第四百二十四話 テレジア大地に立つ
小トリアノン跡。
かつて新古典主義建築の最先端の離宮が建っていた場所。
しかし今や畑が場違いに広がっている場所に変貌していた。
そこにある唯一の建物である小屋の前に立っているのはマリーとカーク、ビスケ、バジー。
そしてマリーの傍にはビロン元帥も立っていた。
「おっと馬車が来ましたね」
遠目で見ながらビロンがおっとりとした口調でマリーに話しかけた。
「そうですね、待ち遠しい気持ちでいっぱいですよ」
笑顔で答えるマリーにビロンも苦笑した。
(そんな台詞を嬉々として言えるとは、今朝の対面で相当激しいやり取りがあったと聞くが……)
ばたん。
小屋の戸が開き、国王が護衛達と共に出てきた。
「あなた、中はどうでした?」
妻の問いに王はゆったりと答えた。
「うん、割と設備は整っていたな。風呂まであるのは驚いたよ。寝泊まり用のベッドもあったな」
「はい、農作業の人が快適に休息できる様に。今日はお母様が来るので掃除をしておきました」
少しばかり驚き気味に王は問いかけた。
「君がかね?」
「はい。私がここに来てから国王様がくる間に。ここにいる皆さんと一緒にしましたのですぐに終わりました」
「それで私より早く出たのか」
「ちなみにここにいる皆さんとは僕も含まれます」
ビロンが口を挟んできた。
「ああ、……そうか」
王は半ば呆れ気味に答えた。
「王妃様には敵いませんよ。王妃様自身がやると言うのなら僕もやらない訳にはいかない空気になる。そこら辺がうまいんですよ、王妃様は」
愉快そうに笑うビロンを王は複雑な顔で見ていた。
これは妻の良き理解者と喜べばいいものなのだろうか?
馬車が近付いて来た。
ビロンは国王夫妻に軽く会釈した。
「馬車の後ろにかなりのお人がいる様子なので私はその方々のお相手をさせて頂きます。では失礼を」
王が立ち去るビロンから視線を移すと確かに馬車の後方に人の姿が見える。
「なんだ……何してるんだ?」
小屋の手前で馬車が止まった。
ドアが開きメルシー伯、護衛達が降りた。
最後にゆっくりと黒色の塊の様な存在が姿を現した。
相変わらず強力な気迫が発散されている。
ざっ
オーストリア王国の女帝マリア・テレジアが地に降り立った。
なんとなく最終決戦の地に降り立った感がある女王様。
マリーとのケリは付くの?
まだ滞在期間の最初の方だと思うけど……




