第四百二十五話 見学のお約束
「これはモルパ殿、お久しゅう」
馬車に接近していたモルパとユルリックの前にビロンがゆったりとした歩調で歩いてきた。
「ふう、ふう、ビロン元帥! どうしてここに……?」
息も荒く尋ねるモルパ。
「僕はマリー様とご一緒にここに来まして、テレジア様をお待ちしておりました」
「何! 馬車がここに来るのを知っていたのか?」
「はい。道すがらテレジア様とどんなお話をされたのかを聞きましたよ」
「ぬぬぬ……」
先を越されたと実感したモルパの表情が濁る。
「それでです、あ、ブザンヴァル殿お待ちしてました」
息も荒くやって来たブザンヴァルと兵士達。
ビロンは両手を広げ声を上げた。
「皆さん、お待ちしてました。まだ来られてないお方もおりますが皆様にお願いがあります」
「お願い?」
モルパが怪訝な表情を作る。
なんでこの男が仕切っているのか。
「皆さん女王様に謁見を希望したいのだと思いますが、しばらくお待ちを。これから女王様と王妃様が親娘の対話をなされる所ですので」
「対話だと?」
怪訝な表情が疑惑の表情に変わる。
「そう。我々の入る余地の無い母と娘ならではの。ですので迂闊に女王様近付くのはご遠慮を。もし近付いたら……」
「近付いたら?」
「一切責任持てません!」
モルパの疑惑の表情が怪訝な表情に戻った。
「……なんだそれは?」
「まあともかく…………我々は傍観者に徹しようと言う事です」
「何を言う! そんな勝手な事が……」
そこまで言った所で馬車から降りる黒い人影がモルパの視界に入った。
人影が大地に立った。
遠目に見ただけでも分かるその存在感。
しかも何らかのオーラを発しているかの様だ。
迫力が立っているとでも言えばいいのか。
「うう……女王様…………怖そう〜」
一度テレジアと接触していたモルパだがその時より更に恐化されている様に見えた。
こんなのどう近付けばいいのだ。
うめく様な声を出すモルパにビロンが囁く。
「分かりましたか? ここは邪魔をしてはなりませんぞ」
「…………」
モルパは無言でいる事で同意を示す事になった。
ビロンは小枝を拾い地面に横線を引いた。
「この線を踏み越えて近付かない様に。重ねて言いますが我々はあくまで傍観者としてここにいるのが身の為です」
「身の為、か?…………」
何か説得力があった。
こうしてビロンの仕切りにより馬車を追って来た者達は女王と王妃の姿の見物人と成り果てるのだった。
来たのはいいが見てるだけ。
しかしそれも仕方ない。
お互いの為にも接近しては駄目です。
お膳立ては整いましたが……いつの間に戦う事前提になってるの?




