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第四百十一話 怒りで限界を越える





 

 「あいつのせいで〜〜!!」


 怒号は続く。


 「ヒバリコさえいなければ〜〜!!」


 「私は野犬に食い殺されていたでしょね」


 冷静な突っ込みが入った。

 ここに至ってもマリーは落ち着きを保っている。


 「ヒバリコ先生は命の恩人です」


 「その後だ〜〜!! あの女は私の大事な末娘に何を教えた〜!?」


 「かけがえの無い事を……」


 「ろくでも無い事だろが〜〜!! 文字、フランス語、足し算までは良かったがそのうち馬術まで、しかも五歳の時に教え始め馬の世話まで自分でさせた挙句、その馬に乗って課外授業と称して城外へ連れ回し、およそ王女とかけ離れた愚行を教え込んでおったであろうが〜〜!!」


 「城外では実のある経験を、教えを受けました。民の為に役立てられる様なものばかりでした」


 「どこが〜〜!! あの女のせいで、あ奴のせいで我が子がこんなあばずれに! 悔やんでも悔やみきれない〜!! あ奴さえいなければ……あ奴さえいなければ…………あ な た は ま と も な 王 女 に 育 っ て い た の に ぃ ぃ ぃ〜〜〜!!」


 上がる一方のボルテージでテレジアはマリーに向かい身を乗り出そうとした。

 当然左右から抑えている護衛は阻もうと力を入れた。


 「ぬうううっ」


 テレジアが歯を食いしばると……


 「ううっ、えっ?」


 護衛達の体が揺らいだ。

 テレジアが体をぶるんとゆすると護衛らがふらつき倒れてしまった。

 

 「この馬鹿娘〜〜!!」


 母の上半身が娘の眼前にのしかかってくる。

 伸ばす両手が顔面を捕えんとした時!


 はっし!


 マリーは手を交差させてテレジアの両手首を掴みとった。

 テレジアの両腕を肘の辺りで交差させ肩に乗せた。

 

 「ぬう!」


 テレジアが呻く。

 身動きが取れなくなったのだ。

 マリーは表情を変えない。


 「お母様、落ち着いて」


 動きは止めても痛みまでは与えないつもり、だった……


 「黙れ〜〜…………」


 テレジアは腕を無理矢理動かそうとし始めた。

 それは痛みを伴う行為となってしまう。

 しかし一切構わず腕は軋みながら動き続け、更に掴まれている手がそり返る。

 そして人差し指があらぬ方向に曲がり出しマリーの手に引っ掛かろうとした。

 次に中指薬指が追随していく。


 マリーの顔に驚愕が浮かぶ。


 (こんな……ありえない!?)


 完全に人体の理に反発している。

 合気の技をも無視したこれは…………!


 (こ、これは…………もしや…………火事場の馬鹿力!?)


 人の一途な意志が肉体に制御を課せられた力の限界を超え、あり得ない動きと力を発揮するという。

 それを火事場の馬鹿力と言う、と師から教わっていた。

 その火事場の馬鹿力を今、母が…………


 人差し指がマリーの手に引っかかり、次に中指薬指が……


 「ぬうっ!!」


 テレジアが手に力を込める。

 それは我が身の一部を壊しかねない動作だがそんな事本人は考えてもいなかった。

 ただ娘を制圧せんが為!


 ばっ! ずたっ!!


 マリーは母の両腕を離し飛び退いた。

 距離が離れたテレジアを直視する。

 

 (これが……母! 女王マリア・テレジア!!)


 もしマリーが手を離さねば母の手は壊れ、そして壊れた手で捕まえられていたかもしれない。


 (強さとは、技量だけではない!)


 母は凄まじい形相でマリーを睨み付けている。

 彼女は気迫で暴れん坊王女を圧倒していた。


 



 

 火事場の馬鹿力を使えるテレジア。

 元々使えたのかマリーへの怒りが限界を超え覚醒したのか。

 こんなのと暴れん坊を戦わせてていいのか?

 止める人の方が危険かもしれないですね。

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