第四百三十話 昔を懐かしむ
「マリア〜……!」
間合いに踏み込んだテレジアがクワを振り下ろした。
がつん!
クワとクワが交差する。
マリーは受け止めたクワの力を押し計っていた。
相手が火事場の馬鹿力を出せるからだ。
マリーには今テレジアに対してやる事があった。
一つはバジーも言っていた母を無傷で止める事。
そしてもう一つは母の意志ととことん受け止め、その上で自分の意志を伝えきる事。
鉄器の部分同士を絡ませマリーはクワを引きながら捻りを加えた。
テレジアがバランスを崩し体を泳がせる。
マリーの力の制御の技だ。
「ふんっ!!」
テレジアが足を踏み出し強引に踏みとどまった。
ぶんっ
テレジアがクワを振り回すとクワ同士の絡まりが解ける。
再びクワを構えるテレジアにマリーは舌を巻いた。
合気の技を胆力で退けた。
興味深い経験をさせてもらったが楽しんではいられない。
マリーは腹を決めた。
テレジアが叫ぶ。
「あんたという子は!!」
ぶうんっ!
今度は横殴りにクワが振り回された。
さっきより更に激しい勢いだ。
マリーも合わせて振り回した。
がきいいっ!!
クワとクワが激しくぶつかり合った。
反動でクワ同士が宙に弾け飛んだ。
マリーは両手がじんじん痺れているのを感じた。
あえて技を使わず力任せに振り抜いた代償だったが……
(ああ、心まで痺れます……お母様の心、受け止めて見せます!)
「マ〜リ〜ア〜……」
唸るテレジアにマリーは進み出る。
「私はもうマリーですよ」
「口答えしない!!」
母の張り手がマリーの頬に飛んだ。
マリーは母の手が触れた瞬間、力を流す様に頬をずらした。
ばちいんっ!
音だけは派手なビンタが成立した。
「ああ、マリー様が!?」
「マリー様??」
カークとビスケが揃って声を上げた。
「どうした?」
国王が狼狽えつつ二人に問いかけた。
「マリー様が引っぱたかれる所など見た事ない…………」
「私も見た事ないが?」
王の言葉に焦るカーク。
「あ、いえ、そうですね……」
過去目撃した戦歴の中での話とは言えない。
カークはしれっと母娘に視線を戻した。
「子供の頃はよく頬を打たれました。あの頃はとても怖かったです」
「あなたはいつもおいたをしては私に怒られてその度ごめんなさいと謝った、なのに! 次の日はまたおいたを繰り返し続けた! あの時のごめんなさいは何だったの!?」
「あの頃は子供だったもので……まだ反論できる歳じゃなかったです」
「反論など無用!!」
「よくおだまり!! と言われましたね」
「おだまり!!」
でんっ!!
今度はおつむをゲンコを落とされた。。
「お懐かしい……これも主に馬で外出した時に。いかに衝撃を軽くするか工夫してました」
「反省しなさい!!」
マリーは口元をほころばせた。
「……変わりませんね、お母様」
「あんたが変われ〜!!」
落としたゲンコをぐりぐりしまくるテレジア。
(あら、知ってるよりずっと痛い。火事場の馬鹿力かしら?)
緊迫したバトルが過去を懐かしむ親子喧嘩に。
緊張の中のひと時の緩和。
それでも殴られたりしてるんですがね。
今の時代では考えられない拳でのコミュニケーションでした。




