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第四百三十二話 鬼ごっこ


 




 

 ごろごろごろごろっ


 縞状に土を盛った耕地にマリーとテレジアは転がり込んだ。

 盛られた土に乗り上げ二人はやっと停止した。

 テレジアはマリーを突き飛ばし立ち上がった。

 マリーも立ち上がる。

 互いに土の盛られた部分をまたいだ形となった。

 身体中土まみれの姿で睨む母、眺める娘。


 「はあっはあっはあっ、マリア〜!!」


 「お母様」

 

 泥だけでは無い、臭いも漂う。


 「お母様、ここまでして私を思い通りにされたいのですか」


 「当たり前だ!!」


 荒い息の中でも激しい声。

 

 「ここは耕した土。さっき言った肥料の混ざった土です。その中に自らまみれてまで意志を押し通す。たいした意志です」


 「うっ!!」


 「そこまでできるとは思いませんでした」


 「ぬうっ」


 この土、この臭い、今娘にまとわりついている汚ならしいものが自分にも同様にまとわりついている。

 それを自覚したテレジアに怒りと別の感情が湧き起こった。

 その表情に浮かぶのは……悔しさ。


 「ふうっふうっ、あんたって娘は、あんたって娘は〜! よ く も 私 に 生 き 恥 を〜〜!!」

 

 突進を開始したテレジアに対しマリーは後退を開始した。


 「おのれ、待て!!」


 「こちらです、お母様」


 追いかけるテレジアと等間隔をおいてマリーは後退する。

 

 「またんか、止まれ〜!」

 

 マリーは背を向けて逃げ出した。

 こうなると完全に鬼ごっこ状態だ。


 「はあっはあっ、マリア〜!」


 やがてマリーは円を描いて走り出しテレジアはそれを追いかけて回っていく。





 「女王があんな姿であんな事を……」


 モルパは唖然と見つめていた。

 もう取り入るとかどうとかの話では無い。

 

 「ああ、女王様がどうしてあんな事を…………尊敬してたのに〜!!」


 ベルタン夫人が悲鳴に近い声をあげた。

 カンパン夫人はうつむき目を隠していた。

 最高位の女性という憧れの姿が打ち砕かれたのだから無理もない。


 疲れた顔でブザンヴァルがつぶやきを漏らした。


 「これが親子というものか……フランスとオーストリアの今後が…………」


 ビロンは悠然と眺めながら微笑んだ。


 (さすが女帝と暴れん坊はやる事がはみ出している。しかしどうケリをつけるおつもりか、王妃様……)


 やはり傍観は楽しいと感じ入るビロンだった。





 

 「二人は……何をやっているのだ?」


 国王は半ば呆れながら母と娘の鬼ごっこを見ていた。

 

 バジーが答えた。


 「追っかけっこですよ。母親とちっちゃい子がよく遊ぶあれです」


 「大人同士だが?」


 「さあ、童心にでも帰ったのですかね?」


 「なら…………見ているだけでいいのか?」


 「まあ、さっきよりは切羽詰まった感じは……なあ、カーク?」


 振られたカークは表情を硬くして答えた。


 「ずっと介入したかったのだ! 今も……」


 母娘は相変わらず円軌道を付かず離れずで周回していた。

 

 (介入するタイミングを失った…………)





 

 鬼ごっこになってしまった。

 ど突き合いより平和的ですが。

 こうなるとスタミナ勝負でしょうか?

 そろそろ親子喧嘩も終盤に……なってるかな。

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