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第四百十五話 お呼びでない男




 

 

 

 その後女王マリア・テレジアは貴賓室に籠りっきりで誰も寄せ付けずに一晩を過ごした。


 そして朝がやって来た。

 


 テレジアは朝食を王族と共にする事はせず、貴賓室にこもって食を取った。

 テレジアの来仏を知らされたごく一部の重鎮達は来仏が一日早くなった事もあってかまだ謁見は実現していなかった。

 何よりテレジアの目がマリーにしか向いていないので、謁見の挨拶をするお膳立てをうまくできそうになかったのだ。



 「うむむむ、早く女王様に御目通りせねば!」


 モルパは宮殿の廊下をいそいそと歩いていた。

 テレジアの来仏を知らされた重鎮の一人である彼は、謁見の予定がまだ決まらない事が腑に落ちなかった。

 いくら一日早く着いたとしても今日くらいには挨拶の場は与えられるはずだ。

 にも関わらずお達しは全く無い。

 事情はわからないが…………


 「それならこちらから行くまでだ」


 今、お目通りできれば一番乗りできるかも知れない。

 ヴェルサイユ宮殿内にいるのだからたまたま出会っても不思議はない。

 偶然を装って会えばいいだけだ。

 女王のご機嫌をうかがいう上手く取り入れば……

 

 「女王の居場所は貴賓室のどれかだ。すぐに見つけられる!」


 早足で歩くモルパにただ一人のお付きであるユルリックが懸命に追いかけていた。


 「モルパ様、お待ちを〜」


 モルパ達がいくつかの貴賓室の一つに近付くと、そこには物々しいまでの護衛が何人もドアの前にずらり並んでいた。


 (ここだ!)


 モルパは確信した。

 ここが女王テレジアのいる貴賓室だと。

 モルパは足を止めた。


 (さて、どうやって入るか。あちらにも都合がある。こちらから気安く謁見を求めて大丈夫か?)


 などと考えていたら。

 貴賓室のドアがぎぎいっと音を立てて開き出した。

 モルパが目を見開いた。


 (なんたる幸運! ちょうど部屋を出るところだったか。これで無理なく女王に会えるではないか!)


 モルパはさりげなくドアに向けて歩を進めた。

 開いたドアからメルシー伯が出てきた。


 (メルシー伯! これで完全に間違いない。しかしやけにやつれた感じだな……?)

 

 いぶかるモルパが貴賓室の手前まで来た時、黒い衣装をまとった人影が部屋から足を踏み出した。


 (おお、あの黒のドレスはまさしく女王マリア・テレジア! この機を逃してなるものか!)


 モルパは更に一歩踏み出た。

 黒衣の女王がモルパに振り向いた。


 「これは女王マリア・テレジア様……」


 ずずずんっ!


 女王ののしかかる様な視線がモルパに迫る。


 「あ……」


 その威圧感にモルパは思考も起動も停止した。

 

 「何ですか?」


 押し潰す様な声と共に護衛が彼女の周りを固める。


 「どなたです?」


 凄みのある問いにモルパはやっとの思いで答えた。


 「き、宮廷大臣の……モルパでございます……本日は女王様にご挨拶をと…………」


 しばらくの沈黙。


 (な、何だこの人、なんで朝っぱらから怒ってるんだ〜?!)


 何かため込んだものを吐き出すみたいに女王が沈黙を破った。


 「モルパ殿!」


 「は、はい!」


 「今は取り込み中ですので……挨拶の儀はまたいずれ」


 「……」


 テレジアが一歩前に踏み出した。


 ずずずん!!


 「それで よ ろ し い ですね!!」


 「ひいっ!」


 あまりの威圧感に腰が砕けそうになるモルパ。

 

 「分かったらお引き取りを!!」


 「は、はい〜〜!」


 慌てて来た道を引き返すモルパ。

 ユルリックもおろおろと主の背を追いかけて行った。

 

 テレジアはそのあり様を一瞥すると一言漏らした。


 「余計な時間を……!」




 「あ〜怖かった……」


 モルパは息を切らして壁に背もたれ尻餅をついた。

 ユルリックも同様だ。


 「モルパ様、女王ってあんなに恐ろしい人なんですか?」


 「わしもあんな怖面とは知らなんだ」

 

 「いつも常にあんななのですか?」


 「そ、そんな馬鹿な……」


 だがもしそうだったら…………


 (母娘揃ってとんでもない奴だ! ……あんなの二人揃ったら…………一体どうなるんだ〜?!)

 


 

 


 テレジアが出陣。

 モルパはお呼びでなかった。

 狙いはマリー一人。

 でもどこで二人はかち合うのでしょうか?

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