第四百十六話 およそ場違い
早い朝食をとったテレジアにに対し国王夫妻はこれから食事をする所だった。
いわゆる国王の食卓。
太陽王ルイ十四世の時代より続く民に食事の様子を見せる劇場型の習慣だった。
いつもの様に観客が詰めかけていた、が普段と違う光景が見られた。
いつもより数が多い護衛に紛れて黒衣の女性が立っていたのだ。
当然観衆の目がそっちに向く。
あの人一体なんだろうと。
しかし彼女から発散されている異様な覇気に誰も言葉にはできない。
マリーはいつもの様に国王が半分も食べていない内に食事を終えた。
国王に軽く会釈をすると席を立ち観衆の方に向いた。
「それではお話しを始めましょうか」
おお〜
観衆の声が室内に広がる。
その様子を見てテレジアがいぶかる。
何が始まるのかと。
「何か私にお話ししたい事があるお方は?」
ここぞとばかりに数人の観衆が手を上げた。
「では、あなたに致します」
指されたのは若い女性。
彼女はうやうやしく挨拶をしてから話し出した。
「先日は夫を励まして下さってありがとうございました」
「ほう?」
「夫は下水道の掘り起こしの仕事をしてます。仕事が終わり体を洗う際、マリー様がおいでになって石鹸を頂き励ましのお言葉まで頂きました」
「おお、そうでしたか」
「それで夫が石鹸を持ち帰って来て……余ったから使えと。食器洗いや洗濯に大変役に立って!」
「……確かに。石鹸を切り分ける時大ざっぱでしたからね。作業員の皆様に存分に使ってもらおうと思ってました」
「まあなんて気前のいい! さすが王妃様」
「いえ、大したことは無いですよ。ただ皆さんに喜んでもらえれば」
(なんの会話だ〜!)
マリーと女性の会話を聞いてテレジアは苛立ちを隠せない。
(これが王妃のする会話か?! たかが下々の民にあんなにも馴れ馴れしく! あれでは王妃の威厳がまるでない! しかも…………なんで他愛もない会話を取り留めもなく…………いつまで続くんだ〜!)
彼女の体に怒りの感情が充満していく。
「石鹸は作業所のテントに全部行き渡らせる様にしましたので作業をしたら必ずもらえます。一人一個限りですが。うふふふ」
「行き届いてますね〜」
「おい、ちょっと待った!」
突然女性の背後から男が飛び出してきた。
なんだか狼狽えているみたいだ。
「話の途中だが聞きたい事があってよ」
「親、何ですか」
冷静にマリーは男に聞き返す。
「さっきから気になっていたんだがよ」
男が恐る恐る振り返る先には……
「後ろの方からなんか得体の知れない気配ちゅうか空気を感じるんだが……」
観衆もそちらをおっかなびっくり振り返る。
男は息を呑むと今まで聞き辛くて聞けなかった事を遂に聞いた。
「あの人は一体なんであそこに…………」
振り返った観衆は黒衣の女性の発散する異様なオーラを感じ、一斉に目を伏せた。
なんなの、この怖い人……
「ああ、あの方ですか」
マリーが明るい声で答えた。
「あの方は去る高貴な家柄の御夫人で、お忍びで国王の食卓の有り様を見学にいらっしゃっておられます。ですのでお気になさらずに」
お気になさらずにと言われてもあれをどうして気にしないでいられる?
「では次のお方」
次いくんかい〜! と心の中で突っ込む観衆。
「では僕が……」
身なりのいい男が前に出た。
「王妃様が自ら指揮してパリの浄化を行うのは感嘆にに値します。しかしそれを快く思わない輩もおります」
「ほう。そんな人おられるのですか?」
( わ た し だ あ 〜〜!!)
なんで国王の食卓なんかにテレジア呼ぶの?
マリーがいるから仕方ないのかもしれんけど。
ストレスが溜まるよね。
国王の食事が終わるまでどんな話題が飛び出すやら。




