第四百二十三話 行く馬車追う人
ヴェルサイユ宮殿を後にして進む馬車の背後を付かず離れず早足で追う者達。
身なりは最上級レベルの衣装をまとっている。
こんな風体でせわしなく早歩きしている何人かの男女が馬車の尻尾の様に連なっている。
馬車の速さは人が早足で歩くくらいだ。
馬車に追い付いて挨拶する訳にはいかなかった。
わざわざ馬車を止めてしまうと失礼にあたるからだ。
「ふうっ、ふうっ、どこに行くのだ、あの馬車は?」
モルパは息を切らしながら問いかけた。
七十過ぎの男にはかなり堪える運動だった。
しかし行く場所が分からないので見失わぬよう追いかけるしかない。
だがそろそろ行き場所が特定できそうだ。
「あの方向は小トリアノンでは?」
答えたのはユルリックではなくモプーだった。
彼もテレジアに取り入りたい人種の一人だった。
モルパが返した。
「馬車でか?」
「確かにヴェルサイユからわざわざ馬車で行く様な場所じゃないですな」
そう、徒歩で十分な距離だった。
「まあ女王様の勝手ですが」
「事前に分かっておればこんな事をせずに済んだものを! はあっ」
「モルパ様大丈夫ですか?」
並走し気遣うユルリックにモルパは叫ぶ。
「急げ! 他の者に遅れをとるな!!」
(元気だな〜、その歳で)
感心するユルリックだった。
その背後に続くのはいかつい軍服を着た五十代半ばの男と兵士が二人。
ブザンヴァル男爵も女王に取り入ろうとする一人だった。
「馬車を追う羽目になろうとは……女王様はどちらへ?」
「あの方向は小トリアノンでは? ふう……」
モルパから遅れてしまったモプーが答えた。
「ふう、ふう、私はもういいです。場所が分かれば一番乗りでなくても構いません」
言いながらモプーは後退していった。
見送るブザンヴァルは前に向き直った。
(できればいの一番に女王様に謁見したいものだが……あの爺さんタフだな〜)
その背後を足取りもたどたどしく追いかけるの二人の二十代の女性。
ベルタン夫人とカンパン夫人、及び小間使い二人だった。
彼女らは最後尾。
元々ヒールを履いての追跡が無理な話だった。
「はあ、はあ、これはもう無理ですわ」
諦めの言葉を漏らすカンパン夫人。
「何を言ってるの、女王テレジア様と言えば私達女性の憧れの的! 一国の頂点に登りつめた正に最高位の女性! 御目通り願えるならこれ程の光栄はないわ!!」
ベルタン夫人の叱咤激励にもカンパン夫人の意気は上がらない。
そんな二人の前方からモプーが接近して来た。
正しくは二人が追いついてきたのだ。
「ご婦人方、ご苦労様です。馬車は小トリアノン行きで決まりでしょう。ですので私はゆっくり歩いて行きます。ご一緒に行きませんか?」
この提案にカンパン夫人は同意しベルタン夫人は拒否し前へと進んで行った。
ヴェルサイユ宮殿から小トリアノンまでどれほどの距離があるのでしょう?
パリまでよりはずっと近いけど。
馬車で行くか徒歩でいいか良く分かんない。
普通に歩くんならその方が健康的かも知れないですね。




