第四百十二話 王にも絡む
「あの女を、ヒバリコをお前のそばに置いたのが間違いだった…………」
唸る様に呟くテレジアにマリーは普通に言葉を返した。
「ヒバリコ先生は私に人としてどうあるべきかを教えて下さいました。最高の師です」
「違う!!」
「私が民の為に行動する為の術と力を授けて下さいました。感謝してもしきれないです」
「違うう!!」
「ヒバリコ先生に王女としての生きる道を示して下さいました。今の自分があるのは先生のおかげです」
「それが違うと言っている!! あの女は、ヒバリコは、お前にとって、我がハプスブルク家にとっての疫病神だあ〜〜!!」
「お母様がなんと言われようと私はヒバリコ先生の教えを胸に民の為に行動しこの国の良き未来を作るだけです」
激情に塗れた言動と対照的にごく普通に発せられる言葉。
そして話の内容は平行線。
(いつまで続くのだ、この様な言い争いが……)
国王ルイ十六世は身動きもせず対峙する母娘を傍観していた。
止める方法がまるで思いつかない。
しかし立場上止めるとすれば自分になるのだろう。
(どうすれば良いか……)
と思っていたらまたテレジアがマリーに向けて手を伸ばした。
「私はヒバリコを認めない〜〜!!」
ばっ
伸ばした手にカークが立ちはだかった。
「お待ち下さい!」
手がカークの分厚い胸に当たった。
「むっ、邪魔だ!!」」
「今まで我慢していましたがもう黙っていられません!」
「なに!?」
「どんな理由であれマリー様に手をかける事は認められません! 私は王妃マリーアントワネット様の護衛なのです!」
「これは親娘の問題です! 邪魔立ては……」
「テレジア殿!」
声の方をテレジアは振り向く。
国王だった。
「テレジア殿。ここは親娘喧嘩の場所ではない。控えて貰いたい」
ぎろっ!
テレジアは王を睨みつけた。
王の顔から血の気が引いた。
分かっていた事だがこの剣幕に晒されると身がすくむ。
それでもここはなんとか……
「……あ、あなたにはあなたの主張があるのだろうが、感情むき出しになってやられては周りが困る。それに…………我が妻のやり方にご不満があるのは分かったが……確かに妻のやり方は強引であり自らの手を汚す……いや、汚すと言っても政治的、策略的な事ではなく直接的に現場で汚すという意味であって、その、彼女は自ら最前線に赴き行動する覚悟があるのです。それは民を思う一途な気持ちからの行いなのです」
「だから現場で汚れてどうするのですか〜〜!!」
「ですから……」
「現場の、最前線の仕事など下々の者に任せれば良い! それをなんでわざわざ一国の王妃が……我が子が……やらねばならないのですか?! 何故一国の国王がそれを許す? 何故、なぜ、な ぜ で す か 〜〜!!」
さっきまでマリーにぶつけて来た気迫をそのままぶつけられ国王は怯みまくった。
それでも国王なのだからなんとかこの場を納めねば……その使命感からぎりぎりの所で踏みとどまっている。
「…………私は…………私は妻に一目置いている。その行動力、その志に。やりすぎる事もあるがそれも民を思うが故だ。だから今まで容認してきた」
「こっちに伝わってくる伝聞醜聞はどうなる〜! 糞の王女はそのままの意味で受け止められている!!」
「だからです……」
マリーは夫の姿を半分驚きの目で見つめていた。
まさか夫がここまで母に渡り合うとは……そしてそれは自分の為にしている事でもある。
(ああ……私の為に…………なんと凛々しい!)
両の瞳を輝かせながらマリーは挟もうとしていた口を一旦引っ込め見守ることにした。
「マリーは汚れたパリを浄化しようと糞尿を回収し農地の肥料に使おうとした。自ら率先して行ったのでそれが糞の王女という、その、不本意な呼ばれ方になったのだ」
あまり不本意そうでは無かったがそうしとこう、と思いつつ王は言葉を続けた。
「だがパリの浄化は大変重要でありながら誰も手を付けなかった課題でもある。そんな前人未到の課題にマリーは取り掛かり、具体的な策を提示して実行に移したのだ。だからパリの浄化が成功したらそれは王妃の功績であり、糞の王女の名も返上されよう。そういう事なのでもう少し王妃の行いを見届けてもらえないだろうか」
女王は国王の言葉に対し体が動こうとするのを堪えつつ聞いていた。
「国王である私が認めているのだ。確かにここまでやるかとは思ったりする時もあるが。だから我が妻の、王妃の行いをもう少し見届けてもらえまいか? 伝聞や少し覗き見た位のものではなく近くで娘の行状を確かめてはもらえないだろうか?」
(で 〜 き 〜 る 〜 か 〜!!)
怒りが収まらず王にも飛び火しちゃった。
だけど王様以外としっかりしてた。
がんばれ国王!
もう一息だ! …………と思う。




