第四百二十一話 持ち越される
「な〜にを言っておるんですか〜〜…………!」
重低音の声が響く。
皆が振り返ると六人の護衛にしがみつかれ六十そこそこの女性が前進をしようとしてた。
観衆は困惑の顔をする。
さっきからこの人何をしたいのだろう?
国王は食事をしながら周りの様子に神経を尖らせていた。
いつもはそんな事やりはしないのに。
王妃とノワールの会話がひと段落するまで食事の終わるタイミングを測っていたが、今別の要素が入ってきた。
状況が変わった事を彼は察知した。
がちゃっ
食器の音がした。
マリーが敏感に反応する。
「では皆様今日はここまでと致します。お疲れ様でした」
おお〜〜〜
「お気をつけてお帰り下さい」
観衆が後ろを気にしながら、しかし逃げるように立ち去っていく。
彼女の危険性を感じていたのだ。
「待ちなさいいいい〜!」
ずんっ
とうとう彼女が前進を始めた。
カークやビスケまで取り付いて止めようとしていた。
「マリー様、ここは早く退室を〜!」
カークの声にマリーは外へと歩を進め出した。
出口前に来た時マリーはテレジアに振り返った。
「ご観覧頂きありがとうございました。お次は私の畑へご案内しますね」
「うお、待ちなさい〜! 待 て え え え〜〜!!』
女王の叫びは無視され王妃はドアの向こうに消えて行った。
「王妃様、お母上が一日早く到着されたそうですね」
小トリアノン跡に出かける準備に行こうと廊下を歩いていたマリーに声をかける者がいた。
廊下には彼ら以外いなかった。
マリーは振り返りながら答えた。
「おや、ビロン元帥様。お久しぶりです」
「王妃様、久々にお会いできて光栄でございます。同じ宮廷にいながら中々お会いできませんで残念な気持ちでいました」
「私もですよ。会えば楽しいお話もできたでしょうに」
「お母上とはお会いになってどうでしたか?」
「はい! 再開できると思ってませんでしたから感激もひとしおでした。とても喜ばしく濃厚な時間を過ごしました」
(濃厚…………?)
ちょっと違和感感じたがとりあえず話を続ける。
「これからの予定をお聞きしてもよろしいですか?」
「ああ、これから小トリアノン跡に母をお連れする所です」
「えっ、あそこへ?!」
「はい」
ビロンはここで躊躇した。
場所が場所だ。
よく女王が同意したなと思いつつ、それも興味深いかと考え直した。
その上で。
「わたくしもご一緒してよろしいでしょうか?」
「はい、喜んで」
「ありがとうございます。ところで……」
ビロンは声をひそめた。
護衛のカークとビスケには聞こえる声で。
「女王様の来仏を知らされた一部の重鎮達が女王様に取り入ろうと動いてます。一日早く到着した為に皆慌てています。謁見の予定が狂ってしまったと。女王様の行動を追い求めている状態で」
「ほう、そうですか」
「ですので小トリアノン行きを嗅ぎつけた者達がいれば一斉に馳せ参じるかも知れません。自分のように。まあ僕はそういった人達を傍観するだけにするつもりですがね」
「そうですか。実は国王様も行くとおっしゃられているのです」
「えっ? 国王様も……それは大事になりそうですね」
「興味深いですか?」
「えっ」
「うふふふ」
「参りましたね。僕の気質を分かっていらっしゃる」
マリーは笑みを讃えながらビロンに囁いた。
「では私からも。一日母の到着が早くなりましたが謁見の儀は明日で変わりません。母の興味がひたすら私に集中しているみたいで。なのでそうなりました。今日一日余裕ができた訳です。と言う事はです」
にわかに話がビロンの好きそうな展開になってきた。
ビロンは息を呑んでマリーの言葉を待つ。
「母とは今日中に一つの結果を出します…………つまりけりをつけるという事です」
「!!」
想定外の発言だった。
ビロンはテレジアがマリーに書いた壮絶な手紙の内容を知っている。
その母とのけりをつけると言うのだ。
(これは……とてつも無い事になりそうだ…………)
ビロンは小トリアノン跡では絶対傍観者に徹すると心に誓うのだった。
あれほど怒っているのにまだ先延ばしになってしまった。
テレジアはまたもや怒りを溜め込む事に。
全解放するのは小トリアノン跡となるでしょうか?
ええと、更新日限りの事になりますが来年も良いお年を!




