第四百三十三話 親子喧嘩の決着
「はあっはあっはあっ」
何周か回って追いかけるテレジアの息が更に荒くなっていく。
足取りもおぼつかなくなっている。
(もう頃合いですか……)
マリーは立ち止まって回れ右した。
追いかけるテレジアがマリーに追いつこうとしていた。
両手を広げて待つマリー。
テレジアがマリーの手前で足がもつれた。
倒れ込むようにしてマリーの胸にテレジアはもたれかかった。
「ぜえっぜえっぜえっ」
「お母様、大丈夫ですか」
テレジアの体力は限界、いわゆるガス欠状態になっていたのだ。
六十代の女性にしてはむしろ今までよく持った方だろう。
「ぜえっぜえ、マリア〜!!」
それでももたれながら両手でマリーに掴みかかる。
マリーはその両手を掴むと内側に捻りながら一歩下がった。
腕を引かれたテレジアはぱたんと膝をついてしまった。
マリーは合わせて膝をつく。
「お母様、今日は最後まで私にお付き合い下さりありがとうございます」
「黙れ〜!! お前のせいで、ぜえっぜえっ」
「フランスとオーストリア。両国ともに仲良く友好を深めるために邁進します」
「どこが! 糞の王女でできるか!!」
「この国を良くする為には泥にまみれるのも厭いません。その気持ちをお母様にも理解して頂きたかったのです」
「泥にまみれる? できるか……できるかそんな事!! ぜえっぜえっ」
テレジアは自分の手を見た。
肥料まじりの土にまみれた……
「なんで……私が……ぜえっぜえっ…………こんな目に! こんな泥まみれに…………こんなつもりでは!!」
「私はそれで大丈夫です。それを民の役に立てる所存です」
「うるさい! どうして……どうしてこうなった…………」
テレジアの目から涙が溢れ出した。
悔しさに顔をくしゃくしゃにして。
マリーの目からも涙が浮かんだ。
「お母様。お母様はお母様なりに心を痛めていらしたんですね」
「…………」
「それらを飲み込んだ上で私は私の道を進む覚悟です。お母様は私の気持ちを少しは理解して下さいますか?」
涙がとめどなく流れる中テレジアは無言でうつむいていた。
「…………理 解 で き る か 〜!!」
「やっぱりですか、うふふふ」
涙をふきつつマリーは笑った。
叫び終えたテレジアはぐったりと顔をマリーの肩にうずめた。
「はあ、はあ、はあ、はあ…………」
「お休み下さい。お疲れでしょう」
「マリア〜〜……」
「マリーですよ、うふふふ」
テレジアはめまいを感じていた。
このまま娘の懐で眠りに落ちるのは屈辱でしかない。
だが最早…………どうでもいい気持ちに…………
「 な っ て た ま る か 〜!!」
ごんっ!!
テレジアの額がマリーの額にごっつんこした!
互いの頭部が反動で反り返った。
「お母様…………凄い…………」
反り返って倒れるテレジアの方を同じく反り返って倒れるマリーの手が伸びてつかんだ。
手が引き寄せられ再び抱き合う母娘。
「お休みなさい……お母様…………」
二人は抱き合ったまま動かなくなった。
やっと終わり。
かなり暴力的な戦いでした。
周りも大変だったでしょうが後始末はどうなるの?
はたして母娘の仲は雪解けに向かうんでしょか。




