陣取っていた。
ここがこの男のいつもの定席だった。
あまり背の高くない彼は体を丸め、更に小さく見えていた。
彼は考え事に集中しているせいか一杯目の酒にも口を付けていなかった。
(この前のイノサン墓地で手駒のほとんどを失ったからな……おかげであの後大変だった)
再び手駒を揃えるのは至難の業だった。
失ったのは手駒だけでなくこの闇業界での信用もだったのだ。
失敗を繰り返せばこの界隈の同業者が寄り付かなくなる。
(あのマリーアントワネットは疫病神だな……くそっ)
あれから人集めをして何とかがたいの良い男達数人を確保した。
今の彼の信用では腕の良い仕事人は集まって来ない。
それに集めただけではどうにもならない。
計画が必要だ。
漠然とした作戦はあった。
腕は無くともがたいさえあれば何とかいけそうな作戦が。
しかしそれはケリーさえ躊躇をしかねない危うい作戦だった。
(腹を決めてやるとしてもお膳立てをどうするかだな……何かいい手はないか)
ケリーは頭にある情報をひっくり返してみた。
(ううん…………オーストリア女王が来た事は使えるか?)
仲間のフロンから女王来仏の話を聞いた時は王妃暗殺に女王を利用する事には否定的だった。
しかし本当にそうなのか?
狙いは王妃なのだから女王は利用だけして危害を加えなければ事は上手く運ぶのではないか?
(女王はおそらくお忍びで来ている。市民、国民には何も言ってないもんな)
と言うことは…………
突如ケリーは大きく目を見開いた。
「そうだ! 女王がここに来ている事をパリ中にばら撒けば…………もしかしたら俺の望むお膳立てができるかもしれない!!」
思わず口に出したケリー。
卓に置かれた酒を一口飲んで席を立った。
「こんな流行らない店にいても仕方ない。もっと人の多い賑やかな店に行かねば!!」
言いながら店の主人へと歩を進め勘定を済まそうとした。
店の主人が露骨に嫌な顔をしているのも気に留めずケリーは店を後にするのだった。
翌日。
ヴェルサイユ宮殿では慌ただしい空気が流れていた。
午後、昼食後に王国の重鎮達が女王マリア・テレジアとの謁見を執り行うからだった。
お忍びであるという事情から場所は国王の私室の中で最も大きい部屋に集められた。
王族、大臣、長官クラスに軍人のトップ、教会の枢機卿といった錚々たる者達だ。
謁見の儀は粛々と行われ特に支障も無く終了した。
女王テレジアが比較的大人しくしていたので無難に済ます事ができたのだ。
もちろんマリーもいたので多少は不穏な空気になりはしたが。
そこの所はテレジアもわきまえていたのだろう。
謁見が終わった後、当然首脳会議とならねばならなかった。
悪巧み。
色々考えておりますが実行にはまだ時間がかかりそうです。
一方ヴェルサイユでは大立ち回り後のテレジアがどう出るのでしょうか




